緊急特集

医療職の働き方改革と
地域医療は両立できるか。

医療職の働き方改革
地域医療は
両立できるか。

日本では今、政府主導のもと、働く人の視点に立って、
労働環境の抜本改革をめざす「働き方改革」が進められている。
医療界においても、医療職、なかでも医師に対する働き方改革が動き出した。
そして、その改革は、医師の超過勤務の上限を定める方向で進められようとしている。
今後、医師の働き方改革が進むと、地域医療の現場にはどのような影響がもたらされるだろうか。

Subject

01

どうして今、医師の働き方改革が必要なのだろうか。

病院で働く勤務医の長時間労働による肉体的・精神的健康被害が問題視されている。勤務医の業務は、外来診療、入院診療が柱となるが、病院に泊まり入院患者や救急患者に対応する当直という勤務もある。当直は睡眠時間が確保されていることが前提だが、24時間365日の救急応需体制をとる病院では、救急搬送があれば即座に対応しなくてはならない。また、病院に泊まらないまでも、いつでもすぐに出勤できるよう、病院近くで待機するオンコール(緊急呼出)勤務もある。外科系医師ならば緊急手術への対応が多発する。加えて、医師は生涯、自己研鑽を続ける職業であり、診療業務の他に論文執筆などに励む人も多い。

厚生労働省が発表した調査(※)によれば、20代の勤務医(常勤、男性)は、勤務時間と当直・オンコールの待機時間を足すと、週平均76.1時間となる。確かに多忙である。だが、医師は人命に携わるという使命感や責任感から、目の前の患者の診療に臨んでいる。こうした勤務医の努力なくしては、我が国の地域医療は成り立たないといえるだろう。

このような背景のもと、医師の健康と医療安全を守るという理由で、医師の働き方改革の必要性がクローズアップされている。

※医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査(平成29年4月6日)

Subject

02

医師の超過勤務の規制は、医療の現場にどんな影響をもたらすか。

平成29年8月から、政府は「医師の働き方改革に関する検討会」を開催。医師の超過勤務是正の協議を進めている。だが、もし超過勤務の上限が定められると、医療現場に支障は出ないのだろうか。下記のイラストは極端な例を描いたものだが、病院勤務医の人数が限られている以上、救急患者の受け入れ制限、外来診療の縮小などが引き起こされることが危惧される。実際、医師の働き方改革に着手した病院では、土曜日の外来診療を限定したり、患者や家族への病状説明を平日の日勤帯のみとするなど、診療体制の見直しが始まっている。

LINKEDが東海三県の救急病院の病院長に意見を聞いたところ、超過勤務の上限が定められたら「診療活動に支障が出る」「どう対応すればよいのか」など、困惑する声が多い。なぜなら、医師不足に悩む病院が多く、今でも医師の超過勤務を含め、ぎりぎりの体制で通常の診療活動や救急医療を担っているからだ。また、なかには、「現在すでに起こっている医師の偏在が、さらに拡大するのではないか」と懸念する声も聞かれた。その理由は専門医制度にある。専門医の資格取得には、一定の症例数の経験が必要となる。専門医をめざす医師が限られた勤務時間でその経験を積もうとすれば、「どうしても多くの症例が集まる大病院に、若い医師が集中するのではないか」という指摘である。

診察や手術の途中で医師が帰るようなことは、
実際にはありません。

Subject

03

地域医療を壊さず、どうやって改革を行うか。慎重な検討と生活者の理解が必要。

ではどうやって医師の働き方を改善するのか。二つの考え方がある。一つは医療界自体の努力。医師の勤務負担を減らす工夫である。例えば、医師の業務について内容、流れ、かかる時間などのすべてを確認し、他の医療職や事務職で何を補えるか徹底的に検討する。すなわち、医師の働き方改革を医療職・事務職全体の改革ととらえ、医療にかかわる業務の効率化を図ることだ。もう一つは、社会的なコンセンサス(合意)の獲得。医師の働く時間が規制されるということは、生活者にとって、受診が制限される可能性を意味する。すなわち、医療の受け方が根本から変わることになるのだ。こうした規制を納得し、受診行動を制御できるかどうか。一人ひとりの生活者、社会全体のコンセンサスが形成されなければ、実は医師の働き方改革は実現しない。

医師とは、これまで見てきたように極めて特殊な職業である。その根本には、「診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とする医療法の規定(応召義務)がある。この規定と超過勤務時間の是正は矛盾しないだろうか。

医師の働き方改革の真の目的が、労働環境の改善であるならば、単に勤務時間を抑制するという議論だけではなく、今後、我が国の医療はどうあるべきかという、いわば根幹的な問題を同時に検討することが必要だとLINKEDは考える。

COLUMN

「医師の働き方改革についてどう思いますか」。

LINKEDでは、愛知・岐阜・三重にある救急病院の病院長、勤務医にアンケートを行いました。病院長への質問は、「病院勤務医の当直拘束時間すべてが超過勤務となるとしたら、超過勤務時間の上限規制が定められたら、貴院の診療活動に支障が出るとお考えですか?」というもの。右の円グラフで示したとおり、「大いに出る」「少し出る」とした病院が、全体の91.4%を占めています。病院長のなかには、「診療活動への影響は、診療科や医師の年齢・性別によって異なるものであり、超過勤務時間の上限規制には、国も各病院も、また、地域全体でも慎重な検討が必要である」とした意見もありました。

東海三県189の救急病院にアンケート。回答率17.5%
東海三県189の救急病院にアンケート。
回答率17.5%

病院勤務医が答える、「自分のキャリアと生活において、当直を含めた超過勤務の上限規制への意見」

Human’s eye

ヒューマンズアイでは他の有識者にも話を聞いてみました。

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