看護師の
新しい役割と挑戦
ホンネから見えてきた
課題。

前回のLINKEDでは、入院中心から在宅中心の医療への転換が進むなか、〈病院の外で働く看護師が圧倒的に少ない〉という現状を確認。病院から地域へ移動する患者の動きに合わせて、看護師も再配置していくにはどうすればよいか、有識者と一緒に考えた。今回はその考察を踏まえ、すでに病院から地域へ飛び出し、あるいは病院にいながらでも地域に積極的に出向き、自らの活躍の場を広げている看護師たちにインタビューし、それぞれの思いや課題を探った。

◎LINKED29号では、看護職、看護学生の皆さまに、これからの働き方についてアンケートをお願いしました。ご協力、ありがとうございました。アンケートの取り方が不充分だったこともあり、残念ながら、期待を下回った回答数でしたが、貴重なご意見をくださった方を中心に、インタビュー候補を選び、お話をうかがいました。

01

高度急性期病院では…

「認定看護師の専門知識・技術を在宅の看護に役立ててもらえる喜び」。

高度急性期病院においても、地域に目を向けて活動する看護師が増えている。たとえば、特定の領域で専門的な知識と技術を身につけた認定看護師たち。病院の外に出て、地域で働く看護師に技術的な指導をするような活動が広がっているのだ。ここでは、排泄管理と褥瘡(じょくそう:床ずれ)ケアを専門とする皮膚・排泄ケア認定看護師のHさんに話を聞いた。

Q仕事の内容は何ですか。
院内での病棟看護師の指導に加え、地域の病院や介護施設、訪問看護ステーションから依頼され、看護指導を行っています。たとえば、病院や施設であれば、そこの看護師さんと一緒に患者さんのベッドサイドを回って褥瘡ケアの方法やストーマ(手術で腹壁に作られた便や尿などの排泄口)ケアの方法を指導したり、訪問看護ステーションでは患者さん宅を同行訪問したり、勉強会を開いたりしています。地域の看護師の皆さんはすごくやる気があって、患者さんを〈何とかしてあげたい〉という気持ちを強く持っていらっしゃいます。そういう方々に私の専門知識を活かしていただけるのは大きな喜びです。
Q看護指導の難しさはありますか。
私は指導するときに、〈なぜこのケアが必要か〉という科学的根拠の説明に力を入れます。でも、現場の皆さんが求めるのは、根拠よりも実践的なやり方なんですね。科学的根拠は看護の根っこの部分ですから、そこをしっかり育てていかないと、本当の意味で看護の質は上がりません。現実的に難しい側面もありますが、そういう本質的な勉強会にも力を入れていきたいと思います。
Q課題はありますか。
高度急性期病院の看護師が、もっと地域で活動しやすいような環境づくりが必要だと思います。認定看護師の仲間と話すと、「地域で活動したいけれど、なかなか院外に出にくい」という意見をよく聞きます。病院によっては、看護師不足でなかなか地域まで活動を広げられないというところもありますし、病院の経営面から考えると、院外での活動に対して給与を支給することが難しいのも理解できます。でも、もう少しみんなが視野を広げ、地域の病院や行政などが協力して、病院の看護師が地域で活動しやすいような体制を作っていくことが必要だと思います。

02

急性期医療と在宅療養を
繋ぐ病院では…

「患者さんが生活に戻れるように
地域全体で支援したい」。

近年、地域の医療機関の役割分担が進み、高度急性期病院で治療を終えた患者を受け入れ、生活に戻る道筋を支援する役割を積極的に担う病院が増えてきた。そんな〈治し支える病院〉に勤務する看護師Aさんに話を聞いた。

Q仕事の内容は何ですか。
地域医療連携室に所属して、地域の医療機関や介護施設と連携して、患者さんの入退院を支援しています。退院支援で力を入れているのは、ご本人、ご家族がどんな生活を送りたいか、という思いを把握すること。単に退院できればいい、というのではなく、患者さんとご家族が望む生活を実現できるように、多職種が集まって一番いい支援策を考えています。また、院内の活動に加え、地域の医療機関、医師会、介護施設の方々と積極的に会うように心がけています。地域の方々と顔の見える関係を築いて、患者さんに継続したケアを提供していきたいと思います。
Q地域医療連携では、どんな看護の力が求められますか。
看護師ならではの視点が求められていると思います。医師は病気を中心に診ますし、医療ソーシャルワーカーや介護士などは生活を中心に見ます。看護師はその両方にまたがり、患者さんの病気と生活、背景を広く見ることができます。その視点を活かしながら、地域の医療・介護に携わる方々とネットワークを築いていきたいですね。また、退院する方の多くは病気を抱えながら生活の場へ帰っていきます。そこで大切になるのは、治療と生活のバランスです。治療を重視するあまり、生活の楽しみが奪われてはならないし、反対に、治療を後回しにすることもできない。最適なバランスを考えるのも看護師だからできることですし、患者さんにとって最善の支援を実現していきたいと思います。
Q課題はありますか。
病院と在宅の看護師が一緒に交流したり、学べるような機会がまだないところです。病棟の看護師は在宅医療や介護のことはわからないし、訪問看護師は最新の医療について知らない部分もあります。お互いにもっと情報を共有することができれば、退院する患者さんをよりスムーズに在宅療養へ繋ぐことができるし、継続したケアを提供できると思います。

03

デイサービスでは…

「ドクター不在の現場で、高齢者の健康に気遣い、
生活の質を高めるよう支援しています」。

デイサービスセンターは、介護を必要とする人を日帰りで施設に迎え、食事や入浴など日常生活上の介護や機能訓練などのサービスを提供する介護施設である。ここに勤務する看護師、Nさんに話を聞いた。

Q仕事の内容は何ですか。
まず一つは、利用者さんの健康管理です。施設に来られた方のバイタル(脈拍・呼吸・血圧・体温)をチェックし、顔色や様子を観察します。高齢の方は嚥下(口の中の食物を胃に飲み下す力)機能の低下から痰がつまったり、急に意識レベルが落ちることもあり、健康管理は非常に重要です。このほか、筋力の低下を防ぐための機能訓練に携わったり、健康上の悩み相談に答えたりしています。また、認知症ケア専門士の資格を持っていることもあり、認知症の方への接し方について介護職員に助言することもありますね。ここでは病院と違って利用者さんとの距離が近く、一人ひとりに寄り添えるところにやりがいを感じます。
Qデイサービスでは、どんな看護の力を求められますか。
デイサービスは、ドクターが常駐していません。ですから、看護師の「この利用者さん、ちょっと様子がおかしいな」という気づきが、重要な意味を持つと思います。とくに高齢の方は、症状の変化がバイタルに出にくいんですね。たとえば、バイタルは正常でも、何となく元気がなく、念のため主治医に診てもらうよう助言したら、肺炎だったということもありました。看護師のフィジカルアセスメント(問診・視診・触診などを通して情報を集めて、状態を判断する)の力が問われる現場だと思います。
Q課題はありますか。
今、切実に願っているのは、「もっと学びたい」ということです。たとえば、利用者さんの急変をより的確に見抜けるように、フィジカルアセスメントのスキルを磨ける研修に参加したいですね。今のところ、看護協会主催の研修などに参加していますが、充分ではありません。地域の在宅療養に関わる人が一堂に集まり、医療と介護の職域を超えて学べるような研修があればいいと思います。そうなれば、地域全体で高齢者を支えようとする〈地域包括ケアシステム〉の進展にも繋がるのではないでしょうか。

04

訪問看護では…

「訪問看護には、〈看護の力〉で
人を元気にできる醍醐味があります」。

在宅療養している人の自宅を訪問し、点滴注射などの医学的な処置を行ったり、療養のお世話をするのが訪問看護師である。訪問看護師になって6年のキャリアを持つKさんに話を聞いた。

Q仕事の内容は何ですか。
訪問看護ステーションに勤務し、利用者さんのお宅を訪問して回っています。利用者さんは小児から高齢者まで、年齢層も幅広く、疾患もいろいろ。がんの終末期の方、自宅で透析療法をするなど医療依存度の高い方も多くいらっしゃいます。訪問した際は、必要な医療処置と合わせて、患部を温めることとマッサージに力を入れています。温かいタオルをあててマッサージをすることで、痛みを和らげたり、呼吸をラクにしたり、便秘を解消したりすることもできます。当ステーションでは、1回の訪問は1時間が基本です。限られた時間のなかで、どこまで症状を和らげることができるのかが難しいところです。
Q訪問先では、どんな看護の力が求められますか。
訪問看護は、〈ナイチンゲールの教え〉がそのまま求められる場だと思います。ナイチンゲールは「看護とは患者の生命力の消耗を最小にするように、暖かさや清潔さ、適切な食事などのすべてを整えること」と説きましたが、まさに訪問看護も同じです。患者さんを安楽にしながら、生きる力を最大限に引き出すという、看護本来の仕事ができますね。また、看取りに立ち会うことも多くありますが、最後まで生命力を引き出すようにケアすれば、人は眠るように、穏やかな表情で息を引き取ります。
Q課題はありますか。
訪問看護の現場は、常に人手不足です。その理由の一つとして、訪問看護の醍醐味が、若い人に充分に伝わっていないのではないかと思います。病院の看護師さんからは、訪問看護は一人ですべてを判断しなくてはならないから大変そう、とよく言われます。確かにその不安もわかりますが、困ったことがあれば、仲間や在宅医の先生に相談できます。また、最近は病院との連携も進み、地域医療連携室を通じて病院の主治医に相談することもできます。ネットワークは広がりつつありますから、ぜひ、仲間になってほしいですね。

病院から地域へ。看護師の新たな挑戦が
地域の人たちの安心の生活を守る。

病院内に集中していた看護師たちだが、地域に目を向け、在宅療養を支える方向へ転換する動きが少しずつ始まっている。この流れを進めていくには、どうすればよいか、愛知県看護部長協議会の植村真美会長(公立西知多総合病院 副院長兼看護局長)に話を聞いた。

愛知県看護部長協議会 会長 植村真美氏
愛知県看護部長協議会 会長
植村真美氏
Q地域で働く看護師はもっと必要だと思いますか。
はい、そう思います。現在は、医療依存度の高い方でも、病院ではなく、自宅や施設で療養するケースが増えています。その方たちの安心を守るには、看護の力が必要不可欠です。今後、在宅医療の質は高まり、量も増えていくわけですから、地域で活躍する看護師をもっと増やさなくてはならないと思います。愛知県看護部長協議会も「保健・医療・福祉の連携を通して県民の健康や生活を護り支える」ことを目的としていますから、私たちの意識もまた、常に地域に向かっています。
Q病院から地域へ、看護師の適正配置を進めるには何が必要ですか。
地域で働く看護師はまだ充足されておらず、増員する必要があると思います。どれくらいの人員を配置すべきかは、地域の事情によって大きく違いがあると思います。地域医療構想の議論とともに、今後、深めていかなければならないテーマだと思います。また、病院によっての異なる事情も、考える必要がありますね。ただ、病院で知識と技術を身につけた看護師がもっと地域に出ることによって、地域全体の看護の質が上がることは事実です。そのことを病院の経営層がきちんと理解し、〈病院だけでなく、地域全体を支える〉という考えを持ち、地域へ看護師を送り出していくことが重要だと思います。
Q地域の看護師からは、交流や研修を求める声も聞かれますが…。
地域の看護師が自信を持って働くには、継続的な研修が必要だと思います。すでに各地域でいろいろな研修が行われていますが、今後さらに病院から積極的に発信し、病院と地域の看護師が一緒に学べる機会を作ることが望ましいですね。地域の看護師には病院の医療を知ってもらい、病院の看護師は在宅療養のケアを学ぶ。双方向で活発に行き来しながら勉強できれば理想です。病院から在宅、そして在宅から病院へと、看護師の絆(連携)を深めることで、地域の安心をより一層守っていけるのではないでしょうか。

COLUMN

地域包括ケア病棟とPFM

今回のLINKEDでは、在宅で療養する患者を支える看護師の活動を、4つの領域で見てきた。それらの継続した看護ケアを支え、病院サイドでも在宅療養患者をしっかり支援していこうという取り組みが始まっている。

それが、地域包括ケア病棟の運営である。地域包括ケア病棟は平成26年度診療報酬改定で新たに作られた病棟カテゴリー。急性期の治療を終えた患者を受け入れ、在宅生活への復帰を支援すると同時に、在宅で療養する患者の急性増悪時の受け入れをも担う。しかも、平成30年度の診療報酬改定で、地域包括ケア病棟が、在宅療養患者の緊急入院を受け入れた場合の実績を評価する方針が明確に打ち出された。これによって、地域包括ケア病棟は<在宅医療を守る砦>のような存在として機能することが期待されている。

また昨今、PFM(ペイシェント・フロー・マネジメント)の導入に取り組む病院も増えてきた。PFMは、入院前(入院時)から患者の病状や生活状況を把握し、入院治療から退院後までの時間軸に合わせ、継続して患者を支援していく仕組みのこと。具体的には、入院中は院内の多職種が何度も集まって話し合い、患者がスムーズに生活の場に戻れるように支援していく。さらに退院に向け、必要な医療・介護サービスを在宅医療チームへしっかり引き継いでいくのがPFMの実践である。いわば、患者の入院時から退院後までの流れを〈線〉で繋いでサポートし、在宅療養まで途切れのないケアの提供をめざしているのだ。ここで重要なのは、ケアの連続性である。病院と地域の看護師が密に連携し、さらに地域の医療・介護に関わる専門職を繋ぐことが今後ますます重要になっていくだろう。

看護職、看護学生への
緊急アンケート回答ご紹介

LINKEDが行った緊急アンケートに、お寄せいただいた回答の一部をご紹介します。

Q1地域医療のキーパーソンとして、看護師はどのようなことを行った方がよいと思いますか?
利用者が医療や介護をどう使い、生きたいのか、把握して実現する。時に代弁者となり、調整役になる。
大多数の看護師は、患者の立場を尊重し、他のチームメンバーと協調して看護を実践する力を持っています。看護師一人一人が、自信を持って積極的に発言し行動することが必要と思います。
看護の立場からだけでなく、他の職種の見解も尊重する。患者に地域で生活するための最適で最善な支援を、広い視野を持ちながら多職種で行う。
患者の主治医となる医療機関の医師(特に二次・三次施設)との関係性が対等になること。訪問看護ステーションと病院との合同研修会等で、お互いの理解を深め、相乗効果を望みたい。
Q2今後、在宅看護に関わる看護師を増やすにはどうしたらよいと思いますか?
自分の看護技術等のスキル維持、向上ができるよう、病院等での研修ができるようなシステムを作る。身分の保障と、病院勤務の人との給与差をなくす。
病院勤務との給与格差の是正。
定期的に病院等で研修ができるようなシステムがあると、最新の知識、技術を身につけることができて、自信が持てると思う。
訪問看護に就いても、定着が難しいことが現状と感じます。就労実態の調査、分析、対応策を立てることが望ましいと思います。また、看護の質の差が激しいように思います。それは事業所ごとの組織理念、モラル教育の違いかと感じます。何らかの客観的な評価と評価結果の共有が必要なのでは?と思います。三ツ星レストランよろしく、優秀な事業所を称賛するようなシステムがあってもよいかもしれません。病院機能評価のように大がかりなものでなくてもいいと思いますが…。

Human’s eye

ヒューマンズアイでは有識者にも話を聞いてみました。

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