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LINKED plus 病院を知ろう

〈統合〉でもない。合併でもない。
新しい病院の「創造」。

地域の医療を守るために、新しい医療を創造する。
東海市と知多市、二つの自治体が一体となっての大いなる挑戦。

公立西知多総合病院

この病院の誕生は、かねてより愛知県の医療界から注目を集めていた。
理由は、病院名の頭につけられた<公立>にある。
二つの自治体による医療厚生組合の設置、そして、東海市民病院と知多市民病院の統合。
<公立西知多総合病院>は、知多半島北西部における救急医療、
高度急性期医療を担う中核病院として、平成27年5月1日、いよいよスタートを切る。

高機能の急性期病院として、
救急、重症患者に対応。

公立西知多総合病院の第一歩は、平成19年、東海市および知多市の市議会で、両市長が地域医療の整備と病院連携の必要性を表明したことに始まる。その後、平成20年には、大学病院や医師会、行政の委員からなる〈東海市・知多市医療連携等あり方検討会〉を設置。知多半島医療圏における医療状況や両市民病院の経営問題への検討が重ねられ、平成22年には西知多医療厚生組合を設立。平成27年5月の新病院開院が決定された。

公立西知多総合病院は、30の診療科を持ち、救急医療では救命救急センタークラスの対応能力を有する、高機能の急性期病院として設計されている。

救急医療については、救急科専門医を配置した救急科を設置。北米型ER(※)の救急診療体制となる。さらに救急患者専用病床も置かれ、他の病棟に影響なく、いつでも救急患者を受け入れることが可能だ。高度急性期医療では、ICU(集中治療室)、重装備の手術室、高度な診断・治療機器などが揃えられ、これまで両病院で受けることができなかった重症患者にも、充分対応するための機能が整えられる。

さらに、知多半島医療圏では初となる結核モデル病床も新設される。また、がんと終末期のための緩和ケア病床も整備し、緩和ケアについては、外来診療科も設置されることになる。

※ 専従の救急医を配置し、すべての診療科の診断と初期治療を行い、必要に応じて、各専門診療科に繋ぐ。24時間365日救急患者を受け入れる。

両病院の文化をリセット。
使命こそが最優先。

新病院を誕生させるにあたって、どのような点に最も力を注いだのか。西知多医療厚生組合・医療監として、新病院建設のソフト面、ハード面等の整備調整の統括責任者を務める、知多市民病院 院長の浅野昌彦医師に聞く。

「今回のプロジェクトは、単に二つの病院機能を一つにするというものではありません。知多半島全域を見つめ、この地に必要な地域医療とは何か、という視点に立つことが必要でした。結果、誕生したのが<知多半島北西部の基幹的役割を担う高機能急性期病院>です。その実現には一旦、両病院を<解体>し、そこから新たな病院を<創造>する発想が要ります。両病院の職員には、新病院の使命、そこに必要な治療機能とは何かを明確に示し、意識づけを図りました」。

その際、浅野医師が強調したのは、「両病院の文化をあえて受け継がない」ことだ。「両病院とも、歴史と伝統のなかで独自の病院文化を持っています。しかし、双方の文化をすり合わせることは、非常に大変です。それならばどちらも踏襲せず、新たな文化を生み出す。この姿勢を貫きました。もちろん職員には、自院の文化を大切にしたいという気持ちはあると思います。しかしそうではなく、あくまでも使命が最優先。それに沿った行動基準を決めました」。

加えて、新病院を設計するにあたり、大学からの理解、支援がとても大きかったと浅野医師は言う。「病院の医師には、それぞれ所属する大学があります。幸いなことに、東海市民病院も知多市民病院も、同一教室(大学医局)の出身、派遣という診療科が多くありました。ですからほんの一部だけ調整するだけで、ほとんどが一診療科一大学という形に集約できました。大学有識者、各医局教授の方々が、知多半島の医療の現状を議論してくださったおかげです」。

知多半島が瀕する、地域医療の崩壊の前に。

愛知県の地域医療において、知多半島医療圏は、大きなウィークポイントの一つであった。
ご承知のとおり、知多半島は伊勢湾に突出した半島であり、南北は約40㎞に及ぶ。この細長い半島が一つの医療圏。そこにはいくつかの病院があるが、中央部に位置する半田市立半田病院が499床を持ち、救命救急センターを有する基幹病院として存在。あとは東海市民病院・知多市民病院・常滑市民病院の公立病院、そして、知多厚生病院という公的病院がある。いずれも中規模病院だ。

そうした中規模病院においては、一様に医師不足の問題を抱え、病院機能が低下。いずれの病院も、救急医療、急性期医療において充分な力を発揮できない状態であった。そのぶん、半田市立半田病院が、三次救急だけではなく二次救急、重症患者の受け入れなど、必死に半島の医療を支えていた。 しかしながら、半田市立半田病院だけで半島すべての救急医療、急性期医療に対応することは不可能であり、結果的に、名古屋医療圏南部にある病院へ患者が流出することになる。また、地域住民にも両市民病院離れが生じ、最初から名古屋医療圏南部にある病院を受診する、という傾向がみられていた。

このままでは半田市立半田病院も疲弊し、機能を落とす。そうなると、知多半島医療圏自体が崩壊----。こうした事態に対して、愛知県地域医療再生計画における地域計画の一つである、知多半島医療圏保健医療計画の見直しがなされ、東海市民病院と知多市民病院の病院事業の統合が決定した。

知多半島が、
一つの病院となるために。

公立西知多総合病院は、二つの市が手を結び新たに作った病院である。今年(平成27年)の5月の開院時に同院の院長に就任する浅野医師は、新病院で何を実現しようとしているのだろう。「<知多半島があたかも一つの病院のように>機能することです。新病院は、半田市立半田病院とともに高度急性期を担うことになりますが、それぞれの特長を活かした上で、必要なところでの連携をすればよいと考えています。すでに電子カルテ上の医療情報を共有することが決定しています」。

「一つの病院のように、となるには」と、浅野医師は言葉を続けた。「新病院のもう一つの使命として、<地域医療連携の強化>があります。地域の診療所、病院との結びつきですね。これまで二つの病院では、病院機能の低下により、診療所からの紹介患者さんをお断りしていた現実があります。それをこれからは一切しません。救急と同じく<断らない>をキーワードに、診療所の先生からの信頼を勝ち取っていきます。また、急性期の治療を終えた患者さんの次のステージでの治療、そして、在宅医療にも目を向け、患者サポートセンターを発足させます。ここでは入院患者さんの治療を進めるとともに、退院、在宅に至るまでの道筋を管理し、患者さんに負担がかからない、地域医療と連携が取れる仕組みを作っていきます。

東海市と知多市の市民の方にご理解いただきたいのは、二つの市民病院がなくなる訳ではないということです。以前の姿とは変わりますが、より高い機能を持った新しい病院として、皆さまの健康的な生活を支えていきます」。

公立西知多総合病院は、東海市中ノ池に誕生する。平時だけではなく、災害時でも機能する病院であるために、病院全体が免震構造であり、ヘリポートも整備する。機能も施設も、見つめているのは地域。そして、一つの自治体の<市立>ではなく、二つの自治体による<公立>。新病院に患者を迎え入れるまで、カウントダウンは目の前に迫る。知多半島の住民と医療従事者の理想の地域医療をめざして、医師、看護師、多くの技術スタッフや職員たちの思いは、最高潮に達している。

  • 新病院には、名古屋大学医学部附属病院で勤務していた、植村真美看護師(現・知多市民病院看護部長)が看護部門のトップに就任する。
  • 植村看護部長をサポートするのが、東海市民病院の看護部長で、認定看護管理者の資格を有する水田洋子看護師。水田看護師は平成27年度で定年を迎えるため、本プロジェクトが看護師人生の集大成となる。
  • 二人の看護部長の尽力で、看護部ではすでに人事交流が行われており、職員がともに働けるように、両病院の枠を超えた配置換えを推進。また、大学病院・高度急性期病院への研修も実施するなど、互いに顔を合わす機会を設定し、コミュニケーションの密度を高めている。
  • 二人の看護部長は異口同音に語る。「これまでの看護にとらわれることなく、より良い看護、新病院の機能にふさわしい看護を創り上げていく。つまり、自らの看護を進化させるチャンスと考えています」。

  • 本文でも触れたが、知多半島医療圏では、現状、救命救急センターを有した半田市立半田病院が、二次救急も含めて同医療圏を広く支えている。地域の医療ニーズと現実に対して、徐々にその守備範囲が拡がってきたのだ。
  • この病院をバックアップするのは、半田市単独である。自治体立として、不採算部門も含め政策医療を提供する責務においての対応だ。だが、診療圏の実態とバックアップ体制は一致しない。
  • それに対して、公立西知多総合病院は、守備範囲とバックアップ体制を最初から明確にしてスタート。地域の医療に関する実情、また、そこに存在する個々の病院の現状に照らし合わせた、現実味のある環境整備といえる。
  • 現在、全国各地で公立病院のあり方への検討が進められているが、公立西知多総合病院のような存在は、病院と自治体との関係における、新たな可能性を示唆するものではないだろうか。

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