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LINKED plus 病院を知ろう

患者を軸に、プロが繋がりリングを創る。

病院チームと、
医療・介護の地域チームが、
繋がることの大切さ。

公立西知多総合病院

東海市・知多市を中心に地域の救急医療、高度急性期医療を担う、公立西知多総合病院。
今回は、そのなかにある一つの部署から、
同院と地域との繋がり〈地域連携〉が見えたエピソードを紹介する。
そこには今後の医療を考える、いくつかのキーワードがあった。

認定看護師と、地域の医療・介護従事者との
連携が活きた事例。

手紙を読み、摂食・嚥下障害看護認定看護師の岡田慶子は、うれし涙をこぼした。差出人は、地域にある訪問看護ステーションの言語聴覚士。公立西知多総合病院に入院し、退院後、自宅で摂食・嚥下の継続リハビリを行う91歳男性の様子を、写真つきで知らせてくれたのだ。

この男性は、入院当初、摂食・嚥下障害(食べる・飲み込むが難しい状態)があった。だが、「退院後は今までのように、外で活動したい。だからペースト食ではなく、普通食が食べたい」という思いが強く、家族もその実現を願っていた。それだけに入院中は、岡田の指導で、訓練に真剣に取り組み、家族は食事の調理法や食事中の諸注意など、何度も確認した。そして退院後は、訪問サービスでの継続リハビリを希望。岡田は地域の言語聴覚士に向け、嚥下サマリー(入院中の治療、経過、注意事項などの要約書)を作成したのだった。

だが、高齢だけに、岡田はずっと気になっていた。「摂食・嚥下障害は、短期間の訓練で完了しません。継続性がないと、いつか誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあります」。継続リハビリの実施が遅れていると聞き、退院から16日目、地域のケアマネジャーに同行し自宅を訪問した。「嚥下機能は落ちておらず、食事内容も過不足がない。ご本人の意志や努力、ご家族の支える力の大きさに敬服しました」。その後、ほどなくリハビリが開始され、3カ月後、岡田の手元に順調な日々を告げる報告書が届いたのだ。

岡田は、公立西知多総合病院の患者サポートセンター・患者支援室に所属し、消化器内科等2病棟を担当する。入院翌日までに患者情報の確認、患者アセスメント(観察、評価、判断)、入院1週間以内には家族面談、多職種での病棟カンファレンスを実施。嚥下チームの一員として、摂食・嚥下障害のある患者への指導・訓練を行う。

患者サポートセンターの目的は、入院前から退院後まで、切れ目なく多職種で患者をサポートすることだ。「多職種とは、地域で活躍する医療・介護従事者の方も対象としています」と言うのは、副院長(看護局長兼務)の植村真美である。「患者さんを軸に、高齢者を地域で支えるリングを創ろうと考えました。この男性の場合は、当院の認定看護師と地域の医療・介護従事者の方との連携が、とてもうまくいった例ですね」と微笑む。

退院から1年が経過し、岡田は男性患者宅を再訪問。朝食として、とんかつ、味噌汁、煮物...。最後はお茶漬けで締め、デザートのところてんも、完食。「嚥下のレベルはとても高いです。こうした例は初めて!ご本人の意志はもちろん、『手抜きですよ』と謙遜する、ご家族の支えがあればこそです」。

もっと地域へ。もっと地域と。
医療と介護を結ぶ。

今、国は、高齢者が爆発的に増える今後の社会を見つめ、従来の「病院中心の医療体制」から「在宅中心の医療体制」への転換を図っている。その実現には、地域の病院が他の医療機関や介護事業所と連携して、患者への切れ目のない医療・介護サービスを提供することが鍵となる。

公立西知多総合病院は、2年前の開院以来、地域との連携に大きな力を注いできた。患者サポートセンター長(診療部統括部長・内科部長兼務)の神野靖也は語る。「地域の医療機関には、この2年間で一定の信頼を得ることができました。今後は当院の多職種間の専門を越えた繋がりを強化し、組織技の向上に努める、また、医療機関への教育支援を高めることを通し、より深い信頼関係の構築を図りたいと考えます。介護事業所とは、さらなる連携強化が必要ですね。両者の情報を連結させ、切れ目を作らない。合同会議や勉強会などの機会を増やしていきたいと考えます」。

看護の視点からは植村がこう語る。「現在は、地域の看看(看護と看護)連携会議、また在宅医療介護関連の会議に参加し、忌憚のない意見をいただいたり、事例を基に双方向の改善を考え合うようになりました。今後は、認定看護師をもっと地域に出し、合同勉強会などを行いたいですね。それが院内では、患者サポートセンターをはじめとする、各部署の高度化にも繋がることと思います。これからは、医療・介護の地域チームと病院チームが手を結ぶ時代です。その高度化を図り、患者さんを軸にした地域のリング創造をめざしていきます」。

最後に、岡田の抱負を聞いた。「前述の男性の事例を通して、患者さんに寄り添い諦めないことの重要性を学びました。また、地域の医療・介護職の方々との結びつきの大切さも知りました。今後は、自らの専門性をさらに高めるとともに、地域の専門職の方々との関係づくりに、一層力を入れていきたいと思います」。

神野センター長は言う。「特殊な治療、高度先進治療は、大都市圏を単位に考えるべきです。それ以外は、地域で完結できる、医療体制が必要です。そのためには、地域の病院と、また、医療・介護事業所と情報をしっかり連結させて、連携関係を結ぶこと。当院はさらなる努力を続けます」。

  • 東海市と知多市、2つの自治体が一体となって、平成27年5月、公立西知多総合病院が誕生。地域の医療を守るために、地域住民のずっと安心の生活を見つめて、救急医療、高度急性期医療の提供に力を注ぐ。
  • その開設当初から設置されている〈患者サポートセンター〉。患者や家族の相談窓口となる総合サポート室、地域医療機関との連携を担う地域医療連携室、患者の療養生活を支援する患者支援室、そして、院内のチーム医療を推進するチーム医療推進室の4部門がある。
  • 根底に流れるのは、入院前から退院後まで、患者に切れ目のない医療・介護を提供すること。なかでも患者支援室には、認定看護師を含め23名という看護師が配置され、患者一人ひとり、その家族をしっかり見つめ、適切、且つ、充分な医療サービス提供の骨格を設計する。
  • 同センターの存在は、地域に必要な医療を守り抜くという、同院の決意を示す一つといえよう。

病院が、積極的に関わってこそ、
〈リング〉は完成する。

  • 今後、一層進展する超高齢社会を見つめたとき、植村看護局長が言う「患者さんを中心にリングを創る」ことは、まさに重要な課題となってくる。
  • ではこれを、どのように地域で創っていくかを考えると、病院や診療所、介護サービス事業所のすべてが、歩み寄り、会話し、それを実践していくことが必要だ。
  • なかでも、地域の中核となる病院が、どれだけ積極的に関わっていくかが、大きな意味を持つ。なぜなら、その病院は地域で一番豊富な医療資源(人材、施設・設備など)を有する。なかでも人材には、岡田認定看護師のように、専門特化した知識と技術を持つ専門職が多く、それをベースとした地域との結びつきは、地域全体の医療・介護における〈地域力〉を高めることにも繋がる。
  • 病院にとって、現在の診療報酬面でいえば厳しい環境下にあるが、だがそれでも地域を見つめ、地域とともに歩むことこそが、病院の存在意義ではないだろうか。

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