LINKED plus

LINKED plus 明日への挑戦者

安城更生病院、
決意と覚悟。

これからの超高齢社会。
病院同士でこれまで培った阿吽の呼吸を可視化する。

愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院

世界で類を見ない超高齢社会に突入した我が国。
社会保障をはじめ、さまざまな制度の改革が進められている。
地域医療もその一つであり、大きな医療変革が迫られている。
西三河南部地域において、どういう考え方と方法が必要か、
そこでの安城更生病院の役回りを、浦田士郎病院長が語る。

最後の最後は共闘する。
その信頼関係が、この地域にはある。

---まずは貴院の特色をお教えください。
浦田 西三河南部西医療圏における高度急性期病院として、救急・周産期・がん・災害医療を4本柱に、生命に危険が及ぶ重篤な状態の患者に、専門的で密度の高い集中的な医療・看護を提供しています。診療領域のなかでは循環器・新生児・周産期が特に強いですね。

---対象とするエリアはどこになりますか。
浦田 高度急性期病院、また、三次救急(救命救急センター)としては、西三河南部、西三河北部の一部、さらには、知多半島の一部まで広域に亘っています。そこでは同じ西三河南部にある刈谷豊田総合病院さん、岡崎市民病院さんと、相互に補完し合う関係にあります。また、二次救急や日常的な診療活動は、安城市内の八千代病院さん、西尾市民病院さん、碧南市民病院さんと連携し、責任医療圏として守っています。

---昔から「三河の病院は仲が良い」といわれますが、まさにそのとおりですね。
浦田 西三河南部は人口がずっと増え続け、その地域の発展とともに、病院も発展してきました。どんどん増え続ける地域住民を守るために、地域の病院みんなで、一所懸命支え合ってきた歴史があるんです。互いに競争心はありますが、最後の最後は共闘します。地域医療を守るという一点で信頼関係が結ばれ、阿吽の呼吸で意思疎通ができていると思います。

---そうした風土を持つ地域において、厚生労働省が将来を見つめて描いた地域医療体制、すなわち、病院の入院機能(病床)を〈高度急性期・急性期・回復期・慢性期〉の4種類に分けること、そして、人口構造や疾病構造の変化をもとに割り出した、二次医療圏ごとの病床数について、どのようにお考えですか。
浦田 地域医療構想(バックステージ参照)ですね。入院機能の分化はともかく、病床数は、目安だととらえています。なぜなら、医療技術は進歩するし、それにより入院日数も変わる。在宅医療も進歩するでしょう。こうした医療の変化も取り込まなくては、本当に必要な病床数は出せません。従って、あの数字に沿って地域の病院を機能分化するという発想ではなく、まず、すべての病院が今後の地域に必要な医療を一緒に考える。そのためには、情報と認識を共有する。その上で、自院はどの領域なら責任ある医療を提供できるか、みんなが腹を割って話す。それが大切だと考えます。

地域のための推進役。
その決意と覚悟が、私たちにはある。

---中規模病院が力を落としていると聞きますが、これをどうお考えですか。
浦田 それは医師不足が引き金となっていますね。医師教育の仕組み、制度にも関係ありますが、高度急性期病院に医師が集中し、それ以外の病院には医師が集まり難いんです。これが高じると、中規模病院が消えてしまう危険性がある。西三河南部も決して例外ではありません。

---実際にはどのような問題が、地域で起きるのですか。
浦田 代表例として、救急があります。この地域では、二次救急の多くを中規模の自治体病院が担ってくれていますが、実は救急は不採算領域なのです。それでも救急を守るとなると、少ない医師たちは疲弊し、病院も体力が落ち、赤字体質になってしまう。救急をはじめ公益性を目的とした医療には、自治体が一般財源から支援していますが、それがずっと続けば、自治体も支え切れなくなるかもしれません。となると、二次救急の体制が崩れ、皺寄せが三次救急の病院にくる。つまり、地域全体の救急体制が壊れてしまいます。また、高度急性期治療を必要としない、一般的な患者さんを診てくれる病院も崩壊するということです。

---そうした問題を抱え、超高齢社会を乗り切るには、どうしたらよいとお考えですか。
浦田 地域の病院同士が支え合う、ネットワークの構築です。

---病院同士の相互扶助ですね。具体的にはどんな協力が考えられますか。
浦田 当院でいえば、医師ですね。今考えられる一つのチャンスとして、2018年4月から新たに始まる専門医の教育制度があります。当院はその教育の基幹施設ですが、2つの自治体病院が連携施設となっています。この関係を活用しての交流が可能です。もちろん大学医局の理解、協力が必要ですが、地域医療を守るという観点から、大学も含めての人事交流を実現させたいと考えます。また、医師以外の人材の交流、医療資源の共同利用、経営ノウハウの提供など、さまざまな協力が可能だと思います。

---そうしたネットワークの構築・運営には、情報を行き渡らせる、会話を喚起する、その方法を企画するなど、推進役が必要ではありませんか。
浦田 そうですね。それはやれる病院、やれる人が、担えばよいと考えます。

---自院だけの利益ではなく、地域のために汗をかく存在ですが、貴院はいかがですか。
浦田 やる病院、人が他にいないなら、当院が担います。当院は、厚生連の病院であり、公的な病院とされています。いわば公と民の中庸、どちらにも偏らず中正的なポジションだといえます。ですから母体の異なる病院同士の接着剤になれると思っています。民間的な発想や手法も積極的に取り入れてきていますから、推進役としての能力・体力はあると自負しています。地域の皆さんも認めてくださるのではないでしょうか。西三河南部の医療を絶対に守り切る。そのためなら、当院はどれだけでも汗をかく決意と覚悟があります。

「例えば、当院が救急車を年間2万台も受け入れるのは、どうしたって無理なんです」と、浦田病院長は言う。「地域において、安城更生病院だけが順風であることはあり得ない。地域の医療機関の総和が、何より大切です」。

  • 安城更生病院の「更生」は、1935年、農山漁村経済更生運動から「甦り」を表す二文字からきており、そこには住民たちの自らの健康は自らで守る、という強い意志があった。1948年には、愛知県厚生農業協同組合連合会に移管され、以来、着実な歩みを重ねる。
  • 2002年、現在地に移転してより進展めざましく、救命救急センター・総合周産期母子医療センター・地域がん診療連携拠点病院・地域中核災害拠点病院・地域医療支援病院の各指定を次々に受け、名実ともに西三河南部地域の基幹病院となる。
  • 現在では、安城市における市民病院的な役割、安城碧海地区の中核的病院としての役割、そして、医療従事者の教育機関としての役割、という3つの機能を果たしている。
  • そうした〈実力病院〉となっても、かつて地域の住民たちが、自らの力で勝ち取った医療への精神は受け継がれており、地域医療への真摯な眼差しが絶えることはない。

地域医療構想の策定。
必要なのは全体最適の視点。

  • 現在、我が国では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、地域医療体制を変革する〈地域医療構想〉の策定が進められている。すべての二次医療圏で、地域の病院みんなが協力して現状を見直し、地域医療の再構築を図っていくのだ。
  • だが、西三河南部地域は、高齢化は進んでいるが、今なお他地域からの流入により人口が増加。一般的にいわれる〈2025年問題〉は、この地域では〈2035年問題〉である。
  • そうした地域の事情を見つめ、浦田病院長は「この地域は、これまで効率的で健全な医療提供ができていました。だから性急にことを進めない。無闇に急いだり、県の権限で強制的に決めようとすると、今の医療体制全体が崩壊します」と警鐘を鳴らす。そうではなく、「地域における個々の病院の必要性をみんなで確認し、みんなで病院の機能・役割を決めることが大切」。いわば全体最適の視点が重要であると語る。

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