LINKED plus

LINKED plus 明日への挑戦者

20年後の医療を見つめ、
持続可能な仕組みを創る。

増え続ける医療費。
今こそ、医療機関が身を切る覚悟で改革を。

社会医療法人 大雄会

今、我が国では、2025年の医療需要(患者数)を予測し、
最適な地域医療の形を組み立てる〈地域医療構想〉の策定が、
地域医療構想調整会議が軸となって進められている。
一宮市を含む尾張西部医療圏で、民間病院でありながらも、
同医療圏で公的な医療を展開する社会医療法人 大雄会の伊藤伸一理事長に、
〈地域医療構想〉を考える上でのポイントについて聞く。

効率性と継続性。
そして、医療機関同士の会話によって創造する。

---地域医療構想策定とは、地域の医療機関が、医療の提供体制を見直し、再構築するものですね。
伊藤 そのとおりです。医療は地域社会の基盤です。その基盤を作り直すことは、医療機関にとって大きな責任となります。少子超高齢社会に、地域住民の安心・安全な社会を、どう守り続けるのか。それが、問われています。だからこそ地域の医療機関みんなで取り組まなければならない課題なのです。

---実際にはどのように進められるのですか。
伊藤 二次医療圏ごと、つまり構想区域ごとで、新たな提供体制を創り上げていきます。そのベースとして、厚生労働省は、入院(病床)機能を〈高度急性期・急性期・回復期・慢性期〉に分類。そして、2025年以降の人口構造、疾病構造といった社会の変化を考え、構想区域ごとに、4機能が、それぞれどれだけ必要になるかを予測して、必要な病床数を示しています。

---その機能・病床を、地域の病院が役割分担するということですか。
伊藤 結果的にはそうなります。が、国から示されているのは、一つのフレーム、指標です。大切なのは、その指標が地域の実情に合っているかどうかを、検証することです。但し、地域医療構想は在宅での医療提供、介護サービス提供との繋がりが前提ですから、病院だけではなく、地域全体の医療・介護のあり方を睨みつつ、地域の実情にふさわしい医療機能、病床数を考え、決めることが必要です。

---そのときのポイントはありますか。
伊藤 効率性と継続性。そして、医療機関同士による会話。この二つですね。

---効率性、継続性とはどういう意味ですか。
伊藤 医療は、税金をはじめ、皆さんの負担により成り立っています。効率性とは、限られた財源の中で救急医療や災害医療、周産期医療など、地域に不可欠でありながら高コストな医療を、いかに無駄なお金や人手をかけずに質を担保できるか。そのために知恵を絞り続けていくことです。また医療は、生活のセーフティネットでもあります。継続性とは、その医療を一時的なものではなく、未来永劫、切れ間なく維持し続けていくことです。そのために医療機関はどうあるべきかが問われています。

---効率性と継続性の実現には、医療機関同士の会話が重要ということですか。
伊藤 その通りです。先ほどの4機能のなかで、どの領域なら責任ある医療を提供できるかを、各病院が出し合った上で、客観的に見て、どの病院がどの機能、領域を担うことが適正であるかを、すべての医療機関で議論することです。

---評価し合うということですね。
伊藤 まさに、そのとおりです。一つひとつの病院が、自らの実力やあり方を問われることになります。議論によっては、それぞれの病院の希望どおりになるとは限りません。

真の議論を始めるには、
すべての病院の、経営データ開示が必要。

---一宮市を含む尾張西部医療圏での議論は進んでいますか。
伊藤 実のある議論は、まだこれからです。なぜなら、議論を始めるには、各医療機関の実態をつまびらかにする必要があるからです。そのために重要となるのは、各医療機関の臨床データです。厚生労働省はさまざまなデータを公表しています。例えば、現在、最もコストがかかる急性期入院医療で、どの病気に対し、どれだけの期間で治療したかを、DPC(疾病群別の包括払い)データとして公表しています。そのデータに基づけば、同じ病気で、各病院がどれだけのコスト・期間を要したかが明らかになります。また、救急搬送患者数や、そこからの入院患者割合なども分かりますし、細かな分析は必要ですが、この患者さんは本当に入院治療が必要だったかといった検証もできます。

---それを基にした議論が必要なんですね。
伊藤 いえ、それだけではまだ足りません。例えば、職員に支払う人件費、材料費、減価償却費、負債額、補助金など、経営に関わるすべての数字を、各病院は俎上に載せなければなりません。医療の内容を明らかにする一方、どれだけのコスト、労力を投入しているか、それらが明らかになってこそ、各病院の真の実力が解るということです。本当に地域の未来を考えるなら、すべてのデータ開示は不可欠です。もちろん、私ども大雄会もその例外ではありません。

---大雄会自体をその俎上に載せるということですね。
伊藤 これまで私たちは地域の中で広い領域をカバーしてきました。その一つひとつが、本当に適正であったか再点検・再評価すると同時に、痛みを伴う自己変革も絶対に必要になります。それは当法人のためというより、当法人を信頼してくださる地域の医療機関や住民の方々のために必要なことと考えます。

---大雄会がすべてを情報開示すること、自己改革を断行することは、モデルになりますね。
伊藤 他者に情報開示を求めるならば、まず自らが情報開示することが必要です。その上で、機能が重複し、地域として無駄はないか。もっと効率的なやり方はないか。また、不足している機能はないか。自らの改革を実行すると同時に、地域全体で情報と認識を共有し、議論し、再構築するムーブメントを起こしたいと考えます。

---救命救急センターや地域医療支援病院等、公的な機能を果たしてきた大雄会だからこそ、議論を推進する資格と責務があるというお考えですか。
伊藤 はい。さらには、地域の皆さんにもその議論に参加していただきたい。効率性・継続性の視点をお持ちいただき、病院の規模や母体に関係なく、あくまでも地域にとってどういう医療が必要か。私たちと一緒に、この地域の未来を考えていただけたらと思います。その結果、尾張西部医療圏で推進する〈地域医療構想〉が、全国のロールモデルになることをめざすことができたら、また大雄会自身がその一翼を担えたらと考えています。

「地域の未来のために、誰かが汗をかく必要がある」と、大雄会理事長 伊藤伸一は考える。「その役割を担うのは、大雄会である」とも考える。地域とともに、90年以上に亘り、一緒に歩んできたからこそ、その資格と責務において、地域の未来への創造に力を注ぐ。

  • 大雄会は、90年以上に亘り、〈進取の精神〉を貫く先鋭的な民間病院として、地域とともに歩み続けてきた。現在では、地域医療支援病院、救命救急センター、地域中核災害医療センターなど、〈公〉的な役割をも担っている。
  • こうした役割は、病院の経営的に見ると不採算な部分が多く、本来は公立病院が、自治体より補助金を得て担うケースが多い。
  • 大雄会は、民間病院でありながら、そうした公益性の高い領域を担い続け、その結果、2012年には社会医療法人(公益性の高い医療を提供する民間病院を税制面で支援し、安定経営を支えることを目的に創設された制度)の認定を受けた。
  • そして今、同院が見つめるのは、地域医療の効率性と継続性。各医療機関の透明性を確保し、地域医療連携を促すことで、さらなる地域への貢献を果たそうとしている。

アカウンタブル・ケアという
新たな概念はいつ登場するか。

  • 医療の先進国・アメリカには、アカウンタブル・ケアという概念がある。
  • 簡単に言うと、アウトカム(結果、成果)指標のなかに、患者の満足度を医療費に組み込んだもの。満足度は、治療費も含めた治療効果ということができる。早い話、患者から見て、どういう結果を、〈いくら〉で受けることができたかを評価しようというものだ。
  • こうした概念は日本にはまだない。必要なもの、足らないものは作ろうという議論はあるが、それをいくらで、とまでは制度が至っていない。
  • 財政の逼迫が進む少子超高齢時代において、いくらでできるか、という議論は重要になる。真に医療提供の効率性を比較するなら、最も解りやすいからだ。
  • 地域医療の再構築を考えたとき、力を発揮するのは、もしかすると〈効率性〉に敏感な民間的手法かもしれない。

Copyright © PROJECT LINKED LLC.
All Rights Reserved.