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LINKED plus 病院を知ろう

研修医という宝を育てる
ファミリアな環境。

「皆で研修医を育てよう」
病院全体の熱意が、若き医師の成長を促す。

碧南市民病院

碧南市民病院は、愛知県碧南市を中心としたエリアの医療を支える中核病院。
年間3000台以上の救急搬送を受け入れ、幅広い急性期疾患に対応している。
全320床、医師数50名足らず。医師の人数は少なく、だからこそ、
研修医を大切に育てようという雰囲気が院内全体にみなぎっている。
この病院で医師の第一歩を踏み出した、ある研修医の今を取材した。

各診療科で専門性を、
救急外来で総合性を学んでいく。

平成29年度、碧南市民病院に入職した初期研修医の前島一偉(まえしま かずひで)。4月から、内科、外科と、各診療科を順番に回って研修を受けている。現在の所属は麻酔科。「外科の研修でも、術後の縫合などを体験させていただきましたが、麻酔科の研修も実践的です。麻酔科部長からマンツーマンで指導してもらいながら、術前の診察から術中の全身管理、術後の疼痛緩和まで、一人の麻酔科医が担う役割を一通り体験させていただいています」と前島。また、この研修で麻酔の奥深さも実感しているという。「たとえば先日、血圧変動の激しい患者さんの7時間にわたる手術がありました。その術中、患者さんの血圧がみるみる上昇していったんですね。『大変だ』と思った矢先、麻酔科部長が即座に鎮痛剤(麻薬)の投与を増やし、血圧を安定させたんです。部長の迅速な判断、手際の良さに感服しました。外科の研修では、執刀医の手技だけを見ていましたが、患者さんの全身を管理して安全を守る麻酔科医の視点を学び、手術全体を俯瞰して見られるようになりました。同時に、手術が多職種のチーム医療で成り立つことも実感しています」と前島は話す。

各診療科で専門的な医療を学ぶ一方、前島は救急外来で総合的な学びを深めている。同院では、研修医が1年目から救急の最前線に立ち、患者のファーストタッチ(最初に行う診察)を担う。軽症患者から、入院の必要な重篤な患者まで集まる救急外来。その入口を担う責任は重大だ。「救急搬送の場合は上の先生が助けてくれるのでいいのですが、逆に緊張するのは、歩いて来院された方ですね」と前島は言う。一例を挙げると、こんなことがあった。「その患者さんの主訴は、『すごい冷や汗が出る』ということでした。風邪かなと思いましたが、熱はない。念のため、心電図をとったら、心筋梗塞の疑いが認められたんです。検査結果はすぐに、院内の医師が閲覧できる電子カルテに反映され、循環器の先生が駆けつけてくださいました」(前島)。ありふれた症状に潜む病気のサインを見逃さない重要性。前島はこのように、症状と検査所見に基づく診断力を、日々の救急外来で体得している。さらに、指導医のサポート体制も同院ならではだろう。電子カルテを通じて、常に指導医が研修医の診療内容をチェックするとともに、外来では、経験豊富な看護師や検査技師等がしっかりサポートしている。

碧南市民病院の研修医は、早い段階からチームの一員になって臨床経験を積む。「一人の仕事量は多いかもしれませんが、その分、得られる知識も多く、仕事をサポートしてくれる人数も多い」と前島。ここで学んだ医師たちは症例数や度胸では誰にも負けないという自負を持って巣立っていく。

多職種が家族のように
助け合う風土が研修医を育てる。

前島が碧南市民病院を選んだのは、出身地の和歌山県に似た郊外型の立地で、より生活者に近い医療を学べると思ったから。実は将来、前島は地元に戻り、医療資源の少ない地域で貢献することも考えており、そのとき「ここで得た豊富な経験がきっと役に立つだろう」と話す。

医療資源という点では、同院はここ数年来、多くの郊外型の自治体病院と同様に医師不足に苦しんできた。医師の減少を職員全員でカバーしながら、市民が求める急性期医療を提供するとともに、地域で不足する医療機能を担うべく、患者の在宅復帰を支援する〈地域包括ケア病棟〉も開設した。

少ない医師で地域医療のニーズに応える同院にとって、研修医は貴重な戦力だ。臨床研修管理委員会・委員長の佐藤太一医師(外科部長)は、若い研修医たちを「当院の宝物、プラチナです」と感慨を込めて語る。「研修医は組織に新しい風を吹かせるエネルギー。研修医の元気が病院の発展には欠かせません。だからこそ研修医のための教育体制の充実に力を注いでいます」。同院では、自由度の高い研修プログラムを用意し、研修医一人ひとりが主体的に学べる環境を用意しているほか、勉強会(詳しくはコラム参照)を通じて多面的な知識の吸収を支援している。

加えて同院には、医師が業務に専念できるように、職員全員が率先して協力し合う風土が根づいている。それは、限られたマンパワーで、市民病院の公益性を守り抜こうとするなかで、自然と醸成されてきたものだ。同院の梶田正文院長は、その風土を「ちょっと他にはないほど、ファミリア(家族的)な雰囲気」と表現する。その言葉を受けて、佐藤は言う。「助けてほしいときはSOSを出せるし、皆が研修医を気にかけています。多様な職種が家族のように助け合える風土だから、研修医はチーム医療の大切さを理解し、多職種と協働できる人間性豊かな医師に育っていくことができるのだと思います」。

AI(人工知能)やロボットが医療界にも入ってきた。そんな時代に、医師に求められる能力は何か。「人間にしかできないのは対話力だと思います。患者さんの気持ちに寄り添い、他の専門職と協力し合える、コミュニケーション能力の優れたドクターになってほしい」と佐藤は話す。

  • 碧南市民病院では、週に1回のペースで研修医のための勉強会を開催している。勉強会のスタイルは、指導医による講義と、研修医の症例発表を交代で実施する。「さまざまな指導医と触れ合うことで、総合的な診療能力を身につけてほしい」(佐藤)という狙いがある。
  • こうした院内の勉強会とは別に、外部の講師を招く勉強会にも力を注いでいる。名古屋市にある急性期病院の医師が年に4回、来院して、研修医が知っておくべき貴重な知識を伝授。また、総合診療の第一人者、NHK「総合診療医ドクターG」でも知られる徳田安春医師(独立行政法人地域医療機能推進機構本部研修センター長)が、年2回、来院。研修医の症例発表を一緒に検討したり、救急外来で直接指導を受けるなどして、研修医にとって貴重な学びの機会を提供している。

研修医が学ぶべきもの
が変化してきた。

  • 医療の専門分化が進むなか、これまで研修医の関心も、臓器別の専門医療に向けられ、自分が選んだ診療科の専門性を深めることに力を注いできた。しかし昨今、急速に高齢化が進み、生活習慣病(慢性疾患)中心へと疾病構造が変化。それに伴い、病院に勤務する医師には、専門性だけでなく、幅広い診療能力を身につけていくことが重要になった。
  • 多様な診療領域にわたり、コモンディジーズ(一般的な症例)がたくさん集まる碧南市民病院は、そうした幅広い診療と専門性の高い診療をバランスよく学べる環境が整っている。また、研修医が少ない分、一人ひとりが獲得する経験値は高く、周囲の指導医や看護師、コメディカルスタッフのサポートも手厚い。前島医師のように、将来、生活者に近いところで地域医療に貢献しようとする人にとって、絶好の学びのステージといえるのではないだろうか。

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