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LINKED plus 病院を知ろう

地域全体であらゆる
出産を受け止める。

できる限り自然なお産も、リスクの高いお産も、
万全の体制で支える。

豊橋市民病院

豊橋市民病院は平成26年、総合周産期母子医療センターの指定を受け、妊産婦と新生児の命を、
24時間体制で守っている。また同じ時期に、バースセンターを開設し、
できる限り自然な出産のサポートも行う。正常な出産からハイリスク出産まで、
多様な出産ニーズに応える、同院の周産期医療提供体制を取材した。

バースセンターと
周産期母子医療センターの2つの機能。

「今、赤ちゃんが指しゃぶりをしていますね」「へその緒が見えますね」。超音波画像を見ながら説明する助産師の言葉に、うれしそうにうなずく妊婦。これは、豊橋市民病院で行われている助産師による妊婦健診のひとこまである。同院では、自然なお産を望む妊婦の入院施設としてバースセンターを開設。バースセンターを利用する妊婦については、助産師によるきめ細かな健診を中心に、医師による妊婦健診も定期的に実施している。じっくり時間をかけて赤ちゃんの成長を確認したり、生活指導を受けられる助産外来は、妊婦に好評だ。

バースセンターとは、どんな所だろう。助産師の伊藤里江に話を聞いた。「妊婦さんが本来持っている〈産もうとする力〉を引き出し、できるだけ自然なお産をしていただく所です。分娩室は畳敷きで、家族と助産師が見守るなか、お好みの体位で産んでいただきます」。バースセンターの対象は、極めて〈出産のリスクが低い〉と医師が診断した妊婦に限定しており、条件は厳しい。しかし、開設から3年余りの間に、21人の赤ちゃんがここで産声を上げた。「出産された妊婦さんは皆、喜んでくださいます。家族の付き添いが心強かったという意見が多いですね」と伊藤はほほえむ。

自然なお産に対応するバースセンターと対極にあるのが、ハイリスク出産に対応する周産期母子医療センターだ。同センターはMFICU(母体・胎児集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)を備え、母体・胎児・新生児に生じる突発的な事態に常時、対応している。産婦人科第二部長の岡田真由美は、その先頭に立つ医師の一人だ。「年間200件以上の母体搬送(母体に異常がある場合や、出生児の厳重な管理が予想される場合の搬送)を受け入れています。応需率は100%に近く、手術中でお待たせすることはあっても、お断りすることはまずありません」(岡田)。24時間365日、母体と赤ちゃんを救うために、同院では産婦人科医2名の当直体制を維持。岡田も土日を含め、月に5〜6回、当直する生活をずっと続けているという。緊急搬送で多い症例は切迫早産だが、妊娠22〜23週の段階で緊急帝王切開できる施設は、東三河では同院をおいて他にない。「緊急時には、手術室に妊婦さんを運んで赤ちゃんを取り出すまで、20分以内。このスピードは、麻酔科医や看護師などスタッフの協力の賜物です」と岡田は胸を張る。

「お産は本来、自然なもの。分娩台ではなく、畳の上で、家族に見守られながら出産できるバースセンターは、私たち助産師の長年の夢でした」と語る、伊藤助産師。出産には助産師3名が関わり、万一に備えて医師も待機するなど、万全のフォロー体制で赤ちゃんの誕生をサポートしている。

妊娠、出産に対するすべてのニーズに
地域全体で応えていく。

医学的にリスクの高い妊婦に加え、近年は、社会的・経済的リスクを抱えているケースが増えてきたという。「若年、未婚、生活保護受給者や外国人など、さまざまな問題を持つ妊婦さんが来院されます。市民病院として、そうした妊婦さんを受け入れ、安心して産み育てられるようサポートしていくことも重要な役割になってきました」(岡田)。こうして見ていくと、リスクの少ない正常な分娩から、医学的ハイリスクの分娩、そして、社会的・経済的リスクの高い分娩まで。同院はありとあらゆる出産ニーズに応えていることがわかる。「妊娠、出産に対する思いは個々に違いますし、それぞれに事情も異なります。地域の産婦人科クリニック、産婦人科を持つ病院とも連携を深めながら、そうしたすべてのニーズに応え、妊産婦の安心を守っていくことが重要だと考えています」と、岡田は言う。

さらに、妊産婦の安心を求める気持ちに応える取り組みとして、同院はNIPT(出生前遺伝学的検査)をスタートさせた。これは、妊婦の血液によって、胎児の染色体疾患を調べるもの。従来の採血による母体血清マーカー検査に比べ、高い精度の結果が得られる。但し、出生前に行う検査は、胎児の生命に関わる倫理的課題を含む。同院では臨床遺伝専門医が、妊婦とパートナーに充分なカウンセリングを行った上で慎重に検査をしている。この他同院では、総合生殖医療センターを設置し、妊娠に至るまでの不妊治療においても東三河随一の充実した医療体制を完備。生殖医療から周産期医療までの広い領域をカバーし、最先端の高度な医療を追求している。「不妊治療から遺伝学的検査、出産、産後のフォロー、新生児の治療まで。すべてにおいて、東三河の人たちが、他地域に行かなくとも、ハイレベルの医療を受けられるよう、これからも研鑽を続けていきます」。岡田は力強い口調でそうしめくくった。

岡田医師は講習会や勉強会などを通じて、地域の産婦人科クリニックとの情報共有に力を入れる。「たとえば、リスクの高い多胎妊娠、急な出血リスクのある症例などは、早い段階でご紹介いただける信頼関係を築いています」と岡田。地域の医療機関が団結し、安心安全な出産を支えている。

  • 豊橋市民病院は東三河の基幹病院として、研修医、医学部学生、看護学生、助産師学生、コメディカル、救急救命士などの研修を受け入れ、若き医療人の育成に積極的に取り組んでいる。
  • 同院がバースセンターを立ち上げたのも、そんな教育病院として、助産学実習をサポートすることが理由の一つだった。助産師学生は実習を通じて正常な分娩介助を経験することが、法律で定められている。助産師が主体的に関わるバースセンターは、助産師の卵にとって貴重な学びの場でもあるのだ。
  • 実習生の指導者である伊藤助産師は、「バースセンターができたことで、私たちの技量を磨く環境が充実し、さらに後輩や学生をじっくり指導できる体制も整いました」と話す。ここで育った助産師が、地域で活躍することを願い、同院は今後も教育支援に取り組んでいく考えである。

地域の医療機関が補完し合い
多様な出産ニーズに応える。

  • どこで産むか、どのように産むか。近年は出産のスタイルが多様化している。できる限り医療介入の少ない自然なお産を望む人。反対に、リスクを抱えているため安全性第一のお産を望む人もいる。また、自宅近くの医療機関を選ぶ人もいれば、里帰り出産を選ぶ人もいる。あるいは、若年妊娠などで、社会的・経済的な不安を抱えている人、妊娠中のトラブルで早期の緊急手術が必要になるケースもある。
  • そうした多様な出産ニーズをすべてフォローするには、地域のなかに充分な医療提供のラインナップがそろっている必要がある。しかし、その充実度は地域の実情によって異なる。地域に充分な医療資源がない場合は、豊橋市民病院のような中核的な病院が、積極的に足りない医療を担っていくことが必要となる。そうやって地域の医療機関が連携、補完し合うことで、地域の妊産婦が安心して産み育てられる環境を確保できるのではないだろうか。

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