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LINKED plus 病院を知ろう

命を救う病院が、
生活を見つめる理由。

在宅のための救急機能、
地域包括ケア病棟が、医療と生活を結ぶ。

名古屋掖済会病院

「救急のメッカ」と称され、救急医療・高度急性期医療において、
東海地区の医療を牽引してきた名古屋掖済会病院。
その高度化に今なお注力しつつ、平成29年12月、地域包括ケア病棟を開設。
命を救い、救った命のその後の生活を見つめる挑戦が始まった。

新たな生活再建を支援するための看護が、
私たちには楽しい。

「Aさんが歌っている!」。伊藤光葉看護師は驚いた。Aさんとは、悪性症候群の男性患者。自分では全く動けず、話せず、水分や栄養剤を入れるためのチューブを、鼻から胃に通していた。病室ではテレビをつけながらも、熱心に観ていたわけではない。「Aさんの単調な生活が、私、ずっと気になっていたので、発熱が治まった日に車椅子で院内デイにお連れしたんです。少しでも刺激になるかと思って。そうしたら、他の患者さんと一緒に歌い始めて! 私、感動して、仲間の看護師と一緒に泣きました。その後は回復が早まり、今では自分で歩けるし、ご飯も普通に召し上がってます」(伊藤)。

「看護師のこうしたアプローチは、急性期病棟では難しい」と言うのは、千島紀子看護師である。「急性期は病気や怪我を〈治す〉期間。患者さんには安静が必要で、行動も制限されることが多くなります。それに対してこの病棟は、患者さんの心身を解放させ、ご自分を取り戻してもらうことが大事。病棟の性格が全く違います」。

では、そもそも地域包括ケア病棟とは何なのだろうか。役割は3つ。一つには、急性期治療を経過した患者の受入れ、二つには、在宅療養中に急性増悪した患者の受入れ、三つには、そうした患者への在宅復帰支援である。千島は言う。「急性期病棟では、すべてがこちらのペースになりがちでした。でもここでは、あくまでも患者さんのペースに合わせ、それを乱すことなく、生活の場でのペースを取り戻していただきます」。伊藤は言う。「患者さんやご家族の思いを叶えるために、何をすべきか考えます。多職種でのチーム医療ですから、看護師はしっかり患者さんの全身管理をし、必要な情報を各職種に伝え、そこからまた必要な支援を組み立てます」。

千島と伊藤は、この病棟での日々を、口を揃えて「とても楽しい」と言う。理由は「急性期病棟では、治すための看護が中心。生きるか死ぬかという瞬間もあり、看護師は退院後の生活が気になってもきちんと考える余裕はなく、それがジレンマでした。でも今は、患者さんの退院後の生活を再建するための看護。それがとても楽しいんです」(千島)。

では、今後の自分の課題は何か? 千島は「介護制度や福祉制度の知識を高め、退院支援能力を高めたい」。伊藤は「院内のみんなに、そして、地域の方々に、この病棟をもっと知ってほしい」。急性期とは異なる看護をこの病棟で手に入れつつ、2人はさらなる高みをめざしている。

千島、伊藤は言う。「患者さんの気持ちとご家族の気持ちが、異なるときがあります。その両方を受け止めて、ではどんな方法があるのか、それを考えるのも、私たちの役目です」。「麻痺のある方が、コルセットを自分で巻けるように、少しだけ工夫をしたんです。それを喜んでくれて、退院のとき号泣されました」。

三次救急とは別軸の
セーフティネット。

医療界でも、社会でも、まだ正確な理解に至っていない地域包括ケア病棟。その立ち上げの労苦を一身に背負ってきたのが、澤田麻実病棟師長である。「私一人ではなく、千島や伊藤をはじめ、病棟に配属された看護師みんなで創り上げたんです」と微笑みながらこう続けた。「私自身、ずっと急性期看護をしてきましたから、生活に戻るための看護とはどういうものか、じっくり考えました」。

それで見出したのが、〈食事と排泄、自分で動く、生活での楽しみを持てる〉ことを支援する看護。根幹には、〈すべてを患者さん側から考える倫理観〉をおいた。

ではそれをどう病棟看護師たちに浸透させるか。澤田の手法は「みんなで考えよう、みんなで決めよう」である。「身体拘束グループ、ミトングループなど、いくつもグループを作り、どうすれば実現できるか話し合い、発表し、共有する。一つのワークが終わったら、次はメンバーを変えて別のことを考え発表し共有する。こうして病棟での看護のあり方を決め、最後は〈私がしたい看護って何?〉をテーマとしました」。

その結果は、千島と伊藤の言葉のなかにあるが、澤田は「何とか60点には到達。これからが重要」と言う。「これまでは、院内の急性期治療を終えた患者さんの受入れが中心でした。でも、最大の目標は、在宅療養の方が急性期病棟に入院するほどではないが、悪化した際の受入れなんです」。その理由は、医療制度の変化だ。医療の中心が病院から在宅に移り、地域に在宅療養患者が増加する。「そうした人々が、ずっと安心して生活を続けるために、三次救急とは別軸で、地域のセーフティネットとなることが、この病棟の、いえ、名古屋掖済会病院の使命だと思っています」と澤田は言う。

そのために大切なのは、地域との連携。そして、病棟に対する院内職員の理解。名古屋掖済会病院ならではの地域包括ケア病棟をめざし、澤田たちの挑戦はまだまだ続く。

この病棟から絶対異動したくない。地域との繋がりの大切さを知った。病気を点でとらえていたのが、今では線として見ることができる。ケアマネージャーの資格も取りたい。澤田の元には、病棟看護師たちのさまざまな声が届く。澤田は、「みんなこの病棟の看護に、やり甲斐を持ってくれています。もちろん私も!」と微笑む。

  • 〈掖済〉とは、腋に手を添え支え助けるという意味がある。名古屋掖済会病院は、昭和23年に誕生以来、ずっとそれを体現してきた。現在では、「断らない救急」の三次救命救急センターをはじめ、愛知県がん診療拠点病院、災害拠点病院等、いくつもの使命を持つ病院として地域医療に貢献し続けている。
  • その同院が、平成29年に地域包括ケア病棟を開設したのも、掖済の精神を貫いたもの。この病棟は地域ではまだ足らず、医療を必要とする地域の人が、行き場を失うことなく迅速、的確に医療を受けることができるように設置した。いわば在宅療養患者のための救急機能。医療を見つめ、地域を見つめる同院だからこその新しい試みである。
  • その新たな試みに全力を注ぐ看護師たち。試行錯誤の繰り返しのなかから、この病棟の意義を確かめ、急性期とは異なる看護を見出し、一人ひとりの患者の生活再建を推し進める。まさに〈掖済〉の精神そのものといえよう。

命を救う看護から、
生活を再建する看護への挑戦。

  • 超高齢社会となった今、我が国の医療は大きく変わろうとしている。医療の中心を病院から在宅に移し、多職種による医療・介護サービスを受けて療養生活を続け、急性増悪したときだけ病院で治療を受けることを前提に、医療の仕組みの再構築が進められているのだ。
  • そこで重要になるのは、病院での治療と在宅での療養、それを誰が、どのようにスムーズに繋ぐかということ。その筆頭に挙げられるのは、看護師であろう。一番患者の身近に存在し、生活への視点を持って治療、療養を支えることができるからだ。だがその役割は決して簡単なことではない。急性期看護とは異なる知識、技術を、患者一人ひとりに合わせて提供し、且つ、地域との連携を進める能力をも必要とされる。
  • 名古屋掖済会病院の地域包括ケア病棟。これまで命を救うことを使命としてきた看護師たちが、生活を再建するという、病院の新たな使命を自らの使命として、逞しく歩み始めている。

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