LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
ストーマの手術前から退院後の生活まで、
切れ目なく支援したい。
奥井真由美・黒澤由美/
皮膚・排泄ケア認定看護師
愛知県厚生農業協同組合連合会
安城更生病院
皮膚・排泄ケア認定看護師は、ストーマケア、
褥瘡(じょくそう:床ずれ)ケア、失禁ケアを行うスペシャリストである。
安城更生病院では2名の皮膚・排泄ケア認定看護師が、
院内外で積極的に活動している。
今回はストーマケアに焦点をあて、彼女たちの活動を追った。
ストーマ(人工肛門・人工膀胱)は、大腸がん、膀胱がんなどの手術に伴い、造設される腹部の排泄口である。そこに専用の袋を装着して、排泄管理していく。安城更生病院では、2名の皮膚・排泄ケア認定看護師が中心となり、患者の手術前から入院中、退院後まで一貫したケアを提供している。
まず手術前に行うのは、ストーマ造設の位置決めである。皮膚・排泄ケア認定看護師の奥井真由美に話を聞いた。「位置決めは、患者さんの一生の生活の質を決める大事なことです。医師や患者さんと相談しながら、どの位置が管理しやすいか、生活しやすいか、慎重に検討します」。続いて、装具選びも入念に行う。「多種多様な種類のなかから、お腹の皮膚の硬さ、しわの状態、排便の状態などに応じて、最適なものを選び出します。四方八方探しても、患者さんに合うものがないときは、食品保存用袋を用いて手づくりすることもあります」と奥井は話す。
こうして装具が決まり、ストーマが造設された後は、病棟看護師とともに、患者に適切なストーマ管理の方法を指導していく。病棟の看護で一番のポイントは何だろうか。「ストーマの浮腫(むくみ)や出血などの異常を見逃さないこと。そして、便や尿を漏らさないことですね」と話すのは、もう一人の皮膚・排泄ケア認定看護師、黒澤由美だ。「ストーマの合併症がなく、適切に管理できれば、袋が外れたりすることはありません。でも、何かの原因で便が漏れると、周囲の肌も赤くただれてしまいます。たとえば、大腸がんの手術が成功し、数週間で退院する予定だった人が、合併症から食事が開始できず、退院も仕事復帰も遠のいてしまうこともあります。異常を早期に発見するために、病棟看護師には細心の注意を払うよう指導しています」。
さらに、同院のストーマケアは、患者の退院後も続く。週に2回、奥井が〈スキンケア外来〉を開設。退院した患者に通院してもらい、正しくストーマを管理できているかを確認。日常生活のアドバイスを行ったり、お腹周りの体型変化に合わせ、装具の見直しを行っている。「退院後はストーマがあっても、温泉にも入れるし、運動もできます。でも、装具の不具合などから、一度便が漏れると、本人が不安感から外出しなくなってしまいます。患者さんの生活の質を守るために継続して支えるのが、私たちの責任だと考えています」(奥井)。
ストーマを持つ人を継続して支える、皮膚・排泄ケア認定看護師の2人。そもそも2人が、この道のスペシャリストをめざしたのはなぜだろうか。「外科病棟に長く勤務し、ストーマケアにも関わってきたのですが、自分たちで試行錯誤でやっても便が漏れることが多くありました。それを解決するには、専門知識を学ばなくてはならないと強く思いました」と奥井。黒澤も、全く同様の思いだという。「ストーマの造設は、人間の尊厳に関わるデリケートな問題です。排泄物を人に見せ、処理してもらうだけでも自尊心が傷つくのに、それが何度も漏れるとなると、患者さんの気持ちが折れてしまうんですね。そういう患者さんの辛い気持ちを救いたいと思いました。認定看護師になった今でもうまくいかないこともありますが、患者さんが一日も早く元の生活に戻れるよう支援しています」。
認定看護師になって、約10年ほど。2人はこれからの活動に、どんな目標を掲げているだろう。「在宅療養患者さんをフォローしたい」と言うのは、奥井である。「依頼を受けて訪問看護に同行することもありますが、そんなとき、高齢でスキンケア外来に通えない方に出会います。そういう方のサポートも今後の課題です」。黒澤もまた、患者の退院後に目を向ける。「高齢化が進み、当院を退院して介護施設などに入所する方も増えてきました。そこでも適切にストーマ管理を続けられるように、施設の職員さんの勉強会にも力を入れたいですね。それは、ストーマケアだけでなく、褥瘡ケアについてもいえることです。在宅療養に関わる方と連携し、高齢の方が健常な皮膚を維持できるように支えていこうと思います」。2人は、皮膚・排泄ケアの専門力を最大限に活かし、地域全体の看護の質向上をめざしている。
ストーマの悩みは、家族や友人にも理解できない部分も多い。そのため、患者にとって、皮膚・排泄ケア認定看護師の存在は非常に大きい。「スキンケア外来では、一人ひとりの悩みをお聞きして、全力で応えるよう心がけています。たとえば、臭いの心配、がん治療の不安など、こころのケアにも力を注いでいます」と奥井。
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