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LINKED plus 病院を知ろう

愛するみよし市のために
市民病院ができること。

病院の創立当初から、
在宅医療科を設置して、
市民の在宅療養を支えてきた。

みよし市民病院

超高齢社会となり、医療の中心は病院から在宅へ移り、
悪くなったときだけ病院に入院するという「ときどき入院、ほぼ在宅」の時代がやってきた。
そんな現在の地域医療を見越し、平成13年の創立当初から在宅医療に取り組んできた、
希有な自治体病院。それが、みよし市民病院である。

伊藤院長自らが
在宅医療の先頭に立つ。

「こんにちは、具合はどうですか」。患者宅を訪問し、明るく声をかけるのは、みよし市民病院の伊藤 治院長(内科医)である。病気を抱えつつも、高齢などの理由で通院できなくなった患者のもとへ、伊藤は定期的に足を運んでいる。訪問診療の件数は平均すると、1日4件。院内業務の合間に、多いときは1日7件も訪問しているという。「近年、訪問診療の依頼が増えています。院内に併設されたみよし市訪問看護ステーションと協力して、できる限り対応しています」と伊藤は話す。また最近、伊藤の働きかけで、整形外科医も訪問診療のメンバーに加わるようになった。「在宅の患者さんは、腰や膝の痛みなど整形外科領域の悩みを持つ人がすごく多いんですね。整形外科医が訪問すれば、その場で症状を緩和する関節注射を打つことや、骨粗鬆症に対して、病院と同様の最新の治療法を提供できます。患者さんにとって、何より専門医に診てもらう安心感は大きいです。将来的には皮膚科の先生にも加わっていただき、在宅患者さんの褥瘡(じょくそう・床ずれ)などにも対応していきたいと考えています」と構想をふくらませる。

このように院長自らがトップに立ち、精力的に訪問診療に取り組む自治体病院は全国的に見ても珍しいのではないだろうか。「そうかもしれません。当院はそもそも、急性期主体の自治体病院とは異なります。初代の病院事業管理者である柴田時宗先生が、市民が年老いても安心して暮らせる地域社会をめざして設計しました。したがって在宅医療も創立当初からあった計画ですし、それを二代目の成瀬 達先生が継承して裾野を広げ、そして、現在へと受け継がれてきたのです」と、伊藤は説明する。当時は、今日のように診療報酬で在宅医療の取り組みが評価されることもなく、病院経営を考えれば、収益性はほとんど期待できなかった。それでも、柴田、成瀬が在宅医療の道を貫いてきたのは、どんな思いが根底にあったのだろうか。「それは、ひとえに〈愛するみよし市のために〉という熱意だと思います。近隣に往診対応のできる診療所もなく、通院できなくて市民が困っているならば、自分たちがやるしかない。それが、柴田先生、成瀬先生の譲れない考え方であったと思いますし、今後も継承していかねばならないと考えています」と伊藤は言う。

みよし市民病院は愛知県で最も新しい、そして最も小さな市民病院である。創立以来、超高齢社会に求められる病院づくりを推し進めてきた。根底に流れるのは、みよし市民のために、という思いだ。そのことは、病院理念『みよし市を愛しみよし市民の健康に寄与することを誓います』にも明確に表現されている。

在宅医療を担う診療所を、
全面的にバックアップする。

同院が早くから在宅医療に取り組んできた背景には、みよし市に、在宅医療を担う診療所が不足している事情がある。「在宅での看取りなど、マンパワーの限られた診療所では対応が難しいケースもあります。当院がそういう部分を担うことで、診療所の支援に繋がればと考えています」と伊藤は話す。同院は今後も在宅医療に力を注ぐ方針だが、それには、どんな課題があるだろうか。「足りないのは人ですね。医師、看護師はもちろんですが、リハビリスタッフを増員し、訪問リハに取り組みたいですし、栄養士や薬剤師も在宅医療に関われるような体制をめざしています」(伊藤)。また、在宅医療を担う診療所のバックアップも、今後の重点課題だという。同院は平成28年、一般病棟のうち10床を地域包括ケア病床に転換。24時間365日、いつでも療養中の一時入院を受け入れる体制を整えた。さらに今後、地域包括ケア病床を増やし、家族が休養するためのレスパイト入院にもきめ細かく対応していく構想を持つ。「そのためには、病棟の改装工事が必要で、費用もかかります。そのことを市民や行政の方々にご理解、ご支援いただきたいですね」と伊藤は訴える。

さらに伊藤は、現在の在宅療養支援体制では、救えない人にも視線を注ぐ。「経済的な余裕がないので、訪問診療を受けられない。あるいは、施設に入りたいけれど、入居条件を満たす要介護認定を受けることができない。そのように、医療・介護・福祉の網の目からこぼれてしまう人たちを救っていくことも私たちの役割です」(伊藤)。その対策の一環として、同院では、院内にみよし市の地域包括支援センター(介護福祉の相談窓口)を設置し、困っている人を行政サービスに繋ぐ橋渡しに力を注いでいる。どこで誰に相談すればよいかわからない------。そんな人たちが「とりあえずみよし市民病院へ行けば何とかしてくれる」と思えるような病院をめざして、同院は地域社会のセーフティネット(安全網)の一翼を担っていく。

伊藤院長はもともと消化器内視鏡の専門医だが、今は、専門的医療は若手医師に任せ、在宅医療に精力的に取り組む。「最初、葛藤はありました。でも視野を広げると、急速に高齢化の進むみよし市の地域医療を崩さないようにすることが急務だと気づきました。そこに大きな使命感を感じています」(伊藤)。

  • みよし市民病院は医師会が進める在宅医療サポートセンター事業に協力し、豊田市・みよし市から構成される西三河北部医療圏の在宅医療に貢献していこうとしている。具体的には、医師会は今、西三河北部医療圏を3つのエリアに分け、それぞれに機能強化型の在宅療養支援診療所と機能強化型の在宅療養支援病院のグループをつくり、24時間365日の在宅療養支援体制を作る計画を進めている。
  • 同院は、機能強化型の在宅療養支援病院(平成30年5月施設認可)として、一つのグループに参加。みよし市と豊田市の一部の診療所と連携を深め、後方支援病院として近隣診療所の担当する在宅療養患者の急変などのニーズに応えていく計画だ。「これを機に、診療所との連携が深まることは、当院にとっても大変ありがたいことです。看取りやレスパイト入院なども気軽にご相談をいただき、グループとして一緒に在宅療養する人たちを支えていきたいと思います」と伊藤は意欲を語る。

背伸びしない、競争しない。
自治体病院の新しいあり方。

  • 自治体病院の多くは、急性期医療を中心に担っている。しかし、みよし市民病院は、それらとは全く違う道を歩んできた。平成13年、愛知県で一番小さな市民病院として誕生。以来、「市民の安心を支えるために、自分たちの規模でできることを、背伸びせずにやってきた」と伊藤院長は表現する。
  • 今回、特集した在宅療養支援についても、自分たちができることをする姿勢は貫かれている。在宅医療を担う診療所が少ないので、自らが積極的に取り組んできたが、それは決して診療所と患者を取り合う目的ではない。「むしろお任せできる部分は診療所にお願いし、当院は診療所を24時間支える病院として存在意義を発揮していきたい」と伊藤は話す。背伸びすることなく、競うこともしない。地域のなかで足りない部分を積極的に担うことで、市民に貢献していく。こうした同院の考え方に、これからの自治体病院のあり方のヒントが隠されているのではないだろうか。

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