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LINKED plus 病院を知ろう

チームで取り組む
最新の脳卒中治療。

脳卒中患者の命を救い、その後の人生も救うために、
全スタッフの力を結集する。

安城更生病院

脳卒中(脳血管疾患)には、脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れて起きる脳出血、
くも膜下出血がある。いずれも、命に関わる深刻な疾患であり、
一命をとりとめても、多くの場合、後遺症が残ってしまう。
その難しい疾患領域に、安城更生病院は24時間365日の体制で、取り組んでいる。

超急性期の脳梗塞に対する
脳血管内治療。

ある日の深夜、安城更生病院に救急隊から電話が入った。脳梗塞の疑いのある患者の受け入れ要請だった。この一報を受けた時点で、救急の当直医はオンコールで待機中の脳神経内科医に電話連絡。同時に、放射線技術科にCTとMRI検査のオーダーを出した。患者が搬送されてくると、放射線技師は迅速かつ丁寧に検査を行う。その検査が終わる頃、脳神経内科医が病院に到着し、検査画像を見ながら診察する。脳の太い血管が詰まっていることが見て取れた。細い血管が詰まっている場合、t-PAという薬剤で血栓を溶かす治療が行われるが、太い血管では治療効果が望めないことがわかっている。診療は脳神経内科から脳神経外科へ橋渡しされた。脳の血管にカテーテルを通して血栓を掻き出す血栓回収術が行われることになったのだ。

緊急の血栓回収術を行うために、カテーテル室では看護師が治療の準備を始める。連絡を受けた脳神経外科医(脳血管内治療専門医)が病院に駆けつけると、直ちに治療が始まった。こうして、患者が搬送され、検査・診断を経て、治療が開始するまでの時間は約60分だった。脳神経外科代表部長の加野貴久は、この一連の流れについて、次のように語る。「脳血管内治療を始めた頃は、治療開始まで平均75分かかりましたが、今は平均57分まで短縮しています。これは、脳卒中に関わるチームの連携プレイがあればこそ。スタッフ全員の情熱の賜物です」。

このように同院がスピードにこだわるのは、脳梗塞の治療が時間との戦いだからだ。血管が詰まると、脳に栄養が行かなくなり、脳細胞が死んでしまう。1分でも早い血流の再開が何よりも重要なのだ。また、脳梗塞は症例によっては外科手術の方が適している場合もある。「その場合は躊躇なく外科手術を行います。脳血管内治療だけでなく、外科手術も高い技術力を持つのが当科の強みです。それは脳出血やくも膜下出血の治療についても同様です。血管内治療が適していない場合、着実に外科手術を施行できて初めて、信頼できる脳神経外科だと考えています」と、加野は説明する。その言葉を裏づけるように、同科ではくも膜下出血に対するクリッピング術(開頭して動脈瘤の根元にクリップをかけて再出血を防ぐ手術)において、愛知県下随一の治療実績を持っている(平成30年・27件)。

脳神経外科では、血管内治療も外科手術も同じように重視して、若手医師を指導している。「これからの脳神経外科医は、血管内治療と外科手術のスキルを両方備えた二刀流が求められると思います。ここで豊富な症例を学んだ人たちが、将来の脳卒中治療を引っ張っていくと期待しています」と加野は話す。

脳卒中の後遺症の治療にも取り組み、
地域に貢献。

ここまで急性期の治療について紹介したが、脳卒中は急性期だけでは終わらないのが大きな特徴である。同院では可能な限り障害を減らすために、最善・最速の治療を提供しているが、それでも、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ることは少なくない。「当院では基本的に、入院の翌日からリハビリテーションをスタートし、身体機能や動作の改善に取り組みます。また、退院後は脳卒中連携パスを運用し、回復期、慢性期まで切れ目なくリハビリテーションを続けられるよう支援しています」と加野。さらに、その体制を一歩進め、同院では痙縮(けいしゅく)の治療を通じて、慢性期の治療にも乗り出している。痙縮とは、筋肉の緊張が高まり、手や足が勝手につっぱったりする症状だが、同院では数年前から手術による治療や注射による薬物療法に取り組み、成果を上げている。「脳卒中の患者さんは家に戻った後、痙縮が起こり手足の動きが悪くなる方もいらっしゃいます。そういう方を少しでも救えるように、近隣の回復期の病院にも声をかけ、痙縮の疑いのある患者さんを紹介していただけるよう働きかけています」と、加野は話す。

安城更生病院は西三河南部医療圏の基幹病院として、地域の患者の命を救う責任を持つ。脳神経外科はその責任に加え、患者の生活にも視線を注ぐ。「脳卒中の患者さんの多くは自宅へ戻られますし、それ以外でも在宅療養する高齢患者さんが増えています。そういう方々を支えるために、私たちがお手伝いできることは何でもやっていきたいです。たとえば、高齢になり動きが悪くなる人のなかには、脳の病気が原因のこともあります。年齢のせいだからと諦めなくても、適切な治療によって運動機能の改善が見込めます。そうした情報提供も含め、これからはさらに地域の先生方と連携を深め、この地域に住む人々が健康に暮らせるよう支えていきたいと思います」。加野はそう語り、地域医療のさらなる質向上をめざす。

安城更生病院では近年、脳卒中の予防にも力を入れる。「心房細動(心臓内にある心房が異常な動きをする病気)から脳梗塞になる人が増えています。そこで、脳神経内科、循環器内科、脳神経外科が協力し、専用器具を用いた潜在性心房細動の検出を進めていこうとしています」(加野)。診療科を超えた連携が、診療の質を高めていく。

  • 脳卒中のなかでも、脳梗塞の患者が増えている。脳卒中で亡くなる日本人は、年間11万1973人。そのうち、脳梗塞による死亡数は6万4523人に及ぶ(厚生労働省・平成27年人口動態統計(確定数)の概況より)。超急性期の脳梗塞に対する治療として有効なのが、t-PA治療と血管内治療である。速やかに血栓を除去し、血流を再開できれば、脳を救える可能性がある。
  • しかし、t-PA治療の普及は全国的に進んでいるが、脳血管内治療専門医はまだ数が限られているのが実情だ。安城更生病院においても2名の専門医で、救急医療を担っている。その負担を少しでも軽減し、脳血管内治療の恩恵を地域の患者に提供できるように、同院では脳神経内科と脳神経外科が密接に連携。コメディカルスタッフが協力する万全の仕組みを作り上げている。その結果、同院の血栓回収術の実績は年間57件(平成30年)で、この数字は愛知県下トップである。

患者が病院を選べない、
脳卒中という疾患。

  • がんなどの疾患は自分が納得のいく病院や治療法を選択できる。しかし、突然発症する脳卒中は、患者が自分で病院を選ぶことができない。救急搬送された病院で、直ちに治療を開始しなくては、脳を救うことができないからだ。そういう意味では、救急搬送された病院の実力が、そのまま患者の人生に大きな影響を与えることになる。その重みを、安城更生病院の医師やスタッフは深く認識している。
  • 脳卒中で運ばれてきた患者を一人でも多く救えるように、薬物治療、血管内治療、外科的治療というすべての治療の選択肢を用意。迅速な検査と正確な診断を通じて、24時間365日、最適な治療を提供できる体制を整えている。それでも加野は「地域の命を守る砦というレベルに達しているとはまだ思えない。もっと自分たちの技術をブラッシュアップしなくてはならない」と謙虚に語る。その真摯な姿勢こそが、同院の脳卒中治療をさらに高みへと導いていくだろう。

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