緊急特集

医療職の働き方改革と
地域医療は両立できるか。

Human’s eye

働き方改革 
武勇伝との決別

どのような職業であれ、ベテラン達のキャリアは武勇伝に満ちているものである。医師も、超長時間の手術をいとわず、休日夜間の呼出に飛び起き、自らの私的生活を犠牲にして激務をこなす。これはひとえに職業的使命感・責任感によるものだが、自己の成長と、医学医療の進歩や所属する組織への貢献達成感とが一致するからでもある。また多くの同僚や他の医療職は、もちろん家族の支えが有ってこそのものである。仕事優先の生活で、幼子がなつかないと苦笑する光景は珍しくもない。

平成30年度の診療報酬改定基本方針の視点のひとつに、医療従事者の負担軽減、働き方改革推進が挙げられている。具体的方向性として、チーム医療推進・業務効率合理化・ICT技術の導入・多職種連携推進・外来医療の機能分化が示されている。具体策に目新しさはないものの、今まで以上に徹底することが求められている。そのためには、労働と自己研鑽の区分を、いっそう厳密にしなければならない。

国民の健康を守るべき医療従事者が、不健康な状態では使命を果たせる筈がない。「働き方改革」は、これまで医療がいかに医療従事者達の、職業的使命感と自己犠牲的精神とによって支えられて来たのかを再認識し、そのような過去と向き合い、新しい価値観を創造せよということであると理解している。

医療者の健康と国民の健康とが、トレードオフの関係であってはならない。現在進行中の働き方改革は、国民の十分な理解と協力を得ながら進めない限り、救急医療・地域医療の崩壊を招き、病院そのものの存立が危機に瀕する。そのしわ寄せは地域住民に及ぶのみならず、医療者自身が働く場を失う結果にもなりかねない。武勇伝との決別は、決して生易しい話ではない。

一般社団法人愛知県病院協会 会長 浦田 士郎 氏

PROFILE

一般社団法人 愛知県病院協会 会長 
浦田 士郎
1981年、名古屋大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会指導医、日本リウマチ学会専門医。2008年より愛知県厚生連安城更生病院病院長。2017年より愛知県病院協会会長、愛知県病院団体協議会代表。