Human’s eye

激変する医療環境下に求められるもの
~自己認識力と柔軟な決断~

地域住民がずっと安心できる、地域医療の正義の味方は、5疾患5事業に代表される公益性の高い医療を担っている病院です。地域により事情は異なるものの、それを担っている多くは自治体病院や公的医療機関、社会医療法人などです。公益性の高い医療は不採算部門が多く、経営的には厳しいものがあります。それに加え、近年、自治体病院、公的医療機関を問わず多くの中規模病院では、医師不足、病床稼働率の低下等で経営の危機に陥っています。そのような激変する医療環境下で、松阪市民病院は地域における自院の立ち位置をしっかり認識し(自己認識力)、医療環境の変化に順応し、自分たちのやりたい医療ではなく、やらなければならない医療を選択し、自治体病院として地域に求められる病院に再生(柔軟な決断)しました。さらに、いくら病院トップがそのような方向性を示しても、現場の医師たちのモチベーション低下や医療の変化に対する抵抗等でうまくいかないのが現実です。そのような状況の中、職員の意識改革を行い、病院の方向性を理解させ、さらに、職員ひとり一人の経営意識を高めたことは素晴らしいことです。地域医療構想では、地域包括ケアシステムが重要な役割を担うことになり、その中心的な担い手は小中規模の自治体病院や公的医療機関です。松阪市民病院に続く自治体病院が増えることを願っています。但し、その松阪市民病院でさえも、現在では、地域医療構想の協議のなかで、同じ松阪市にある公的病院との経営統合が検討されつつあると伺っています。誰が、どういった視点で、地域医療の公益性を考えるのか。地域にとっては、厳しい選択と判断を求められている現実を、医療従事者も、そして地域住民もしっかりと見据えることが大切と考えます。

名古屋第二赤十字病院 前院長 石川 清 氏

PROFILE

名古屋第二赤十字病院 前院長 
石川 清
1970年名古屋大学工学部卒業。1977年名古屋大学医学部卒業。日本集中治療医学会認定医、日本麻酔学会指導医、日本救急医学会認定医、日本集団災害医学会評議員。1994年名古屋第二赤十字病院 麻酔科・集中治療部長、2001年同院 副院長・救命救急センター長、2007年同院 院長、2018年同院 名誉院長。