Human’s eye

もとめられる「県庁医局機能」の発揮

医師の地域偏在の解消に取組むコントロールタワーたるべく、地域医療支援センターが2016年4月までに全都道府県に設置されてきた。地域枠医師(※1)やセンター自らが確保した医師を活用しながら、そのキャリア形成支援と一体的に、医師不足病院の医師確保を、都道府県が責任を持って支援することが主目的であり、成否の鍵は地域枠医師の活用にある。

地域枠医師の実情は都道府県ごとに異なっているが、愛知県では義務年限(※2)は9年間であり、そのうちの概ね前半4年間を臨床研修・専門研修(※3)にあて、後半の5年間を、県が指定する医療機関に赴任して地域医療に従事することが期待されている。2009年度入学の一期生5名が、2015年から初期臨床研修を開始し、現在は専門研修へと進みつつある。その数は年々累積増加してゆき、2025年度には臨床研修・専門研修中の医師を含めて、最大218名となる。実動部隊とも言える義務年限後半5年間に相当する医師数は、2030年の154名を最大数として漸減する見込みであるが、その5年後の2035年はまさに愛知県の医療需要が頂点に達する年である。
専門研修を終えた地域枠医師の赴任候補病院は、一定の基準によって公立・公的の18病院が選定され、優先順位が定められており、いずれも医師不足地域にあって救急医療・小児医療・周産期医療を担って奮闘している病院である。地域枠医師の義務年限を通じたキャリア形成には十分な配慮がなされることは、医師としての成長の観点から当然であるが、この最大218名からなる地域枠医師団は、危機に瀕する地域医療の救世主となりうる存在である。

今般の医療法改正を受け、愛知県地域医療支援センターは来年度に地域医療対策協議会へ改組強化され、臨床研修や専門医制度(※4)に関わる内容も含め、県内の医師確保に関する会議体が一本化されることになっている。医師不足の状況を個々の病院レベルで分析しながら、愛知県全体の観点から優先的に支援すべき病院を決定し、地域枠医師のキャリア形成の不安を解消しつつ、同時に、各大学医局の事情や意向にも毅然と向き合って医師派遣機能を発揮するという、いわば県庁医局の力量が問われてくる。

大学には、最先端の医学研究や臨床研究推進の使命に加えて、地域医療を守るという価値軸を改めて認識して頂きたいものであるし、また、派遣医師を受入れる病院側としては、公立・公的か民間かを問わず、それぞれの地域医療構想区域(※5)における自主的協議を通じ、2035年から2040年を視野に入れて、その地域の全体最適の観点からの機能分化をやり抜かねばならない。地域枠医師を救世主たらしめるには、受け手側にも自己変容の覚悟が必要である。

※1 地域枠
地域医療を担う医師を養成し、僻地に限らず、医師が不足している地域で活躍する医師を確保するため、国公私立大学の医学部医学科が設置する入学定員の一部の枠。県からの修学金が貸与されることが多い。
※2 義務年限
都道府県などが指定する地域での勤務が義務づけられた期間。
※3 臨床研修・専門研修
臨床研修は、医学部を卒業し医師免許を取得した後に義務づけられた、医療機関における2年間の研修。専門研修は、臨床研修修了の後、特定の診療領域について修練を積み、専門医となるための研修。
※4 専門医制度
これまで各診療科の学会が独自に行っていた専門医(各専門領域で専門研修を受けた医師)養成を、第三者機関が統一した基準で研修や認定を行うもの。
※5 地域医療構想区域
地域医療構想とは、都道府県内にある二次医療圏をベースに、構想区域を単位にして、それぞれに2025年における必要な病床数が機能区分(高度急性期から慢性期まで)ごとに提示され、各医療機関が自主的な協議をもとに、機能分化をすすめていくもの。愛知県は11、三重県は8、岐阜県は5つの構想区域が定められている。
一般社団法人愛知県病院協会 会長 浦田 士郎 氏

PROFILE

一般社団法人 愛知県病院協会 会長 
浦田 士郎
1981年、名古屋大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会指導医、日本リウマチ学会専門医。2008年より愛知県厚生連安城更生病院病院長。2017年より愛知県病院協会会長、愛知県病院団体協議会代表。