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LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

3人の看護師たちが思い描く、
がん看護のカタチ。
その実践と未来像。

異なる専門領域の看護師が連携し、
がん疾患を抱える患者と家族をしっかり支えていく。

中谷多真希(皮膚・排泄ケア認定看護師)
萩原美紀(緩和ケア認定看護師)
塩尻裕子(がん化学療法認定看護師)/松阪市民病院

生涯のうちにがんに罹る可能性は、男性の2人に1人、女性の3人に1人と推測され、
3人に1人ががんで亡くなっているという。
今や、日本の国民病とも言えるがん。その看護には、さまざまなカタチがある。
三重県にある松阪市民病院に勤務する3人の認定看護師の取り組みを追った。

適切なストーマケアを通して、
直腸がんなどの患者を支える。

最初に紹介するのは、皮膚・排泄ケア認定看護師の中谷多真希である。皮膚・排泄ケア認定看護師とは、ストーマ(人工肛門や人工膀胱)の造設や褥瘡(床ずれ)などに伴って生じる問題に対し、適切な指導をする看護師だ。中谷は今、褥瘡管理の専従者として、院内を横断的に活動する。入院患者の褥瘡予防・管理のほか、外来では主にストーマ保有者の相談に応えている。また最近は、訪問看護ステーションを通して在宅療養中の患者を訪ね、皮膚や排泄について指導する機会も増えてきた。活動ステージは非常に広い。

「資格を取るときは、入院患者さんだけを対象に考えていました。でも、実際に仕事を始めると、外来や在宅で患者さんと関わることがすごく多くて...。患者さんの最期の瞬間まで関わる資格を取ったんだ、と責任の重さを感じています」と中谷は話す。

そもそも中谷が皮膚・排泄ケアに興味を抱いたのは、外科病棟でストーマケアに携わっていた経験からだ。当時は同院での直腸がん手術症例はそれほど多くはなかった。中谷は患者にも協力を得ながらストーマケアについて一生懸命学んだ。そうして関わった患者の一人が、がん終末期を迎えて再入院するときに「中谷さんのいる病棟に入院したい」と申し出てくれた。その一言がうれしくて、もっと知識を増やしたいと思ったという。
さらに、その後、三重県総合医療センターとの交流研修で、皮膚・排泄ケア認定看護師と出会ったことも大きな出来事だった。患者と信頼関係を結び、安心感を与えるケアを実践する姿に、理想の看護師像を見出したのだ。

学びへの意欲が頂点に達した中谷は、職場を離れ、認定看護師資格取得のための教育課程で座学や実習に明け暮れた。数カ月後、中谷が病院に戻った頃、折しも松阪市民病院では緩和ケア病棟が新たに立ち上がっていた。がん看護の充実を約束するうれしいニュースだった。

最期を迎えたとき、
「いい人生だった」と思っていただきたい。

緩和ケア病棟の開設は、平成20年1月。それまで一般病棟で、痛みに苦しみながら亡くなっていく患者を多く目にしてきた看護師たちは、皆一様に、緩和ケア病棟の新設を喜んだ。
この病棟で、がんに伴う痛みや苦しみを和らげる知識と技術を備えた看護師、すなわち、緩和ケア認定看護師として活躍するのが、萩原美紀である。萩原はこの病棟新設のタイミングに合わせて、入職を希望してきた人物だ。

萩原はなぜ緩和ケアをめざしたのか。それは学生時代にさかのぼる。ある先生から「人は誰でも、最期の時間の過ごし方が良ければ、いい人生だったという思いで死を迎えることができる」と教えられた。「最期のひとときを共に過ごし、"ああ、いい人生だった"と思っていただけたら、看護師はなんて意義のある素晴らしい仕事なんだろう」と萩原は思った。いつかはターミナルケアに関わりたい。その思いを叶え、萩原は今、がん末期の患者に寄り添い、充実した日々を送っている。

さらに萩原の情熱は、緩和ケア病棟の仕事に留まらない。緩和ケア病棟は原則として、治療を受けない患者が対象となるが、患者のなかには一般病棟で最期まで治療を受け続ける人もいる。「がんと診断されたときから最期まで、患者さんはもちろん、家族の苦悩や不安も和らげるようにサポートしていきたいんです。そのために、各病棟へ緩和ケアの看護を広めていきたいと考えています」。萩原は攻めの姿勢で、緩和ケアの可能性を広げていこうとしている。

がん化学療法の向こうに、
在宅での暮らしを見つめる。

最後に紹介するのは、外来化学療法室で、がん化学療法看護認定看護師として活躍する塩尻裕子だ。治療法の難解ながん化学療法は、患者や家族へのわかりやすい説明が必要であると同時に、安全な投与管理はもちろん、副作用対策も大切となる。そういう専門的な知識を備えたのが、がん化学療法看護認定看護師である。

塩尻はもともと助産師として同院の産科で働いていた。しかし、産科が閉鎖され、今度は看護師として一般病棟へ。そして、現在の外来化学療法室に配属された。ここに初めて配属されたときの苦い思いを、塩尻は今でも忘れない。「化学療法の知識もほとんどなく、辛いと泣く患者さんを前に、何もできない私がいました。情けなく思いました」。自分の能力不足に衝撃を受けた塩尻は、「もっと患者さんの役に立ちたい」という一念で、認定看護師の資格取得をめざした。教育課程で学んだ幅広い知識と技術をベースに、塩尻は今、不安を抱える患者を精神的に支え、さまざまな困りごとの相談に応えている。

「患者さんにとって、家族や社会と繋がる在宅の時間はとても大切です。また、これからは、在宅で人生の最期を迎えるといった選択肢も増えていくと思います。患者さんがそういう先の生活の見通しが立てられるように、うまくサポートしていきたいと思います」。塩尻は患者の人生や生活を見据えながら、奥の深い看護を提供している。

看護師たちが集まり、
がん看護のサポートチームが動き出した。

がん疾患の患者を、それぞれの違う領域でサポートする認定看護師たち。彼女たちは別々の職場で専門能力を発揮しているが、その一方で横の繋がりも深い。たとえば中谷は、外来の患者が化学療法について悩んでいれば、それを塩尻に伝え、解決に導いている。また、塩尻は、化学療法を受ける患者の痛みのコントロールについて、萩原から適切なアドバイスを受けている。互いの専門知識を持ち寄ることで、がん患者へのサポートを、より手厚くしていこうとしているのだ。

そんな彼女たちの活動を、石田由紀子看護部長はあたたかく見守る。「診療科の垣根が低く、部門を超えた連携がとれるのが、当院の強みです。がん看護についても、認定看護師が中心になって、今できることは何だろう、できることから始めようよって、がんサポートのチームが動き出しました。それぞれの専門領域の者が患者さんやご家族のために、みんなで協議することが、当院らしい"あたたかい看護"に繋がると期待しています」。

さらに石田看護部長は、病院の外へと目を向ける。「当院は328床ですので、対応できる患者数にやはり限界があり、地域の病院や診療所との連携がとても大切です。今後はいっそう地域に開かれた急性期病院として、当院の看護を地域へ広げていく取り組みも重要になっていくでしょう」。

実際、冒頭に紹介したように、中谷は院内勤務のかたわら、訪問看護へ積極的に飛び出している。今後、そういう取り組みが増えれば、地域のがん看護サポート体制は、いっそう強固になっていくに違いない。

  • 松阪市民病院の看護部では、看護師の頑張りを、一律ではなく個々に評価する新しい人事評価制度を導入している。個々の職員の能力や役割・責任、行動成果に応じて勤勉手当を支給するもので、最高100万円、最低でも10万円が支給される。また日本初となるプラス査定のみの評価制度であることも特徴で、マイナス評価はない。良いところを評価する仕組みが、個々のモチベーション向上に役立っているという。
  • 個々の看護師を評価する上で大切なのは、公正な目線だろう。石田由紀子看護部長は、認定看護師の活動を高く評価する一方で、彼女たちが研修に出かけている間、現場を守った看護師の頑張りも高く認めている。また、育児休業明けの看護師に代わって、夜勤を快く引き受けている一般看護師の頑張りも評価している。さまざまな立場でのさまざまな頑張りを、一つひとつ丁寧に評価することで、職場の士気を高めようとしている。

  • 医学の進歩により、早期に発見できれば、がんは確実に治る病気になった。しかし、「がんが完治した」と判断できる状態になるのは、手術治療から数年後も先のことになる。その間、再発予防に留意しながら、検査や薬の服用などを続けなければならない。その意味で、がんは慢性疾患の一種であり、短期決戦ではなく、長期で病気とつきあっていく覚悟が求められる。
  • 長期に亘るがんの闘病生活では、医師による「医行為」だけでなく、患者を継続して支え続ける「看護行為」が重要な意味をもつ。がんを抱えながらでも、より良い人生が送れるように、看護師たちはさまざまなケア方法で、一人ひとりの患者にアプローチする。豊富な知識と専門技術を備えた認定看護師は、病気を上手にコントロールしながら生活していくうえで、拠り所となる存在ではないだろうか。

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