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LINKED plus 病院を知ろう

生来の目標は地域医療への貢献。
そのために今、
内科の基本を徹底的に学ぶ。

自由度の高い研修プログラムを通じて、
患者さんに、触れて・聞いて・診る力を持つ医師を育てる。

松阪市民病院

「人間的にも未熟な自分が<先生>と呼ばれる、
その意味を考えながら日々努力し、一歩ずつ前進したい」と話す坂口 直医師。
三重大学医学部卒業、2年目の初期研修医だ。
坂口医師が松阪市民病院を選んだのは、
実践的な研修内容と自由度の高い研修プログラムに魅力を感じたから。
そのメリットを存分に活かし、
ユニークな「内科系の日替わりの診療科研修プログラム」を実践中だ。

内科・外科系の垣根を超えて、
研修医を見守る。

1月下旬の水曜日午前8時頃、各診療科の医師たちが三々五々、カンファレンスルームに集まってきた。テーブルの上には、温かいコーヒーやサンドウィッチ。軽い朝食をとりながら、和やかに雑談を交わす。しばらくすると、坂口医師が本題へと口火を切る。「今日は脳梗塞の症例について報告をします」。スクリーンには、経食道心エコー(食道から心臓を見る超音波検査)の画像。「心エコーも行ったんですが、食道から見た方が、心房の血栓がクリアに確認できました」。医師たちは画像を興味深く覗き込みながら、一言、二言、意見を交わす。発表する坂口医師も他の医師も、とてもリラックスした雰囲気で、上下関係の堅苦しさは一切感じられない。

同院では、こうした内科・外科合同カンファレンスを毎週1回行っている。参加は強制ではなく、内科、外科、泌尿器科、放射線科、病理室など各診療科から医師が集まり、困った症例を相談したり、注目すべき症例を報告したりする。通常、診療科単位の症例検討会はあっても、ここまで幅広い領域をカバーしたカンファレンスを開く病院は珍しい。「多彩な視点で議論になり、とても有意義。診療科の垣根の低い当院ならでは、ですね」と坂口医師。組織横断的に研修医の<学びの成果>を見守る場にもなっている。

坂口医師は2年目の初期研修医。医学生のときに訪れた病院見学で、研修医の先輩がビシビシ鍛えられているのを見て、「ここなら、チャンスがどんどん与えられる」と考え、入職した。

入って最初に驚いたのは、研修医室がないことだった。研修医は上級医たちと同じ医局にデスクを並べるのが、同院のしきたり。「先輩に囲まれて、気が休まるのかな」と心配したというが、実はそれがとても恵まれた環境であることに徐々に気がついた。「何でもすぐに相談できるんです。ここまで家族的な雰囲気とは思いませんでした」。業務が終わると、上級医に誘われ、食事に出かけることも多いという。

研修医の希望を最優先する
2年目の研修プログラム。

初期臨床研修プログラムは、厚生労働省の提示した到達目標に従い、1年目はある程度のローテーション研修(複数の診療科を回る研修)が決まっている。2年目のプログラムは、各病院の個性が発揮されるところだが、同院の場合、<自由度の高さ>が群を抜く。なんと11カ月間、研修医の好きなプログラムを組むことができるのだ。

そこで、坂口医師が指導医に相談しながら組み立てたのが、「内科系の日替わりの診療科研修プログラム」。月・火曜日は消化器内科で内視鏡を、水曜日は呼吸器内科で気管支鏡の手技を学ぶ。木曜日は消化器内科で腹部エコー検査を学び、金曜日は循環器内科で心臓カテーテル検査治療のチーム医療に携わり、午後から透析回診に随行する。主な内容をピックアップしただけでも、バラエティに富む。特定の診療科に固定することなく、文字通り診療科の垣根を超えて研修に勤しんでいるのだ。「このプログラムにしてから、同時進行で内科領域をすべて勉強できます。学んだ知識を忘れない間隔で積み重ねられるし、毎日内容が濃いなと感じています」と坂口医師は満足気に言う。

こうした多彩な研修の合間を縫って、坂口医師は救急外来にも積極的に入る。上級医とともに診療にあたり、入院が決まった患者のなかで、症状が気になるときは、その患者の主治医に「先生、一緒に診させてください」と依頼する。入院治療のプロセスを覚えていくのが目的だ。「来年、医師として独り立ちしたとき、本当に一人で診療できる力をつけておきたいんです」と坂口医師は話す。

研修医の指導にあたる小坂 良医師(消化器内科部長・研修管理委員会所属)は、「自分から積極的にやりたい人にとって、自由度の高いうちのプログラムはぴったりだと思います。プログラムの組み方をアドバイスするために、月に1度は進路ミーティングもしています」と話す。

安全性を担保しながら、
医師としてのリアリティを自覚できる体制づくり。

小坂医師が研修医を指導する上でもっとも心がけているのは、「安全性を担保しつつ、思いきり実践させることだ」という。どの診療科においても、あらかじめ「どこまで研修医に任せるか」というラインを定め、その線を超えそうになったら指導医や上級医が手綱を引く。その安全管理体制は患者を守り、研修医を守ることにも繋がっている。

「入職していきなり、救急外来に回される病院もあると聞きますが、うちは違います。段階を踏んでから救急当番が回ってきます」と坂口医師。同僚の高橋智紀医師も、こんな体験談を語る。「以前、救急の当直時に、心電図検査をしたら心筋梗塞の疑いがあり、慌てて上級医を呼んだことがあります。実際はそんな心配は全然なくて、怒られるかと思いましたが、『おつかれさん』とにこやかに言われました。逆に、呼ばないとすごく怒られる。だから、いつでも相談できますね」。

慣れない救急当直は、研修医にとって心細いものだ。坂口医師も最初は戸惑い、落ち込むことも多かったという。しかし、「医師の責任感は、そういうプレッシャーや苦しさのなかでしか身につかない」と、小坂医師は語る。「だから、研修医にはできるだけ早くから、患者さんの身に触れて音を聞いてもらう。緊張感のなかで、医師としてのリアリティを持ち、責任感を身につけてほしいと考えています」。

医師教育は患者のために。
地域で連携して、医師を育てていく。

坂口医師は今後の進路についてどのように考えているか。「もともと外科志望でしたが、研修を受けて、内科の方が性格に合っているかなと。今、もっとも興味があるのが呼吸器内科ですが、この病院なら呼吸器疾患だけを診ることも可能です。でも、もう少し小さい病院に行けば、いろいろな疾患を幅広く診なくてはいけない。僕自身は最終的なゴールを地方の中核病院に定めているので、今、基礎的な力をもっとつけたいんです」。

小坂医師は、そんな坂口医師の希望を踏まえ、後期研修のプランを練っているところだ。「後期も当院に残る坂口医師には、当面はどの診療科にも属さず、内科という大きな括りで動いてもらおうかと。そのなかで総合的に患者さんを診る力をつけてもらいたいと思います」。

また、松阪市民病院には内科の主要な科は揃っているが、脳神経外科、心臓血管外科などの診療科はない。それを補うために、早くから日本医科大学附属病院と連携を結んだり、三重県内の17の病院で研修できるMMC(ミエ・メディカル・コンプレックス)プログラムに参加(詳しくはバックステージ)。「外の病院で学びたい」という研修医を、積極的に外部へ送り出している。その狙いについて小坂医師は、「研修医は、自分たちの病院のものではないし、松阪市のものでもありません。そういう意味で、病院だけで研修医を抱えて育てるのはもはや時代錯誤。患者さんのために役立つ医師を育てるのが、私たち医療人の使命なのです」と言う。

地域医療が多様な医療機関の連携で成り立っているように、医師の教育も連携のなかで進化していく。時代のニーズを敏感に取り入れながら、同院は臨床教育体制をさらに磨き上げていこうとしている。

  • 研修医にとって、診療の実体験を積むことは重要だが、一方で、その臨床経験を論文にまとめる学術的な取り組みも不可欠である。松阪市民病院では早い段階から、研修医に学会発表の機会を与え、各自に論文作成を義務づけている。「自分で文献を集めてスライドを作る作業を何度も重ね、医学の進歩に合わせて常に勉強する重要性に気づいた」と語るのは、研修2年目の高橋医師。坂口医師も「自分の学びを外へ発信していくことは、医師を続ける上で、実はすごく大事だと思うようになった」と語る。
  • 同院の研修医は、年間5〜6回以上の学会発表を行う。また坂口医師は昨年、スペイン・バルセロナで開催された「欧州呼吸器学会」にも参加。畑地 治医師(松阪市民病院・呼吸器センター・センター長)の講演をはじめ、各国の医師の話を聞いて、大いに刺激を受けたという。

  • 三重県には、県内の臨床研修指定病院(17病院)が提携するユニークな研修制度<MMCプログラム>がある。これは、三重県で初期研修を行う研修医が、2年次の希望科目期間中に、県内の臨床指定病院のなかから希望する病院を選び、自由に研修できるものだ。松阪市民病院はこのMMCプログラムに参加し、研修医の学びの意欲に応えている。実際にMMCプログラムを利用する研修医は多く、価値ある研修機会になっているという。
  • MMCプログラムは、県内の各医療施設や行政などが団結して組織された<NPO法人MMC卒後臨床センター>が運営するもの。病院間の垣根を超えたネットワークにより、研修医のキャリアアップに繋がる研修を支援している。運営母体の異なる地域の病院が手を結び、地域で研修医を育てていく仕組みづくり。その成果は少しずつ着実にカタチになっていこうとしている。

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