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LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

医療と生活を繋ぐ大切さ。
芽生えてきた看護師の視点。

入院日数の短縮化に拍車がかかる今日、
医学的管理を必要としながらも、
在宅へ向かう患者の生活を、いかに守るか。

小濱由紀子
JCHO中京病院 地域医療連携・相談室

中京病院の地域医療連携・相談室が、
平成24年度に実施した退院調整数は、
総退院患者数16,670名のうち約1,300件を数える。
その一件一件の事案に、まるで家族のような思いで携わっている、
小濱由紀子看護師。彼女の視点をいかに院内に広げるのか。
そして、地域へ広げるのか...。

生活への視点を持つ
看護師だからこそ。

小濱由紀子は、中京病院の地域医療連携・相談室(以下、連携相談室)に勤務する看護師である。同室勤務になって、平成26年3月で丸6年が過ぎる。彼女の仕事は、がん相談、療養介護相談をはじめ多岐に亘るが、最も比重を占めるのは<退院調整>だ。

退院調整とは何だろうか。小濱看護師は言う。「国の医療施策に伴い、急性期病院の入院日数はどんどん短縮化されています。でも、患者さんが高齢の場合、病気が完治するには時間がかかり、また、複数の病気を抱えている方もいらっしゃいます。一方で、急性期の次の領域である回復期や療養期の病院は、地域には少ない。結果、まだまだ医学的管理を必要とする状態で、在宅医療、つまり生活の場に戻っていくことになります。そうした方が、自宅でも安心して療養できるように、ご本人やご家族のご希望に沿って環境を整えていく。それが退院調整です」。

具体的には、在宅で酸素吸入、経管栄養、中心静脈栄養などが必要な患者には、入院中から退院日までに、患者と家族に機器の使い方を指導する。また、療養指導・栄養指導・服薬指導などを行う。そして、必要な薬品や機器が滞りなく手に入る手はずも整えるという。さらに「老老介護や独居の方には、日々の生活の買い物をどうするか、といったことも考えなければいけません。在宅での主治医の先生、介護サービス事業者の方々と話を詰めながらの環境づくりです」(小濱看護師)。

入院日数が現在ほど短くなる前でも、退院調整は行われていた。活動の中心は社会福祉、生活支援などの制度紹介が主であり、それに精通する医療ソーシャルワーカーの仕事であった。だが、医療を抱えたまま生活に戻る患者の生活は、制度だけでは成り立たない。医療の内容が解り、且つ、生活への視点を持っている者が、コーディネートする必要性が出てきたのである。その担い手として浮上してきたのが、看護師だ。

現在、中京病院の連携相談室には、医療ソーシャルワーカーと看護師が同じ部屋にいる。当初は多職種協働における行き違いもあったが、互いの特性への理解が進むに従い、少しずつ役割分担が進んできたという。

心配で心配で
しようがない。

小濱看護師の経歴を紹介しよう。彼女は、看護学校を卒業して中京病院に就職し、外科病棟の看護師としてスタートを切った。結婚と2人の子どもの出産をはさみ、産婦人科・皮膚科・腎科・泌尿器科の外来や病棟に勤務。家庭の事情もあり一旦退職し、その間にはケアマネジャーの資格を取得し、地域の訪問看護ステーションに勤務。3人目の子どもを授かった後は、中京病院の看護学校での<在宅看護論>講師を経て、連携相談室の強化に伴い同室勤務となった。病棟、外来、在宅、そして教育と、多様な観点から看護を見つめてきた人である。

その彼女は、病棟勤務時代、医療を必要としたまま退院する患者が「心配で心配でしようがなかった」という。介護保険制度が始まる前のことであり、「高齢の患者さんが、退院後、ご夫婦でどうやって生活していくのか...」と思うといたたまれなかったのだ。復帰時に訪問看護を選んだのもそれが理由。在宅医療の実態を知りたかったと言う。「訪問先でいろいろな声を聞きました。『病院から追い出された』『病院の事情は理解したが、納得はしていない』。今でも『熱もあるし点滴もしている、この状態で次のところに行くの?』といった訴えはあります。患者さんやご家族が望む医療と、急性期病院が提供できる医療とにズレがあるんですね」。そのズレを少しでも小さくするために、小濱看護師は、患者と家族に寄り添い退院調整を行う。

看看連携をいかに創り上げるか。

中京病院では、入院1週間以内に病棟で患者のスクリーニングを行う。スクリーニングとは、入院前の生活状況、退院後の生活再構築の必要性など、9項目の視点から患者の状況を洗い出すことだ。そこで医師と看護師が、退院時に支援が必要だと判断すると、連携相談室に連絡が入る。

だが、「それでは遅い」と小濱看護師は言う。患者の病状、治療の到達点を医師に確認し、その一方で、患者や家族に退院後の方向性を確かめ、それに合わせて準備をする。2、3日でできることではない。「できれば入院前の外来診療の時点から、スタートさせたいですね。あるいは、入院した時点で、患者さんがどうしたいか、ご家族がどう支えていきたいか、そうした話を病棟でしてくれると、調整は、より早く具体的に進めることができます」。

退院調整の看護師と病棟看護師。同じ看護師でも退院後に対する視線は違うのだろうか。「短期間で集中的に治療を進めるとなると、病棟看護師は、どうしても生活への視点が欠如する傾向にあります。元々、在宅での療養の実態を、見たことがない看護師がほとんどですから」。

ますます入院日数が短くなり、一方で高齢の患者が増えていく今後を考えたとき、そうした視点の違いは大きな妨げになるのではないか。「病気を見るのではなく、患者さんを看る。疾患を見るのではなく、症状を看る。そして、医師が治療というスポットで診るのに対し、24時間患者さんの生活を継続的に看る。それが看護師です。看護師の仕事は、生活と切り離すことはできません。本来、看護師が持っているそうした気づきを、どう再認識してもらうかですね。その上で、外来、病棟、退院調整。もっと言えば、訪問看護、地域医療機関、介護施設など、看護師同士の看看連携を創り上げることが必要です」(小濱看護師)。

医療と福祉と介護を結ぶ。

看護師が、本来持っている生活への視点を、呼び起こすために、中京病院看護部の取り組みは始まっている。例えば、病棟看護師が患者の退院時、一緒に自宅へ行く、連携相談室で一日実習を行うなど、希望を出せば許可が下りる。また、病棟での退院調整の流れや介護保険についての勉強会。そして、地域の訪問看護師やケアマネジャーによる研修会など。さまざまな機会を用意している。

こうした院内での活動に加え、「これからは地域への視線を伸ばしたい」と語るのは、連携相談室の前身である病診連携室を立ち上げた、大矢早苗看護部長である。「退院後の生活となると、連携相談室が道筋を作っていますが、でも、当院だけがどれだけ頑張っても、すべては支えきれません。そこで、地域の訪問看護師と一緒になって、ヘルパー・宅配業者・配食サービス・デイケア・デイサービスなど、在宅医療に関わる人や事業所と<南区介護事業所連絡会>を立ち上げ、活動をしています。また、<退院調整看護師の会>もスタートさせ、名古屋市内から始まって、現在は名古屋市外まで広げ、定期的な勉強会やディスカッションを行っています。

院内を見ても、看護師を配置した入院予約センター、訪問看護を含めた在宅医療部など、患者さんの生活を支援するために、やりたいこと、やらなければならないことは多々あります。しかしその一方で、これからの社会では、医療と福祉と介護が単独で存在するのではなく、同じ目線を持って地域で連携することが不可欠です。そのための第一歩を、たとえ小さくても進めていきたい。それがこの地域の基幹病院である、中京病院看護部の責務であると考えます」。

連携相談室が退院調整を行った数は、平成24年度で1300件、25年度は12月ですでに1200件を超えているという。病気は医師が診るが、生活は看護師が看る。その看護師の能力を患者に、地域に、最大限に活かすための歩みを、中京病院看護部は自らの課題としてとらえ、その責務を果たそうとしている。

  • 大矢看護部長は、病診連携室を立ち上げ退院調整に取り組み始めたとき、2カ月間、愛知県看護協会・訪問看護職員養成講習会を受講した。実際に自宅での療養現場に触れ、そこで痛感したのは、「自分も含め、病院の看護師は在宅医療を何も理解していない」ということだったという。
  • 教科書を読むだけでなく、現場を見ることの必要性。そしてそこから、病院での看護のあり方を考える大切さを、現在の看護師にも解ってほしい。それが本文で紹介する<病棟看護師が患者の退院時、一緒に自宅へ行く>という取り組みに繋がった。
  • 患者の退院時は、在宅の主治医や訪問看護師が、患者宅を訪問することが多い。病棟看護師にとっては、退院前に行う在宅チームとのカンファレンスに加え、もう一度、担当患者の在宅生活に対して話し合いをすることができる。それは病院内では得ることができない、大きな気づきを持つことに繋がっている。

  • 我が国の医療は、在宅中心へと向かっている。病院・病床機能の分化を強化し、異なる領域を担う病院同士の連携、そして、在宅医療・福祉・介護サービス事業者との連携促進に大きく舵が取られているのだ。
  • その視線の先にあるのは、地域包括ケア。病気を抱えても、自宅などの住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を続けられるために、医療・介護の関係機関が連携し、包括的かつ継続的な在宅医療・介護を行うことがめざされている。
  • 急性期病院における退院調整は、いわば地域包括ケアへの扉。患者の日常生活能力をしっかりと意識し、最終的な生活さえも見つめて、その道筋を創り上げることが大切だ。
  • そうした機能を担えるのは、生活を看る専門家である看護師。小濱看護師のような「心配で心配で」という思いが、患者の「安心」に繋がっている。

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