LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
ナースステーションの整理整頓から始まった業務改善。
その本質は、単なる環境整備ではなく、
看護師が患者と向き合うことにある。
高藤和子/
JCHO中京病院 25病棟看護師長
高藤和子25病棟看護師長は、
これまでにICUや内科系病棟の〈業務改善〉を担い、改革を実現させてきた。
その実力を、大矢早苗看護部長は、〈きちんと人を見ている〉、
〈誰にでもきちんとものが言える〉ところにあると言う。
その彼女がリーダーシップを発揮した、25病棟の業務改善を追う。
看護師長の高藤和子は、平成25年4月から中京病院25病棟に異動となった。大矢早苗看護部長から〈病棟の業務改善〉という、指示を得ての配属である。
当時の25病棟は、消化器内科・消化器外科・耳鼻咽喉科の混合病棟であり、病床は60床、看護師は40名。看護方式は、3チーム制で、固定チーム継続受持ち制であるが、一部に機能別方式が残っていた。そして患者は、入院時の病期により急性期・慢性期・終末期に大別され、リーダーを含む4名編成の3チームが、それぞれを担当。夜勤は16時間勤務であった。
随分以前から、この病棟は〈中京病院で指折りの多忙な病棟〉だと、院内で定評があった。平成27年3月まで副看護師長を務めた河村充紀(現・18病棟看護師長)は言う。「僕が新人のころから、とにかく忙しい病棟でした。それがここ10年ほどで、患者さんの高齢化、それに伴う認知症患者さんの増加、そして、手術件数の増加、平均在院日数の短縮化などが重なり、看護師はますます忙しくなりましたね」。
平成24年度の実績で見ると、入院患者は月に約120名、退院患者は同じく約125名、手術件数は年間約1220件(緊急手術約300件)、そのうち1/3は夜勤帯手術である。
結果、看護師の時間外勤務は、一カ月平均約10時間。副看護師長の依田悦子はそのころを振り返り、「チーム間の協力はありませんでした。みんな誰もが忙しいのを解っているので、頼むことができないんです。日勤帯でも帰るのが午後8時9時になり、忙しいのが当たり前、時間外は仕方ないとみんな思っていました」と言う。
チームの看護師数が減る夜勤帯では、数名の術後患者を一人で看護し、16時間中、仮眠も取れない。スタッフには疲労感が折り重なる...。その是正を目的に、前の病棟師長は夜勤12時間体制への変更に踏み切った。しかし、蔓延する忙しさと環境変化の戸惑いのなかで、平成25年3月、7名の看護師が退職。高藤は、そうした25病棟の看護師長となったのだった。
高藤は語る。「病棟での看護師数が増えても、25病棟だけは、忙しさや帰る時間が変わらない。何か問題があると、看護部でも気づいていました。私が自分の目でここを見たとき、最初に感じたのは、ナースステーションを中心とする病棟内の煩雑さです。モノがいっぱい溢れ、器材庫などは、奥に入っていけない。必要なモノを探すだけで時間を費やすのです」。
高藤は、副看護師長3名を集め問題点を一緒になって考えた。そこから生まれた〈業務改善計画〉。それは病棟内の整理整頓、3チームから2チーム制への変更、完全なる固定チーム継続受持ち制の実施、中日勤(午前8時~午後9時)の業務整理、病棟動線の明確化など。河村と依田は異口同音にこう話す。「師長と話はするものの、本当にできるか? と疑問でした。忙しいなかでもずっと続けていたことを、すべて変えるのですから。スタッフたちの抵抗もあるのではと...」。
「でも本当はね」と高藤は微笑む。「副師長たちも、変えなければと思っていたんです。手始めに私と一人の副師長とで、ステーションの整理整頓をバタバタとやり出したら、一緒にやってくれましたからね。〈忙しい〉を理由に、手をつけるきっかけを逃していただけなんです」。
改善活動の一つである2チーム制。これは4名編成での3チームを、6名編成での2チームにしたものだ。「6年以上の経験がある看護師をリーダーにし、チーム全体の業務把握がしやすいようにしました。その上で、チームの受け持ち部屋を決め、担当患者さんの入院から退院まで、すべてを看る固定ナーシングです。従来に比べ患者さんとの会話も増え、また、責任の所在も明らかになりました」(高藤師長)。
スタッフの抵抗はどうだったか? 高藤は「この病棟の看護師は、不思議なくらい素直なんです。そして、明るい。長年に亘って培われた25病棟の風土ですね。『まずやってみようよ。嫌なら元に戻せばいいから』。そう言うとみんなやり始めました。なかには新しく設定した看護方式にすぐには慣れない看護師もいますが、それはチームで話し合いをさせました」と言う。
現在の25病棟時間外勤務は、一カ月平均4時間弱。今年3月までの2年間での退職者は、産休と結婚による引越しの2名だけ。大きな変化を遂げたのだ。
病院で指折りの多忙な病棟の業務改善。それを高藤看護師長が持つ強いリーダーシップにより、25病棟は大きく変わった。「私ではなく、副師長をはじめスタッフみんなが変えたんです。それが何より大切です」と高藤は言う。
そうした25病棟の姿を追ったとき、これは何も中京病院だけの問題ではないという思いを抱く。超高齢社会に突入した今日では、いずれの高度急性期病院でも高齢患者が増え、昔のように手術をして元気に退院、といったケースは少なくなるだろう。入退院の繰り返しも増え、そのぶん手続きや準備も度重なり、病棟看護師にとって忙しさは拡大。25病棟が抱えていた問題は、いずれの急性期病院でも、大なり小なり共通するのではないだろうか。
前述の河村は「認知症の患者さんには見守りが必要です。また、終末期の患者さんには、話を聞くこと、背中をさすることでも大切な看護です。しかし一方では、緊急度の高い患者さんもいて、命にかかわる状態となれば、すぐにも駆けつける。短い入院期間のなかで、自分が患者さんに本当に提供したい、また、提供しなければいけない看護に、没頭できないジレンマがありました」と話す。また、依田は「7名が同時期に退職したとき、私たちの病棟と看護のあり方を、きちんと考えるきっかけになりました」と言う。
人は誰でも、自らが大きな傷みを持ったとき、その根幹を見つめ始める。そして、新たな挑戦へと歩み出す。そうした看護師たちの闘いを積み上げて、これからの社会は、医療を守り通していかなくてはならない。
25病棟の業務改善に、平成26年4月から新たに一人の副師長が加わった。尾崎美加である。彼女は何を行ったのか。「どの病棟にも看護補助者がいますが、25病棟では活かし切れていませんでした。そのため看護補助者に任せる仕事を明確にし、看護師は看護に専念できる環境づくりを始めたのです」。具体的には、看護補助者が術後の受け入れ準備、病室の環境整備、医療器材の準備、患者さんの移送などを行う。現在は入院の案内も実施するなど、看護師がもっとベッドサイドに行けるよう業務分担した。尾崎という新しい力を得て、スタート時には後回しにした次のステップに、25病棟はまた一つ、上がったのである。
「でも、本当の改善はこれからです」と高藤は言う。「この2年間、私は、スタッフに向き合ってきました。そのストレスを減らし、辞める看護師を減らすには、どうしたらよいかという視点です。それはそれでとても大切なこと。でも、私、本当は患者さんに向き合いたいです。看護師ですから。スタッフが、もっともっと患者さんのベッドサイドに行き、もっともっと高度な看護ができるように、これからはスタッフの教育に全力を注ぎます」。
高藤は、今後すでにいくつかの目標を持っている。例えば、〈疾患を学ぶ〉、〈観察力を高める〉、〈危険を早期発見する〉。これは長いスパンでじっくり取り組むことだと、彼女は考えている。
最後に、看護部長の大矢は言う。「25病棟の自己改革のムーブメントを、看護部全体に広げていきたいですね。もちろん、病棟ごとに事情は違いますから、それぞれが考えなければいけません。でも、看護師が看護師としての能力、やり甲斐を身につけ、看護師になってよかったと思えることが、結果、患者さん主体の看護に繋がると考えます」。
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