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LINKED plus 病院を知ろう

次代の医療モデルを創造する。
それが中京病院のプライド。

超高齢化が進む都市部で、
これからの地域医療のカタチを求めて
新たなチャレンジが始まっている。

JCHO中京病院

社会保険中京病院から独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO:ジェイコー)中京病院に
移行したのが平成26年4月。
それから約1年半、同院は〈地域医療の要となる〉ための新しい試みを精力的に展開している。
同院が進めるチャレンジの行方を探った。

明日の地域医療を創るために、
新たな連携に取り組む。

中京病院の絹川常郎病院長は、フットワークが軽い。近隣病院の院長同士の会合、医師会主催の在宅医療の会議など、さまざまな集まりに顔を出し、ともに地域医療を支える関係者たちと対話を深めている。「JCHO中京病院となり、地域の医療機関や行政などと連携して地域医療改革を進めることが当院の重要なミッションとなりました。そのために、日々奔走しているんです」と、絹川病院長。

これまで築いてきた連携のカタチは、大きく分けて三つある。一つは、高度急性期・急性期医療を提供する連携。設立母体が異なり、ライバル関係にある病院の院長がしばしば集まり、腹を割って話し合う。手術室に余裕が無く、受け入れた救急患者の手術を連携病院に依頼したり、ある病院で医師不足の診療科があれば、別の病院から応援医師を派遣するなど、緊密な関係を深めている。「名古屋市南部には豊富な医療資源があります。一つの病院ですべてをカバーすることにこだわるのではなく、連携病院全体で、地域に必要な高度医療を提供できればいい」というのが、絹川病院長の考えだ。

二つ目は急性期を脱した患者を受け入れる回復期医療、あるいは、慢性期医療を担う病院との協力関係を深める病病連携。絹川病院長が「まずはみんなで集まって話そう」と呼びかけたところ、南区にある12病院が参加を表明。定期的に〈名古屋南区病病連携会〉を開いて、急性期から回復期、慢性期、そして在宅へとスムーズにバトンを渡し、患者に継続した医療を提供するための方策について議論を重ねている。

そして三つ目は、地域の診療所、在宅医療関係者との連携である。地域包括ケアシステム(※)の構築に向けて、医療・介護・福祉機関が連携を深めるなか、同院もその〈輪〉に加わり、在宅医療のバックアップ体制づくりを模索している。「超高齢社会に必要な地域医療のカタチを創造するために、今後さらに地域の医療・介護・福祉機関との連携を深めていくことが重要だと考えています」(絹川病院長)。

※ 地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを包括的に提供する仕組み。

医療人の育成拠点として、地域医療に貢献する。

積極的な地域連携と並んで、絹川病院長が力を注ぐ先駆的な試みが〈次代を担う医療人の育成〉である。前号でも紹介したように、同院は地域包括ケア時代の医師を育てることに照準を合わせ、総合的な診療能力を持つ専門医や総合診療医の育成に力を注ぐ。「高齢の患者さんは複数の病気を抱えていることが多く、専門医にも広い診療能力が問われます。これからの医師は専門医であっても高齢者の診療に際しては、在宅医療への視点も持ち、慢性疾患を抱える高齢者に対応できることが必須条件になるはずです」と、絹川病院長。

そのため、平成26年秋から、医師の初期臨床研修プログラムの研修先の一つとして、同じ南区にある在宅療養支援病院(24時間体制で在宅療養を支える病院)の笠寺病院での研修を組み入れた。ここで研修医たちは急性期を脱した後、患者がどのような経過を経て在宅へ戻っていくのかを身をもって体験する。さらに、中京病院をはじめとした急性期病院から患者を受け入れる側が、どんな課題に直面しているかを学び、在宅療養支援の必要性について理解を深めている。この他、同院では、後期研修で高齢者医療を学ぶプロジェクトも推進している。

こうした医師教育に続く第二弾として、絹川病院長は〈地域の看護師教育〉を計画している。「たとえば、看護職への復帰を考える人を当院で再教育して地域へ送り出したり、当院附属の介護老人保健施設を〈在宅ケアへの移行を学ぶ場〉として提供するなど、地域で活躍する看護師の育成を強力に支援したいと考えています。それが軌道にのったら、リハビリテーションスタッフや薬剤師の教育へと、どんどん裾野を広げていきたい。人材教育の拠点病院として、地域の方々に役立てていただけるようになれば理想的ですね」と、構想をふくらませている。

アイデンティティの混乱期を乗り越えて。

地域連携、医療人の育成と、次々と先駆的な試みを打ち出す絹川病院長だが、JCHOに転換してからの1年半余りは、決して平坦な道のりではなかった。組織改変に伴い、看護師などの離職があったほか、さまざまな業務手続きの変化などに戸惑う職員もおり、院内には組織の変化をネガティブに受け止める向きもあったという。

「それまで当院は、社会保険中京病院として〈保険診療の模範的な病院〉となることを使命としてきました。それがJCHOになり、当初、そのミッションを充分に理解できず、職員たちは一時的に自分たちのアイデンティティ(存在意義)を見失い、仕事へのプライドを持ちづらくなったのではないかと思います」と絹川病院長は分析し、こう続けた。「確かに組織は変わり、使命も変わりました。でも、模範的な病院をめざす、あるいは模範となる医療を提供する、という、アイデンティティの根幹は以前と何ら変わりません」。

組織改変により、同院の使命は〈保険診療の模範的な病院〉から〈地域医療の模範的な病院〉をめざすことへと変わった。しかし、理想とする医療のあり方を、先頭に立って示していくという立ち位置は、これまでもこれからも変わることはない。「そのことを、職員みんなに理解してほしい。そんな思いもあって、私が率先してアイデンティティを体現してきたつもりです。地域連携も、医療人育成の仕組みづくりも、我々こそが〈地域医療の模範〉を示さなければならない、というプライドを持って進めています」と、絹川病院長は言葉に力を込める。

名古屋市南区から
これからの地域医療のカタチを発信したい。

強いリーダーシップを発揮し、地域医療改革に取り組む絹川病院長は、同院のある名古屋市南区について、「いろいろな条件が揃った超高齢社会の先進地域。新しい試みを展開する上で申し分ないフィールド」だと評価する。南区は、市内トップの高齢化地域。人口は約14万人、高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は実に27・8%(平成26年10月1日現在)にのぼる。医療機関は充実しており、医療・介護・福祉関係者の繋がりも良く、力を合わせて地域包括ケアシステムを作ろうという気運がある。この恵まれた地域で、絹川病院長はこれからの病院のビジョンについて次のように描く。

「まず第一に当院の守備範囲である高度急性期医療は今後も堅持していきます。たとえば、広域圏からもドクターヘリで患者さんが運ばれてくる重症熱傷への対応、有数の実績を持つ小児循環器疾患の治療など突出した部門はもちろんのこと、病診連携医からの紹介患者をベースとした幅広い疾患に対する専門的医療の提供を行っていきます。救急医療以外では、入院患者の3割近くを占めるがん患者の診療についてもほぼすべてのがんをカバーしており、近隣の患者さんへの手術待ちの時間の短縮や、外来化学療法、緩和医療の充実を図っています。その他の領域にも中京病院が得意とする疾患が含まれています。その一方で、在宅医療の支援にも踏み込んでいきます。患者急変時の後方支援だけにとどまらず、具体的に今すぐ始めたいのは、看護師による在宅医療支援です。すでに当院では、看護師による退院調整に着手していますが、それを一歩進めて、看護師が患者さんの退院に同行したり、数日後にご自宅を訪問したりして、安心の療養生活を支えていきたいと考えています」。さらに絹川病院長は中期的な計画についても言及する。「少し視点を変えて、災害拠点病院としての機能強化も重要です。ここは名古屋港沿岸の埋立地ですから、東南海大地震での津波が発生すれば、地域の方々の緊急避難場所としても機能しなくてはなりません。そうした災害時の対応や、さらには当院の持つ高度で専門的な機能を発揮できる施設整備も進めていきたいですね」。JCHOのミッションを見据え、自らが率先してアイデンティティを体現していく絹川病院長。その強い統率力と実行力をエンジンとして、中京病院はいよいよ本格的に動き出そうとしている。

  • 今では当たり前となった社会保険診療。公的医療保険の被保険者やその家族が医療費の一部を負担し、公的医療保険から保険医療機関への報酬が支払われる仕組みである。日本では昭和初期に始まった制度だが、その後、第二次大戦を経て、医療保険による診療は存続の危機に直面。戦後の社会的、経済的混乱により、国民健康保険を休止または廃止する組合が続出し、国民から保険診療が敬遠されるようになったのである。
  • こうしたなかで、医療保険の再建に向け、厚生省(現厚生労働省)が全国に展開したのが社会保険病院である。社会保険病院の使命は「保険診療の模範となる医療」を提供すること。すなわち、社会保険診療に関する法令や制度に基づき、適正な保険診療と診療報酬請求を行う医療機関の〈お手本〉をめざしてきた。「我々こそが地域の医療機関の模範となる」という高潔な精神は、JCHOになった今も病院のDNAとして脈々と受け継がれている。

  • 〈保険診療の模範的な病院〉から、〈地域医療の模範的な病院〉へ。JCHO中京病院は新たな使命のもと、歩み出している。〈模範〉とは、〈見習うべき手本、モデル〉という意味である。今、地域医療は改革の真っただ中にあり、お手本となる地域医療のカタチはまだ確立されていない。中京病院の挑戦は、その、どこにもない次代の地域医療モデルを創造することにある。そして、そこに自分たちのアイデンティティ(存在意義)を再確認しようとしている。
  • 次代の地域医療モデルを創造するために、絹川病院長は強いリーダーシップを発揮し、組織を動かしていく。その目線の先にあるのは、同院が素晴らしいと評価されることではない。「中京病院のあるこの地域の医療は素晴らしい」と評価される未来を志向する。同院が〈地域医療の模範的な病院〉となり、名古屋市南区が〈地域包括ケアシステムの模範的なエリア〉となる日をめざし、果敢なチャレンジが続く。

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