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医療資源を集約し、
この地域で必要とされる高度な医療を
すべて提供していきたい。
公立西知多総合病院
平成27年5月1日、東海市民病院と知多市民病院が統合して誕生した公立西知多総合病院。
オープンからおよそ半年、同院では質の高い急性期医療を展開し、地域での認知度アップをめざしている。
今回は幅広い診療領域のなかで、特に消化器領域にスポットをあて、
どのような医療が展開されているのか、そして今後のビジョンについて探った。
見晴らしの良い高台にある公立西知多総合病院。広々としたロビーの待ち合いには、朝早くから大勢の患者や家族が訪れ、診察の順番を待っていた。
「診療所の先生方からのご紹介がかなり増えてきました」と話すのは、同院の開院に合わせて招聘された消化器内科の山田恵一部長である。同科の対象とする疾患は、消化管(食道、胃、小腸、大腸)、肝胆膵(肝臓・胆道・膵臓)疾患など腹部領域全般にわたる。消化器内科では、これらの疾患に対応し、的確な診断と最適な治療を行っている。特に力を注いでいるのは、最新のハイビジョン内視鏡機器を用いた検査・治療である。
検査では、一般的な上部・下部内視鏡検査のほか、高度な超音波内視鏡検査(EUS)も手がける。EUSは消化管の中から超音波をあて、消化管の粘膜層や周囲の臓器などの画像を得るもの。粘膜層の病巣の広がりを調べることができ、体の奥にある膵臓や胆のう・胆管の詳細な情報も得られる高度な検査技術だ。
内視鏡を用いた治療では、胃の早期がんに対する内視鏡的粘膜剥離術(ESD:内視鏡専用の電気メスを用いて病変を切除する手技)などの実績を着実に積み重ねている。「特に難しい症例については、名古屋大学(以下、名大)の専門医を招いて一緒に治療を行っています。最先端の治療法を学ぶ貴重な機会になっています」と山田部長。この他、山田部長自身が専門とする肝臓領域では、肝がんに対するラジオ波焼灼療法(※)や、C型肝炎に対するインターフェロンフリー治療法(インターフェロンを用いない経口治療薬)を取り入れるなど、最新の知見に基づく治療を精力的に展開する。「今後はより広い領域で専門性を高め、難しい疾患への対応力を強化していきたいですね」と意気込みを語る。
※ 皮膚を通して電極針を腫瘍に挿入し、ラジオ波という電磁波による熱でがん細胞を凝固させる治療法。
同院の外科においても、新病院の開院に合わせて、消化器領域に精通した専門医が招聘され、充実した診療体制が整った。「消化管に加え、肝胆膵を専門とする専門医も揃い、多様な消化器疾患に対応できる体制は万全です」と話すのは、外科の青野景也統括部長だ。外科では消化器疾患を中心に、内分泌疾患、呼吸器疾患などに幅広く対応。全身麻酔を行う手術件数は、この半年間で約330件にのぼる。どのような手術が多いのだろうか。「多いのは、消化器がんの手術ですね。肝胆膵のがんについては開腹手術が中心ですが、早期の胃・大腸がんなどは、低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に採用しており、手術全体の7割ほどを占めています」。
腹腔鏡下手術は、腹腔鏡(内視鏡)カメラと手術器具を腹部に挿入し、モニター画面の映像を見ながら行う手術。開腹手術に比べて傷が小さく、早期に離床できるメリットがある。「患者さんの負担軽減のためにも、腹腔鏡下手術の適用をさらに広げていく計画です。安全性を担保しつつ、食道がん、肝臓がんに適用できる技術を磨いていきたいと考えています」と青野統括部長は抱負を語る。
また、外科においても、消化器内科と同様、難しい症例については名大や近隣の藤田保健衛生大学のエキスパートに指導を受けているという。「両大学の先生方に当院で手術していただいたり、当院の医師が大学病院に出向いて指導を受けることも多くあります。そうした取り組みが功を奏し、外科全体の技術レベルがかなり向上してきたと感じています」。
これまで知多半島の北西部地域には、二つの市民病院(東海市民病院と知多市民病院)があったが、どちらも深刻な医師不足により、地域に必要とされるだけの充分な急性期医療を提供できない状況だった。診療科すべてに常勤医が配置されていないため、診療レベルが向上せず、指導医不足から臨床研修医も獲得できず、救急医療も機能不全になるといった、負のスパイラルに陥っていたのだ。
知多市民病院に4年ほど勤務していた青野統括部長は、医師不足と闘っていた状況を次のように振り返る。「外科医が少ないことはもちろん、以前は常勤の麻酔科医がいなかった。緊急手術などでは、自分で麻酔をかけなくてはならず、非常に厳しい環境でした」。そうしたマンパワー不足に加え、山田部長は医療機器の不足にも言及する。「以前は内視鏡設備も充分ではなく、最先端の治療をしたくても、やれることが限られていました」。
今回の統合は、このような診療機能の弱点を解消し、プラスへと大きく転換したもの。地域の医療資源(人材、設備など)を、東海市、知多市という行政単位でとらえるのではなく、知多半島北西部地域全体でとらえ、分散していた資源を集中し、さらに強化したのである。まず外科については、常勤の麻酔科医が2名着任。緊急の手術にも迅速に対応でき、外科医が手術に専念できる。術後の全身管理を担うICU(集中治療室)のバックアップ体制も整った。設備については、最新の内視鏡機器を備えた内視鏡センターが整備され、診療環境は飛躍的に向上した。統合によって、この地域に必要な急性期医療を提供する体制が整ったといえるだろう。
高度な診療体制が軌道に乗り始めた今、将来に向けて、どんなビジョンを描いているのか。同院の内視鏡センター長であり、消化器領域全般の診療を率いる安藤貴文副院長に話を聞いた。「病診連携を大切にして、診療所の先生方と一緒に、この地域で頻回に発症する消化器疾患に、しっかり対応していきたいと考えています。その上で、さらなる診療機能のレベルアップをめざしていきます」。診療機能については、将来的には放射線治療部門も整備し、がんの初期から終末期の治療まで担っていく構想も持つ。すでに同院では、外来化学療法室(17床)と緩和ケア病床(20床)も整備され、がん患者が安心して治療を受けられるよう各部門の連携体制の構築が進んでいる。
また、診療レベルを高めるために、先述したような<大学との緊密な交流>も強化していく考えだ。実は安藤副院長は、アメリカでの留学期間を含めて約20年間、名大病院(消化器内科)に在籍しており、大学とのパイプは太い。「大学主催の研究会などには必ず出席し、情報収集しています。大学では多岐にわたる医療分野で、常に最先端の基礎研究・臨床研究を行っています。その最新の知見を当院の日々の診療に活かし、最先端の医療をこの地域の患者さんに提供していくことが私たちの大きな使命だと考えています」。
かつては、消化器疾患を患った地域住民が、専門的な治療を求めて遠方へ足を延ばすことも多かったというが、「これからは当院がしっかり対応できることを、地域の皆さんに知っていただきたいですね」と、安藤副院長。二つの自治体病院が統合し、院内には、心機一転、より良い病院を作っていこうという気概があふれている。「全職員の情熱を傾け、質の高い医療を提供していきます」。安藤副院長は明るい口調でそう締めくくった。
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