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LINKED plus 病院を知ろう

コミュニティホスピタルの牽引力をめざす、
〈リハビリテーション〉の可能性。

人材教育に情熱を注ぐ技師長と
次代の病院づくりを志向する病院長と。
二人の思いが一つに重なり、昇華へと向かう。

松阪市民病院

入院患者が一日も早く生活を取り戻すように働きかけるリハビリテーション。
松阪市民病院では、小倉嘉文院長の切望が実現し、
平成27年春、リハビリテーション室を率いる新しい技師長を迎えた。
次代を担うセラピスト育成をめざす技師長と、
次代にふさわしい病院づくりを進める病院長の思いが一つになり、
ここに新たなリハビリテーションの実践・教育の拠点が始動した。

リハビリテーション室に
着任した新リーダー。

平成27年春、松阪市民病院のリハビリテーション室に、新しいリーダーが着任した。岡田 誠技師長。それまで長年にわたり藤田保健衛生大学の医療科学部・リハビリテーション学科で教鞭を執りつつ、附属病院で臨床経験を積み重ねてきた理学療法士である。

当時、同院のリハビリテーション室には、合計10名のセラピストが所属。身体機能や生活動作の訓練、摂食・嚥下障害(食べ物がうまく飲み込めなくなる症状)に対する訓練などを行っていた。岡田技師長は初めて同院を訪れた際、セラピストたちの仕事ぶりを見て、「個々の能力は高いにもかかわらず、リハビリテーションのメニューが画一的。数少ないスタッフで多くの患者さんを治療するのに精一杯」という印象を受ける。圧倒的に不足していたのは、<エビデンス(科学的根拠)の構築と評価・検証>だった。

岡田技師長はさっそく、これまでアカデミックな領域で培ってきた最先端の知識と技術を用いて、リハビリテーション室の改革に乗り出した。真っ先に取り組んだのは、診療データベースの作成である。これは、患者ごとの疾病情報、リハビリ治療計画、経過などをデータとして蓄積し、リハビリテーションの効果を評価するものだ。「リハビリテーションの質を高めるには、どのような手技をどの程度行うことで、どういう効果があるのかを検証することが非常に大切。そこから、エビデンスに基づく目標設定や効果的・効率的なプログラムを立案できます」と岡田は説明する。こうした効果判定を始めてしばらくすると、セラピストたちの目が輝き出した。訓練の効果を一つずつ把握することで、リハビリテーションの方向性が明確になり、さらなる効果をめざそうという意欲が高まったのである。

また一方で、岡田は、院内におけるリハビリテーション室の位置づけの明確化にも力を注いだ。例えば、医師からの処方の出し方・受け方、看護師からの依頼への対応、勉強会開催など。各部署の要望を岡田がすべて掌握し、部門としての動きを確定づけることで、院内での認識を固めていったのだ。それは少しずつ職員に浸透を見せ始めている。

大学との人事交流も図り
人材教育に力を注ぐ。

岡田技師長はエビデンスに基づく効果的・効率的なリハビリテーションの構築と同時に、人材教育にも力を注いだ。理学療法士として積み上げてきた28年のキャリアのすべてを、院内のセラピストたちに伝授していった。また、教育の一環として、土日限定で、一人の患者を複数のセラピストが担当する<複数担当制>も導入した。これは、複数で担当することにより、熟練者から若手へのOJT(実務の場での指導・教育)を実践するとともに、リハビリテーションの内容や方法を標準化するための試みである。「できる人が一人いてもダメなんです。全員のレベルを高め、質の標準化をめざすためにも、ゆくゆくは全面的に複数担当制を導入しようと考えています」と意欲を見せる。

また、岡田技師長はリハビリテーション室の中堅セラピストに、前任地である藤田保健衛生大学で指導する機会も与えている。「私自身もそうでしたが、学生に教えることで、自分も多くのことを学ぶことができます。いわゆる<半学半教(相互に教え合い学び合う仕組み)>を通じて成長してほしいと思って、大学サイドにお願いしました」。岡田技師長自身、今も週に一度は大学で教壇に立つ。そうした繋がりから、平成28年4月から、藤田保健衛生大学の実習生を受け入れることも決まった。地域医療の最前線にある市民病院と大学が連携する、新しいリハビリテーションの臨床教育が始まろうとしている。

実は、こうした教育の取り組みは、岡田技師長が同院への赴任を決めた理由の一つでもあった。岡田技師長はその思いについて語る。「セラピストは、医師とは違い、国で定められた臨床研修制度がありません。したがって、国家試験に合格したら、臨床経験がなくても一人前と見なされ、現場での活躍を期待されます。でも、本当の成長は、現場に出てから。その卒後教育に関わりたいとずっと考えていました」。

リハビリテーションの強化を前提に、
病院の未来を描く。

岡田技師長が赴任を決めた理由にはもう一つある。それは、同院の小倉嘉文院長の熱意だった。小倉院長は以前から藤田保健衛生大学に、「リハビリテーション室のトップを任せられる人材を紹介してほしい」と依頼していたのだ。その目的について、小倉院長は次のように説明する。「平成24年に呼吸器センターが動き出し、平成26年には循環器科のカテーテル治療チームも立ち上がりました。こうしたなかで、呼吸機能の低下した患者さんや心臓疾患を持つ患者さんに対するリハビリテーションにもっと力を入れ、早期退院を支援したいと考えていました。そのためには、充分な臨床経験とアカデミックな視点を持った指導者が必要です。また、その一方で、当院は地域包括ケア病棟(※)を導入する計画もあり、患者さんを生活の場へ戻していくには、リハビリテーションの充実は必須の課題でした」。

小倉院長がめざすのは、地域の人々の期待に応え、コモンディジーズ(頻回に発症する一般的な疾患)の対応はもちろん、呼吸器・循環器・消化器といった得意領域における急性期医療の質をさらに高めていくこと。同時に、患者の生活復帰を支援し、在宅療養への道筋をコーディネートする機能も兼ね備えた病院づくりである。次代の病院づくりを見据えてリハビリテーションの強化をめざす小倉院長と、次代を担うセラピストを養成したいという岡田技師長。二人の思いが一つに結合し、ここに新たなリハビリテーションの実践・教育の拠点が始動したのである。

※ 地域包括ケア病棟は、急性期治療を終えた患者の在宅復帰を支援すると同時に、在宅療養中の急変患者も積極的に受け入れ、再び在宅へ帰す機能を持つ。

リハビリテーションが
これからの病院づくりを牽引する。

小倉院長が構想するリハビリテーション強化の追い風として、平成27年12月より藤田保健衛生大学七栗記念病院からリハビリテーション専門医2名が非常勤として定期的に診療に加わることになった。さらに平成28年4月には、新しいセラピスト6名が入職し、リハビリテーション室のスタッフは総勢27名に増員される。

こうして体制の充実が着々と進められるなかで、岡田技師長はリハビリテーション専門医と連携しつつ、リハビリテーション室のパワーを増強していく計画を持つ。具体的には、各病棟に担当セラピストを配置し、専門医とともに病棟ごとのリハビリテーションのニーズにより速やかに、そして、より充分に対応していく。また、ゆくゆくは訪問リハビリテーションにも対応できるよう準備をしていく考えだという。

岡田技師長の計画に、小倉院長も同意する。「患者さんを在宅へ帰すには、当然、訪問リハビリテーションも必要になると思います。これから高齢化が進み、病院と在宅の間を行き来する高齢患者さんが増えていきます。その方々を支えるリハビリテーション機能が、この地域では不足しています。市民病院として、そういう不足したところを積極的に担っていきます。そして、これまで以上に地域コミュニティ(地域住民の集まり、繋がり)に密着し、地域の人たちの生活に寄り添い、支えていく、いわば<コミュニティホスピタル>のような存在になっていきたいと考えています」。

小倉院長の目線は、5年後、10年後の地域医療へ注がれる。その未来像を実現する上で、<リハビリテーション>が大きな推進力となっていく。

  • リハビリテーションの対象は、以前は脳疾患や整形外科疾患が中心だったが、近年、呼吸器疾患、循環器疾患など、さまざまな分野に広がっている。例えば、肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などにより肺機能に障害を持つ患者に対して、呼吸トレーニングや呼吸筋ストレッチ体操を行うことで、日々の生活の質が格段に向上する。あるいは、心臓リハビリテーション(運動療法や食事療法など)が、虚血性心疾患の予後改善に大きな効果があることも報告されている。
  • 松阪市民病院・リハビリテーション室では、そうした最先端のリハビリテーション医療を取り入れ、患者の生活復帰を支援している。また、同院で蓄積した診療データベースを基に、リハビリテーションの効果を学術的に検証。その成果を学会などで積極的に発信していく計画だ。

  • 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に向け、地域の病院の病床機能の役割分担を進める動きが活発化している。そうしたなかで、松阪市民病院も自らの病院機能の見直しに着手。コモンディジーズの対応力強化、得意領域における高度急性期・急性期医療を追求しつつ、急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、在宅療養を支援する機能を充実させる方針を打ち出している。
  • 今まで以上に地域の生活に密着したコミュニティホスピタルづくりを志向する松阪市民病院にとって、患者の生活の質向上に直結するリハビリテーションの強化は大きな原動力となる。その先には、大学と連携し、優秀なセラピストの育成拠点として発展する構想も広がっている。高齢化の進む松阪地区で、エビデンスに基づくリハビリテーション医療を強力に展開していく同院の取り組みに、今後も注目していきたい。

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