LINKED plus

LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

口から食べる幸せをいつまでも。

院内外に連携を広げ食べる喜びを守り
誤嚥性肺炎を防ぐ。

小久保佳津恵
JCHO中京病院

「私自身、食べることが大好き。食いしん坊なんです」と笑うのは、
摂食・嚥下障害看護認定看護師の小久保佳津恵である。
摂食・嚥下障害看護認定看護師は、加齢や病気によって、
食べ物をうまく飲み込めなくなった患者を支えるスペシャリスト。
専門的な知識と技術で、〈口から食べる喜び〉を守り、
誤嚥性肺炎の予防に奔走している。

地域の介護施設に出向き入居者の嚥下機能を評価して、
ケアの方法を指導する〈訪問NST〉の取り組み。

小久保佳津恵は中京病院の外科病棟に勤務するかたわら、摂食・嚥下障害看護認定看護師として、NST(栄養サポートチーム:詳しくはコラム参照)に所属し、精力的に活動している。その活動の一つに、〈訪問NST〉がある。これは、リハビリテーション科の医師らと一緒に近隣の介護施設を訪問。内視鏡を用いた検査を行い、入居者の嚥下機能(飲み込む力)を評価して、ケアの方法を施設の職員にアドバイスするものだ。嚥下機能は加齢とともに低下するが、安全に食べられる姿勢や食形態(きざみ食、ミキサー食など)の工夫で、〈口から食べる〉ことを維持できる。「人間にとって、食べることは人生の最期まで持ち続けたい喜びです。高齢になってもその喜びを味わえるように、少しでも力になりたいんです」と小久保は言葉に力を込める。

この院外でのNST活動は、ある退院患者の半年ぶりの受診がきっかけだったという。「当院を退院して施設で暮らしていた人が、胃ろうのチューブ交換のために受診されたんです。その際、診察した医師が〈この患者さんは、経管栄養だけに頼らなくても、口から食べられるのではないか〉と考え、私たちNSTに相談しました。そこで、後日、施設に出向いて嚥下機能を評価したところ、ゼリーなら食べられそうだとわかったんです。この患者さんは口から食べるようになって見違えるほどイキイキして、ご家族にとても喜んでいただけました」。この成功事例の噂が広がり、近隣の施設から問い合わせが寄せられるようになり、NSTのメンバーが随時訪問するサポート体制が定着した。

また、この訪問NSTには、もう一つ、大きな目的がある。それは、高齢者に多い誤嚥性肺炎の予防だ。「せっかく病気が良くなって退院しても、誤嚥性肺炎で再入院してくる患者さんが大勢いらっしゃいます。そういうことを少しでも減らすのが目標です」と小久保は言う。誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液とともに細菌が肺に入り込んで炎症を起こす病気で、高齢になるほど死亡率が高まる。その原因は、誤って気管に食べ物が入ることもあるが、口の中の細菌が含まれた唾液を吸い込むことでも発症するという。「誤嚥の予防には、誤嚥しにくい食事の工夫とともに、口内を常にきれいに保つ口腔ケアが大切。そうした専門的な知識と技術を施設の職員さんにアドバイスして、日常生活のなかで誤嚥予防に取り組んでいただいています」。

院内の意識改革を進めてきた10年間。
そして、今後は地域との連携をさらに強化していきたい。

小久保は、摂食・嚥下障害看護認定看護師の第一期生(平成18年、資格取得)。誤嚥性肺炎の高齢患者や経管栄養で食べられない患者と多く出会ううちに、「何か自分にできることはないか」と考え、この道を志したという。以来10年間、〈口から食べる喜び〉にこだわり、その重要性を院内に広めてきた。「最初の頃は、〈経管栄養していると、お口の中は食べ物で汚れないからきれい〉だと誤解している看護師もいました。でも、それは大きな間違い。口から食べないと、自浄作用や抗菌作用のある唾液が循環しなくなり、口の中に細菌が繁殖してしまうんですね。そうした基本から一歩ずつ、みんなの意識改革に努めてきました」。その地道な活動が実を結び、今は各病棟にNSTリンクナース(※)が育ち、小久保と一緒に入院患者の口腔ケアや嚥下機能のサポートを進められる体制ができてきた。

※ リンクナースは、専門チームや委員会と、病棟や外来に所属する看護師を繋ぐ(リンクさせる)役割を持つ看護師。

小久保が今、院内で力を入れているのは、「食べられる口を作っておこう」という取り組み。治療のため絶食している患者が、いつでも食事を再開できるように、口内の清潔や機能を保つための口腔ケア回診をしているのだ。また、誤嚥性肺炎をいち早く発見し、治療に結びつけるために、看護師の勉強会も今年度からスタートさせた。さらに、今後の目標は〈生活の場〉へ向かう。「入院中は口腔ケアや嚥下リハビリテーションにしっかり取り組めても、ご自宅や施設に戻ると、なかなか実践できません。退院後も正しいケアを続けられるように、地域の看護師さんと協力してサポートしていきたいと思います」。地域で暮らすすべての高齢者に〈食べる幸せ〉を届けるために、小久保の挑戦は続く。

口から食べると、味覚や嗅覚が刺激され、生きる力がわいてくる。「ずっと食べられなかった患者さんが、再び食べられるようになったとき最初の一口の、おいしそうな笑顔を見るのが何よりのやりがいです」と小久保はほほえむ。

  • 中京病院では早くから入院患者の栄養管理の重要性を認識し、平成15年にNST(栄養サポートチーム)を発足し、以来、精力的な活動を続けてきた。NSTの主な活動内容は、患者の栄養状態の評価、胃ろう造設の適応の検討、栄養改善のサポートなど...。毎週1回、NSTのメンバーが全病棟を回診し、絶食を続けている患者などが栄養不良に陥っていないかを評価。栄養面の問題点を解決し、全身状態の改善と生活の質(QOL)の向上を支援している。
  • NSTの構成メンバーは、医師(外科・神経内科・消化器内科・呼吸器内科・リハビリテーション科など)を筆頭に、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士まで、多職種にわたる。さらに近年は、嚥下食を作る調理師もメンバーに加わり、それぞれの専門家が知識・知恵・技術を持ち寄り、栄養サポート活動に取り組んでいる。

地域が一体となって
誤嚥性肺炎の対策に取り組む。

  • 高度急性期病院である中京病院の使命は、高度な治療を短期間で集中的に提供し、患者を適切な退院先へ送り出すことにある。患者の治療・看護に関わる期間が短いからこそ、地域の医療機関や介護施設などと連携し、退院後の生活を継続的に支援することが重要となる。
  • 今回、取材した〈訪問NST〉の取り組みはまさに、そうした継続的な支援の一つといえるだろう。この他、同院では地域の老人保健施設の職員と一緒に、誤嚥性肺炎のケアを考える勉強会を開催するなど、さまざまな形で地域連携を深めている。高齢になると誰でも誤嚥性肺炎にかかりやすくなり、また、一度かかると再発を繰り返し、死に至ることも多い。今後、高齢社会がさらに進行することを考えると、〈誤嚥性肺炎の予防と対策〉は、病院と在宅医療に関わる医療関係者が一緒になって取り組むべきテーマである。同院はその分野で先陣を切って、地域とともに闘っている。

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