LINKED plus

LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

患者や家族の思いに
寄り添い支援し続ける。

認定看護師から専門看護師へ、
キャリアを磨き続ける理由。

中村啓子
JCHO中京病院

看護師は、生涯学び続ける職業である。
最新の医療知識を吸収しながら、日々、臨床現場の実践を積み重ね、
看護の知識と技術を高め続けていくことが求められる。
その〈学び続ける看護師〉を、まさに体現するような看護師に出会った。
中京病院の中村啓子である。彼女は何を求め、
自らのキャリアを高みへと引き上げているのだろうか。

がんとともに生きる患者の生活の質を高めるために
理論的にアプローチしていく。

患者や家族の思いに、あきらめることなくどこまでも応えたい。そんな決意で日々看護に勤しむのは、がん看護専門看護師とがん化学療法看護認定看護師という2つの資格を持つ中村啓子(外来化学療法室・採血点滴室 看護師長)である。

たとえば抗がん剤の治療で辛い症状が出た場合、中村は「我慢してください」とは断じて言わない。患者の生活や症状、家族の心情などを総合的に考え、薬剤の処方だけでなく、生活面の工夫なども取り入れて、いろいろな角度から副作用を和らげる方法を模索する。対処が困難な状況でも「何か方法がないか調べてきます」と答え、宿題を持ち帰る。

こうした中村の粘り強いアプローチは、認定看護師から専門看護師へと学びを深めてきたキャリアから生まれたものといえるだろう。まず、中村ががん化学療法看護の道に進んだのは平成17年。それ以前、中村は、28病棟(血液科、眼科)に勤務し、主に血液がん患者の看護に携わっていた。当時は今ほど副作用を軽減する薬もなく、患者は辛い症状と厳しい生活制限に耐えていた。「入院中は、好きな食べ物も好きなことも我慢しなければならないことが多くなる。もう少し個々の患者さんの楽しみに配慮できないだろうか」。そう考えた中村は、化学療法看護を基礎から学び直す決心をしたのだ。

資格取得後、中村は、できたばかりの外来化学療法室に配属され、認定看護師教育機関で学んできた専門知識をいかんなく発揮していった。が、数年後、再びステップアップの転機が訪れる。「化学療法中だけでなく、がんと診断されたときから手術や放射線治療、終末期までを含めた一連の過程にずっと寄り添い支援し続けたい、という思いがでてきたんです。そのためには、がん看護全般を学ばなくてはならないと考えました」。平成22年、中村は三重大学大学院医学系研究科に進学。同院で働きながら、3年間で、がん看護の体系的な知識をマスターした。「放射線療法看護、緩和ケアなど幅広い領域にわたり、エビデンス(科学的根拠)のある看護理論を学びました。それまでは化学療法看護の狭い範囲で看てきましたが、もう少し大局的な見地から患者さんのQOL(生活の質)を考え、エビデンスに基づいた個別性のある援助ができるようになりました」と自信を深める。その幅広い知識の土台があるからこそ、冒頭で紹介したように、中村は患者の抱える問題に、多彩な角度から切り込めるのである。

がん看護専門看護師として、
院内外で看護職の教育支援に携わり、
地域全体の看護力を高めていく。

今、中村は、化学療法看護というサブスペシャリティ(専門分化した領域)を強みとする、がん看護専門看護師として、院内外で活動領域を広げている。

院内の取り組みの一つに、インフォームド・コンセント(説明と同意)への関わりがある。医師が診断や治療方針について患者に説明する際、中村も同席して、患者の意思決定をサポートする。さらに、より詳しい説明や対話が必要な場合は、再度、中村が患者と二人でじっくり話し合う。「抗がん剤の治療中も、仕事を続けたいのだが...」「乳がんの治療で、乳房温存か乳房全摘出か、決めかねている」など、患者の悩みや不安は多種多様である。中村は時間をかけて話し合い、患者と家族の思いを丁寧に聞き出し、治療に関わる情報を伝えていく。がん告知後の大きな不安の真っただ中にいる患者と家族にとって、中村のアドバイスはこれからの生活を切り拓く〈道しるべ〉となる。

この他中村は、看護師の教育面でも大きな役割を担う。院内では病棟の看護師からの相談に応え、副作用の対処法を指導したり、がん化学療法に関する勉強会でレクチャーしている。院外では、地域の医療機関の看護師を対象にした勉強会を開いたり、薬品メーカー主催の講演会の講師に招かれる機会も多い。「当院は、地域がん診療連携拠点病院(地域のがん医療の核となる病院)として、地域のがん診療の質の向上をめざす役割があります。私も看護の立場から貢献したいと思います。たとえば、在宅で安全・安楽に化学療法が継続できるように、訪問看護師の方にも支援方法を伝えていきたいですね」と意欲を見せる。

中村がめざすのは、地域のがん看護全体の質的向上。この街に暮らすがん患者と家族のすべての思いに寄り添うために、中村は明日へ挑み続ける。

患者や家族の思いに寄り添う、とはどういうことか。中村はその答えを、患者の人生に求める。「その人が人生のなかで一番大切に思い、楽しみにしているもの。それを軸に、生活の質を高める援助をしていくことを常に心がけています」。

  • 医学の高度化・専門化に伴い、平成6年に発足した看護師の専門・認定資格制度。認定看護師になるには、指定の教育機関で6カ月以上、専門看護師になるには、看護系大学院で2年以上学ぶことが要件となる。働きながら資格を得るには、勤務先の病院の支援体制が重要な鍵を握る。
  • 中京病院看護部では、質の高い看護を提供できる人づくりをめざし、専門・認定資格をめざす看護師を強力にサポート。受講中の給与を支給するなど、経済面でも後押ししている。そうした支援体制のもと、今日まで多くの専門・認定看護師を育ててきた。現在、専門看護師は、がん看護、老人看護など4分野にわたり合計5名が在籍。認定看護師は、がん化学療法看護、救急看護など14分野にわたり合計21名が在籍している。各分野で高い専門性を持つ看護師たちが、同院の看護部全体を力強くリードしている。

看護そのものを
高みへ引き上げる挑戦。

  • 看護師のキャリアアップとして、認定・専門看護師をめざす人が増えている。両資格の違いを端的に述べると、認定看護師は〈実践重視〉。現場で高い水準の看護技術を実践・指導するスペシャリストといえる。一方の専門看護師は〈理論重視〉。特定の分野において、看護技術と看護理論を体系的に理解し、エビデンスに基づく効果的な看護の実践・指導を行うことができる専門家である。
  • 中京病院の中村看護師は、〈患者や家族の思いに寄り添いたい〉という看護の本質を追求するなかで、ごく自然に、認定看護師、専門看護師の資格を両方持つことになった。彼女にとって重要なのは、ライセンスを増やすことではない。学びたい知識があったから、そこに飛び込んだのである。その貪欲な取り組みは、〈がん看護そのもの〉の質を高める挑戦といえる。日本人の二人に一人ががんにかかる時代。彼女に続くがん看護のスペシャリストが育つことに期待を寄せたい。

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