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LINKED plus 病院を知ろう

糖尿病への対応力向上で
地域医療の質を上げる。

ガーディアン(守護者)として医療を下支えする、
内分泌・糖尿病内科の価値。

愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院

西三河南部の基幹病院と、安城市の市民病院的な役割を担う病院という2つの顔を持つ、
安城更生病院。同院は、古くから糖尿病対応の重要性を認識し、
内分泌・糖尿病内科を中心に、病院全体で糖尿病対応力向上に取り組んできた。
そして今、その目線は地域へと向かう。

病院全体で、糖尿病に対応するという
歴史と伝統。

「4年前、安城更生病院に赴任して驚きました。これまで経験してきた病院のどこにも、こんなスタイルはなかった」と打ち明けるのは、内分泌・糖尿病内科の水谷直広病態栄養部長だ。水谷部長が指すのは、月1回開催される医療安全委員会糖尿病部会のこと。「部会には、内分泌・糖尿病内科のスタッフのほか、各病棟の看護師1名、院内各チームの主要メンバーをはじめ、医師・看護師・薬剤師ら総勢30数名が参加します。そして、その月の糖尿病に関する問題を持ち寄り、報告しながらディスカッションをするのです。いわゆる糖尿病チームが行うカンファレンスは、他の病院にもあります。でも、多職種・多診療科で、糖尿病に関するリスク検討を毎月実施している病院は、まずないと思います」。しかもこの部会、昭和61年に発足した〈糖尿病生活指導勉強会〉が前身であり、すでに30年の歴史を持つ。当時から多職種の間で活発な情報交換が行われており、それが現在に至るまで、脈々と受け継がれているのだ。

脳梗塞や心筋梗塞など、多くの急性期疾患の「温床」といわれる糖尿病。それゆえ、安城更生病院には、内分泌・糖尿病内科以外の診療科にも、糖尿病を抱えた入院患者が多数存在する。そうした患者の血糖コントロール(インシュリン注射などによる血糖値のコントロール)も同科の重要な役目であり、依頼数は実に同科の患者の約3倍にも達する。近藤國和副院長兼内分泌・糖尿病内科代表部長は言う。「血糖コントロールが不充分だと、治療がうまくいかなかったり、状態が悪化する疾患は多くあります。例えば、手術前後の細かい血糖コントロールは、非常に重要です。血糖値が高い状態で手術を行うと、感染を起こしやすい、傷がかい離するなどの危険性があり、術後の回復も悪くなります。そのため私たちは血糖値の推移、最新の薬剤に関する知見などを活かし、血糖値を下げるだけでなく、可能な限り血糖値が上がらないコントロールを行います」。

「かつては、多くの病院で、専門ではない医師が、何となく糖尿病に対応していた時代もあった」と近藤は言う。そうしたなかで安城更生病院には、古くから病院全体で糖尿病に対応しようという風土が根づき、各診療科と内分泌・糖尿病内科が連携。同院の高度急性期医療の質を保ち続けてきたのだ。

「糖尿病治療では、血糖値の推移を正しく把握することが大切です。近年、持続血糖測定器(CGM)が開発されたことで、連続した血糖の推移が把握できるようになりました。また、1型糖尿病に対してはCGMと連動し自動的にインスリンを注入できるSAP療法が開発され、当院でも積極的に活用しています」(近藤副院長)。

糖尿病への理解を促し、
地域全体で、糖尿病対応力を向上。

糖尿病は、一言でいえば、血糖値の高い状態が続く疾患だ。生活習慣が直接の原因とならない1型と、生活習慣に起因する2型があり、発症者の約95%は2型糖尿病といわれる。すなわち、過食や運動不足、アルコールの飲みすぎなどにより発症する2型糖尿病は、現代社会においては〈誰もが罹る可能性のある疾患〉なのだ。

糖尿病の怖さとは何か? 水谷部長は、症状に気づきにくく、重篤な合併症が出るまで放置される点を指摘する。「例えば、目が見えにくくなったと眼科を受診された患者さんが、糖尿病を疑われて当科を受診し、重い腎機能障害や心筋梗塞が見つかるケースもあります。大切なのは、いかに早期の段階で発見し治療を開始するか。当科では、地域診療所の先生との勉強会を定期的に開催していますが、この活動をさらに広げ、できるだけ早く当院に相談してもらえる関係を作っていきたいですね」(水谷)。

他方、糖尿病は薬だけでは治らない疾患という特徴も持つ。近藤副院長は言う。「糖尿病治療で重要なのは、生活習慣をいかに改善するか。患者さんの意識改革と行動変容が欠かせません。そのために当科では、教育入院(コラム参照)を軸に、患者さん教育に力を入れています」。この患者教育には、実はもう一つの狙いがある。「糖尿病治療の本番は、入院中ではなく生活に戻ってから。そのためには本人はもちろん、それを支える家族や友人などが糖尿病を正しく理解することが必要です。当院で教育を受け知識やノウハウを学んだ患者さんが、周囲の人に伝え、それが地域全体に広がることを期待しています」(近藤)。

病院から地域へ、糖尿病対応力向上の輪を広げようとする、安城更生病院内分泌・糖尿病内科。同科がその先にめざすものは、地域の糖尿病患者の悪化を防ぎ、糖尿病に罹る人を減らすこと。そしてそれは、地域医療の質向上を実現する環境づくりへと繋がるのだ。

「私たち糖尿病専門医は、糖尿病患者さん一人ひとりの性格や生活習慣を把握し、それぞれに適した改善方法を模索しながらアプローチします。鍵はいかにやる気を持ってもらえるか。そのためには、〈共感すること〉〈聴き出すこと〉〈ほめること〉...。人対人、1対1のコミュニケーション力が問われます」(水谷部長)。

  • 安城更生病院の内分泌・糖尿病内科における「糖尿病教育入院」の歴史は古い。他病院ではほとんど実施されていなかった20年以上前から始まり、同院の伝統であるチーム医療を実践する形で行われてきた。
  • 糖尿病教育入院に関わるチームメンバーは、医師、看護師(糖尿病看護認定看護師、糖尿病療養指導士含む)、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、他に臨床検査技師、視能訓練士、臨床心理士など。患者の状況に応じて連携しながら療養指導を行う。
  • 教育入院の患者は土日を除く2週間、「糖尿病教室」を受講。講師はテーマに合わせ、各専門職が担当する。そして、翌日には病棟看護師が個別面談を行い、前日の復習を行いつつ、実際の生活にどう取り込めるかを一緒に考える。
  • 使用されるパンフレットなどには、患者視点でスタッフが独自に作成したものも多く、それらは毎月一般向けに開催される、「外来糖尿病教室」でも使用されている。

糖尿病治療に求められる
環境と自覚。

  • 厚生労働省の『患者調査』によれば、糖尿病の総患者数は平成26年現在、316万6000人。3年前の前回調査より46万人以上増加した。糖尿病の予備軍を加えるとその数は2000万人を超え、今後も増加を続けることが予測されている。
  • 本文でも述べたように、糖尿病は多くの疾患を引き起こす〈温床〉であり、進行した糖尿病患者が増え続ければ、それだけ地域のさまざまな疾患の発症率も上がる。こうした現実を見据え、安城更生病院は内分泌・糖尿病内科を核に、地域全体の糖尿病対応力を向上させるべく、医療提供者側からの取り組みを進めている。
  • しかし、近藤副院長が指摘するように、糖尿病治療の本番は生活に戻ってから。医療提供者側の環境整備だけでは、この問題は解決しないのだ。今こそ、生活者一人ひとりが糖尿病を正しく理解し、自覚を持って自らの生活を顧みることが必要である。

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