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LINKED plus 病院を知ろう

患者の思いを大切に、
生活の支援者になる。

退院していく患者が
望む生活を実現できるよう
病院が全力で支援する。

春日井市民病院

退院支援とは、患者が退院後どのように暮らすのかという意思決定を支援すること。
退院調整とは、その意思決定を実現するために、必要な社会資源を繋ぐことをいう。
春日井市民病院ではその2つの仕事を担う専門職として〈退院調整看護師〉を配置。
退院する患者の意思を尊重し、生活の場へ丁寧に送り出している。

患者と一緒に
退院後の生活を設計していく。

春日井市民病院では現在、8名の退院調整看護師が病棟に配属されている。彼女たちを束ねるのが、田辺圭子看護師。田辺はベテランの退院調整看護師だが、その専門性とは別に二つの資格を持つ。一つは退院調整看護師になる前に取得したケアマネジャー(介護支援専門員)の資格。それまで病棟に配属されていた田辺は、家に帰りたいのに帰れない患者が多いことにジレンマを感じ、「もっと社会資源について理解を深めよう」と、資格を取得した。もう一つは、昨年(平成28年)取得した、訪問看護認定看護師である。訪問看護認定看護師とは、医療と生活の視点を併せ持ち、患者の在宅ケアを実践するエキスパートだ。「訪問看護のことを知らなくては、患者さんを在宅に繋ぐマネジメントはできない」。そう考えた田辺は、看護部長の後押しもあり、1年間、働きながら教育課程に通った。

退院調整看護師のトップが、介護支援と訪問看護の知識を両面備え、病院と地域を繋ぐ。その根幹にあるのは、どんな思いだろうか。「退院調整看護師というと、患者さんの〈追い出し役〉と誤解する方もいらっしゃいます。でも決してそうではありません。私たちは患者さんが望む生活を実現する方法を一緒に考えていく専門家です。その能力を発揮する上で、在宅医療・介護の知識が武器になっています」(田辺)。

田辺が現職に就いたのは、退院調整という言葉もまだ普及していない平成22年のこと。単純に退院する患者に必要な社会資源を繋ぐのが、退院調整看護師の役割だと考えていたという。しかし、経験を重ねるうち、田辺はあることに気づく。それは、患者本人がやりたいことを見つければ、その目標に向けて、患者自らが動き出し、スムーズな退院に繋がることだった。「そうか、大切なのは患者さんの思いなんだ」。それから田辺は、業務のスタイルを180度転換。まず最初に患者の意思を丁寧に引き出し、退院後の生活設計を一緒に考える。そして、その生活を叶えるために、入院中にどういう支援が必要かを組み立て、同時に在宅医療チームと相談し、療養生活の環境を整えていくようにした。さらに、こうした退院調整の進め方をスタッフたちと共有し、病院全体のスタイルとして展開していったのだ。「目標が定まれば、自ずと患者さんも前向きになります。その目標設定が鍵を握ります」と、田辺は言う。

「これからは、入院中に提供するケアを、医療の視点から生活の視点に転換することが重要」だと田辺看護師は言う。「たとえば、単純に筋力をつけるために訓練するのではなく、その人が退院後にやりたいことを明確にして、必要な筋力を鍛えていく。生活視点で準備することが、早期の生活復帰に繋がります」。

在宅医療チームと顔の見える関係を築き、
在宅療養を支えていく。

同院で退院調整看護師が関わるのは主に自宅に帰るケースで、月間60件以上にのぼるという。まず患者が入院すると、3日以内に退院が困難と予測される患者を抽出し状態を評価。7日以内に病棟看護師、退院調整看護師、リハビリスタッフなどが集まり、退院支援カンファレンスを開く。退院に向けたアプローチは極めて迅速だ。「急性期病院の平均在院日数が短くなるなかで、退院調整もスピードが要求されます。また、医療依存度の高い状態で退院するケースも増えています。その場合、必要に応じて、回復期や慢性期の病床を持つ病院に転院していただきますが、当院から直接、生活の場に戻られる患者さんも多いです」。そう話すのは、副院長であり、医療連携室・室長の佐々木洋光医師である。

同院の診療圏には、近年高齢化が著しい高蔵寺や桃花台といったニュータウンがあり、子どもが成人し、その後独居になった高齢者も多い。そうした患者が在宅に戻る場合、医療がいかに継続しているかが重要となる。その課題を乗り越えるには、何が必要か。「一番大切なのは、地域の在宅医療チームと顔の見える関係を作り、何でも相談し合うこと。そのために当院では、医療と生活を知り、繋ぐことのできる看護師をそこに配置するとともに、在宅医療チームの方々と一緒に学ぶグループワークなどを積極的に開催しています。また昨年から、地域の多職種間で情報を共有する〈春日井さくらネットワーク〉の運用も開始しました」(佐々木)。

病院と地域が顔の見える連携体制を作った上で、退院調整看護師が架け橋となって、患者の思いを在宅医療チームに繋いでいく。但し、そのとき、患者の思い(目標)が明確でなければ、真の意味で望み通りの療養生活を実現することはできない。「地域連携を深めること、患者さんの意思決定を支援すること。この2つを軸に、市民の皆さんが安心して生活の場に戻れるよう支援していきます」と田辺は力強く締めくくった。

春日井市民病院の退院調整で、看護師とともに活躍するのが、MSW(医療ソーシャルワーカー)である。MSWが担当するのは、他の病院や施設に移る患者で、その数は月間140件ほどだという。「在宅の次に、病院や施設との連携強化が課題。ここでも〈顔の見える関係づくり〉を進めています」と、佐々木副院長。

  • 春日井市民病院では、各領域の専門・認定看護師(リソースナース)が所属する「ナーシングサポート室」を開設している。ここはその名の通り、看護実践の支援を担う部署で、リソースナースたちがそれぞれの専門能力を活かし、各病棟の看護師たちを支援している。
  • リソースナースの支援は、地域に広がっている。ナーシングサポート室では、地域の施設や訪問看護ステーションなどで、リソースナースによる出張研修を積極的に開催。リソースナースの専門的な知識・技術を、地域の看護の質的向上に役立てている。また、リソースナースが訪問看護師に同行して患者宅を訪問し、専門性の高い看護を実践するケースも増えてきたという。「春日井市は31万人都市ですが、訪問看護ステーションは18カ所しかありません(平成29年6月現在)。少ない訪問看護師の皆さんをサポートすることも、当院の重要な役目です」と田辺看護師は語る。

退院後の生活に対する
患者の意思決定を支援する。

  • 春日井市民病院の退院支援・調整は、何よりも患者の意思を優先している。どんな病気や症状の患者であっても、患者自身が自分の病気を受け入れ、退院に向けて自分らしく生きるにはどうすればよいか、これから何をやっていきたいかを考えていく。その意思決定のプロセスに退院調整看護師が寄り添い、家族の介護負担にも目を向けながら、患者が自分で退院後の生活の目標を定めるよう支援している。
  • よく医療の主役は患者であり、医療者は脇役といわれるが、同院の退院支援・調整はまさに、患者を主役に据えた取り組みである。これからは、治療法の選択はもちろん、退院後の生活を選択する際も、〈患者の意思決定〉が重視されていくのではないだろうか。そして、病院サイドはますます、患者と充分にコミュニケーションを取り、意思決定を支援していくことが求められていくだろう。

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