LINKED plus

LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

地域に、
患者に寄り添うために看護を極める。

がん患者に告知から関わり
入院治療、在宅療養までを
トータルに支援していく。

木村由紀子(がん看護専門看護師)
松阪市民病院

松阪市民病院の〈がん相談窓口〉に勤務する木村由紀子は、
がん看護専門看護師の資格を持つ。がん看護専門看護師とは、
がん患者の苦痛を理解し、水準の高い看護を提供するとともに、
教育・研究などを通じて、院内や地域の看護の質を高め、
次代の看護を創造していく役割を担う。
そんな木村の活動を通じ、同院がめざす看護のあり方を探った。

がん患者さんを支えるには、どうすればいいだろう。
理論や知識を学びたくて大学院進学を決意。

「今度、緩和ケア病棟(※)を立ち上げるので、一緒にやりませんか」。今から十数年前、大学病院の外来に勤めていた木村由紀子看護師の元に、そんな電話がかかってきた。電話の主は、松阪市民病院の当時の看護部長。「がん看護に携わりたいという熱心な人がいる」と人づてに聞いて、直接、アプローチしてきたのだ。当時、木村は出産を機に離れていた看護の現場に戻り、パートタイム勤務をしていた。いずれは、本格的に看護の仕事を再開しよう。そう考えていた木村にとって、願ってもない申し出だった。

「よろしくお願いします」。二つ返事で入職を決めた木村は、同院の緩和ケア病棟の立ち上げに参加し、がん看護のキャリアを磨いていった。現在はがん看護専門看護師として〈がん相談窓口〉を任され、あらゆるステージのがん患者を支援している。木村のがん患者に対する支援は、外来からスタートする。外来看護師から連絡を受けると、告知の場面に同席。動揺する患者・家族を支え、治療法の意思決定をサポートする。入院治療が始まると、治療法や生活への不安な気持ちを支える。退院時には、在宅ケアについて細かくアドバイスする。

※ 終末期に限らず、苦痛症状が強いがん患者を受け入れ、苦しみを和らげるようサポートする病棟。

木村はこうした支援を、患者が終末期を迎えるまで続けていく。この他、現場の看護師の指導も重要な役割だ。たとえば、病棟では、がん患者の突然の怒りや深い絶望感に接し、スタッフが戸惑う場面も多くある。そういうとき、木村は個々の患者の心理を分析して、適切な援助法を伝える。がん患者への対応でしばしば葛藤を抱えるスタッフにとって、木村はなくてはならない頼もしい存在である。

そもそも木村ががん看護を極めようと思ったのは、どうしてだろうか。「以前勤めていた病院で、がんで亡くなる方を多く見送りました。その都度、懸命に看護しましたが、苦しむ患者さんをどう支えればいいかわからなかった。専門書に書かれた看護を実践しても成果が得られず、答えが見出せなかったんです。終末期の患者さんにもっとエビデンス(根拠)に基づく看護を提供したい。そのためには大学院に進学し、理論や知識を学び、がん患者さんが抱える問題を総合的にとらえて判断する力を身につけなくては...と考えました」と木村は振り返る。

リソースナースの専門ノウハウを
地域全体の看護の底上げに役立てていきたい。

がん看護専門看護師の資格を取るために、木村が選んだのは、働きながら大学院に通い、3年間で学ぶコース。同院はその間の授業料を全額負担し、病棟の勤務シフトを調整して、木村の学びを全面的にサポートした。看護部長の眞砂由利は、その狙いについて次のように語る。「学びたいなら思いきりやりなさい、というのが当院のスタンス。とくに木村さんがめざすのは、がん看護の最高峰の資格です。彼女ががん看護のリーダーとなって、すでに当院で活動している緩和ケアやがん化学療法の認定看護師(※)とも連携しながら、病院全体の看護の質を引き上げてくれるだろうと期待しました」。

※ 特定の看護分野において熟練した看護技術と知識を持つ看護師。

木村が資格を取得して1年余り、眞砂は期待以上の成果を感じ取っているという。「たとえばカルテを見ても、スタッフが記載する看護記録の内容が深く濃くなりました。患者さんを正しくアセスメント(観察・評価)して、ご本人の状態や思いを理解し、チーム医療へ繋げていこうという目的意識が記録から感じ取れます。それは日頃、彼女が患者さんの思いに寄り添い、エビデンスに基づく看護をするよう指導してきた成果です」と評価する。

さらに眞砂は、そうした高度な看護力を積極的に地域で活かしていく考えを持つ。「地域の皆さんには、常々、当院のリソースナース(専門看護師や認定看護師)を、看護の質を高める道具として使ってください、と話していますが、今後、さらにその動きを加速させたいですね。そのためには、がん看護に限らず、さまざまな分野に特化したリソースナースを育て、地域へ派遣していこうと思います」。眞砂が思い描く看護部のビジョンに思いを重ね、木村もまた地域へと活躍フィールドを広げていこうとしている。

「患者さんに何かをしてあげるのではなく、常に身近にいて、ご本人が自分の力で歩いていくのを支えるのが看護師の役割だと思う」と、木村看護師。「看護の本質に気づかせてくれるのは、いつも患者さん」だという。その謙虚で熱心な姿は、後輩たちの良きお手本となっている。

  • 松阪市民病院では、食道、胃、大腸、肝胆膵などの消化器がん、肺がん、前立腺がん、乳がん、白血病や悪性リンパ腫など多種多様ながん診療を行っている。
  • 入院患者の約3分の1は、がん患者が占めるという。とくに、肺がんの診療においては、呼吸器センターを開設し、呼吸器内科と呼吸器外科が連携して高度な医療を提供。県内はもとより県外から来院する患者も多く、肺がんの症例数は三重県下で有数の実績を持つ。
  • こうした特長を持つ病院だからこそ、同院看護部は早くからがん看護の専門性を追求。手術を受ける急性期から、通院して化学療法を受ける段階、在宅で療養する段階、そして終末期を迎えた患者の緩和ケアまで、がん治療のすべてのステージにわたり、継続した看護を届けている。そして今、がん看護専門看護師という頼もしいリーダーを得て、がん看護の質のさらなる向上に挑戦している。

ケアの力を地域へ届け、
市民の生活を支えていく。

  • 松阪市民病院では、がん看護専門看護師が先頭になって、がん患者一人ひとりの思いに寄り添い、その人の生き方や価値観を大切に、療養生活を支えるよう力を尽くしている。さらに、院内から地域へ視野を広げ、がん患者に〈寄り添う看護〉を病院から地域へ繋げ、地域全体の看護の質的向上に貢献しようとしている。
  • この〈寄り添う看護〉という考え方は、がん看護だけに求められるものではない。超高齢社会を背景に、地域医療は今、キュア(根治的治療)から、ケア(生活の質を高めるための全人的な医療)への転換が進められている。そのケアを実践する上で重要な鍵を握るのも、患者一人ひとりの思いを大切にした看護に他ならない。
  • 同院看護部は、高度な看護スキルを備えたリソースナースを育て、そのケアの力を地域に届け、市民の生活を支えていこうとしている。地域に向ける熱いまなざしは、市民病院ならではの使命感にあふれている。

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