LINKED plus

LINKED plus 病院を知ろう

〈地域からの信頼度〉で世界一をめざす。

最先端医療の追究と、地域への目線。
それが呼吸器センターの核。

松阪市民病院

14年前、松阪市民病院に一人の呼吸器内科医が赴任した。
彼は患者を増やし、仲間を増やし、呼吸器内科の道を切り拓いた。
その道は、県内屈指の呼吸器センターに辿り着き、今は三重県南部で
最先端の呼吸器疾患診療を提供する拠点として、地域の大きな信頼を集める。

最先端の診断機能と
治療機能を完備。

地域の診療所や他院から紹介を受けた患者が大勢訪れる、松阪市民病院の呼吸器センター。呼吸器内科、呼吸器外科が中心となり、呼吸器疾患に対する高水準な診療を行う。患者数は年間1620人。肺がん患者に絞ると年間717人(平成27年・病院情報局より)で、これは三重県下第1位の実績。まさに県内の呼吸器疾患診療を牽引する存在である。

多くの紹介患者が訪れる理由は何か。「まず一つは、検査・診断力の高さだと思います」と話すのは、同センターのセンター長、畑地 治医師(呼吸器内科)だ。例えば肺がんが疑われる場合、病変を直接観察し確定診断するが、同センターでは気管支鏡検査(口からレンズがついた細い管を挿入し組織を採取する)、経皮肺生検(CT画像にて肺に生検針を刺して組織を採取する)に熟練の技術を持ち、迅速・的確な診断へと結びつける。近年ではリキッドバイオプシー(血液で肺がんの遺伝子変異を調べる検査)という先進医療にも挑戦。検査・診断機能充実に余念がない。

第2のポイントは、最先端治療の提供だ。呼吸器内科、呼吸器外科の専門医が集まり、患者一人ひとりに最適な治療法を選択。なかでもがん治療では、外科手術、放射線治療、抗がん剤や分子標的薬による化学療法、免疫療法など、最善の集学的治療を組み立てる。特筆すべきは、患者にとって治療の選択肢を広げることに繋がる、治験への取り組みである。治験とは、厚生労働省の指導により実施する治療を兼ねた試験であり、言うまでもなく、国の基準に見合う充分な治療体制がなければ認められない。同センターでは、ぜんそくやCOPD(主に喫煙習慣により生じる肺の炎症性疾患)はもちろん、近年では大学病院やがん専門病院で行うような肺がん治験も開始するなど、治療面でも最先端への挑戦を果敢に続ける。

さらに、個別化医療推進のための、全国規模の肺がん遺伝子診断の研究ネットワークに参加。日々の診療の高度化だけでなく、明日の医療を見つめた臨床研究分野においても、突出した動きを見せる。

そうした診療や研究活動を支えているのが、畑地を筆頭に同センター所属の9名の医師である。若手医師が多いが、圧倒的な患者数から得られる経験蓄積と、国内の全国的な学会や国際学会を含め、年間一人5〜6題の演題発表を果たすなど、厳しいが恵まれた教育環境で着実に成長を遂げている。

畑地には、ジレンマがあった。呼吸器内科では手術ができず、完全な治療体制といえないのだ。そこで自ら外科医獲得に奔走。呼吸器外科が開設され、結果、呼吸器センターとなった。今日では、肺がん患者数の多い病院ランキングにおいて、〈手術あり〉〈手術なし〉の両部門で松阪市民病院は、県内トップだ。

世界で一番、地域から信頼される
センターをめざす。

畑地医師は、平成15年に松阪市民病院に赴任した。だが、「当時は、肺がん患者は年に2人ほど。専門的な医療機器も不充分、自分の専門性を活かせる状況ではなかった」と彼は言う。病院自体が医師不足、診療科閉鎖などから経営困難に陥り、地域からの信頼を失っていたのだ。

 「自分でやるしかない」。畑地は自らを奮い立たせた。掲げた目標は、〈世界で一番、地域から信頼される呼吸器センター〉。そのための方策、一つは、プロが評価する診療体制づくり。自分一人で一つの学会に7題の演題発表を行い、呼吸器専門医として全国的な評価を高めつつ、診断・治療機能の高度化に全力を注いだ。そのため、やる気のある医師を自ら集めた。方策の2つ目は、地域密着・地域貢献。畑地を評価し患者を紹介してくれた地域の診療所医師、自院で治療ができず患者を紹介してくれた病院医師には、自らの診療結果報告を迅速・丁寧に行い、円滑な会話と関係づくりに努めた。近年では、松阪市のCOPD認知度向上プロジェクトにおいて、啓発活動にも熱心に取り組む。松阪市内の各地区公民館で講演し、来場者に問診や呼吸機能検査などを行うイベントで、回った公民館は12カ所に上るという。

畑地は、自らの力で、自らのやり方で、呼吸器内科の道を切り拓いてきた。ときには型破りな行動もあったかもしれない。だが病院経営陣には、それを枠にはめるのではなく、自由を与えてこそ結果を出すと考える懐の深さがあり、事実、畑地は県内トップ、中部地区でもトップクラスの呼吸器センターを創造してきたのだ。

畑地の根幹には、患者と地域に対する真摯な目線がある。だからこそ、松阪市にありながらも、世界の呼吸器治療の潮流、最先端を見つめ続け挑戦を果たしてきた。今はもう一人ではなく、仲間とともに、〈世界で一番、地域から信頼される呼吸器センター〉をめざす。

「患者さんの選択に、100%従う医師ではいけない」というのが、畑地の信念。病気が治る可能性が高いのに「苦しい治療は受けたくない」、と言う患者や家族には、根気よく説得する。「助かる命は、助けたい。それが医師の姿だと思う」。畑地はそう語る。

  • 何もないところからセンター機能を作り上げた、松阪市民病院の呼吸器センター。その歩みのなかで、診療機能が高まるに連れ、センター長の畑地が力を注いできたのは、若い力を集め、育てることだった。
  • 「ありがたいことに、モチベーションの高い人が、当科を志望して研修医として集まり、後期研修後も当院に残ってくれています」と畑地は微笑む。現在、呼吸器内科医は合計7名に増えた。
  • 同センターでは、希望する若手医師には、国内外留学の道も用意している。院外への長期派遣は、診療面で戦力が減ることを意味するが、それでも、惜しげもなく人材を外の世界に送り出す。そこで各自が吸収した力を、同センターのレベルアップに繋げてくれればと考えるからだ。

あらゆる手段を講じて
地域医療に活路を拓く。

  • 事業を継続的に発展させるには、目標と戦略と戦術が重要となる。松阪市民病院の呼吸器センターの発展を見ると、まさにそれらが明確化され、ひたむきに歩んできたことが解る。
  • 「一足飛びではなく、大切なのは地道な努力の積み重ね。そして、その努力に関わってくれる人とは、一方だけではなく双方にとって良い関係でなければならない」と畑地医師は言う。
  • その結果、今日では、コンパクトであるが「臨床」「研究」「教育」という、大学病院と同じ機能を有し、そのすべてを好循環させ、最終的には地域に還元すべく、常に地道な努力を重ねている。
  • 畑地が言う〈世界一の呼吸器センター〉の世界一とは、何だろうか。「患者数・医療水準・学会発表・論文など、指標はありますが...でも単にそうしたものだけではなく、どれだけ地域に親しまれるセンターであるか。この方が大切ですね」と彼は微笑む。

Copyright © PROJECT LINKED LLC.
All Rights Reserved.