LINKED plus

LINKED plus 病院を知ろう

〈特別な病院〉が挑む
患者ファーストの退院支援。

多職種の力を結集し、患者を切れ目なく生活復帰へと繋ぐ。

独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター

国立病院機構名古屋医療センターは、緊急性の高い患者、高度専門的な医療を必要とする
患者の診療を行い、特定の領域では日本有数の研究施設として機能するいわば〈特別な病院〉である。
その名古屋医療センターが力を注いできたのが、
入院患者を生活復帰に向けて切れ目なく繋ぐための、退院支援・調整のシステム構築。
患者一人ひとりを見つめ、多職種が一丸となって取り組む同院の取り組みを追った。

入院間もない時から患者情報を収集し、
退院支援に動き出す。

全30科以上の診療科目を掲げる名古屋医療センターには、がんや心臓、脳神経、血液、内分泌代謝疾患など、多様な患者が入院してくる。集中的に高度な治療を行った後、症状の落ち着いた患者は、それぞれの症状、希望に応じて、回復期・慢性期の病院や施設、自宅へ戻っていく。その短い入院期間中に退院後の生活を考え、患者を安心の退院へと導く核になっているのが、地域医療連携室と相談支援センターのスタッフたちだ。

地域医療連携室で医療連携係長を務める和田一樹看護師長は、いわゆる前方連携(患者の入院支援)を担当する。「地域の医療機関からの紹介患者さんがスムーズに入院できるよう、病床などを調整すると同時に、患者さんの家族構成や生活状況などの情報をできる限りキャッチするよう心がけています」と話す。

和田が得た患者情報は、同じ部署で患者支援や後方連携を担う職員に共有される。その一人、退院調整係長の荒川春美看護師長は「早期の情報収集が、スムーズな退院の必須条件」と話す。同院では、入院患者に対し、入院3日以内に、退院支援の必要な患者がいないかスクリーニングを行う。そして、入院1週間以内には、スクリーニングした情報をアセスメント(評価)し、多職種によるカンファレンスを開いて、退院に向け準備を開始する。院内で、先頭に立ってこの退院支援・調整のシステムを構築し、各病棟スタッフを教育・指導してきた荒川は、「年を追うごとに、病棟看護師たちの意識も高まってきました。今では、ほぼもれなく入院患者のスクリーニングができていると思います」と手応えを語る。

こうした退院支援・調整を、主に社会資源の側面から行っているのが、相談支援センターの医療ソーシャルワーカー(MSW)である。同センターの医療相談室長を務めるMSWの竹山信恵は、次のように話す。「当院では、退院支援・調整が医療業界で注目を集める以前の平成22年から、〈退院支援を検討する小委員会〉を院内に設置するなど、『患者さんがきちんと自身の生活に戻って行くには、どんな支援が必要か』という課題について、病院全体で考え、取り組んできました。この地域には、生活困窮者や独居高齢者など、社会的課題を抱えた方も多いですが、これまで培ってきた退院支援・調整のシステムと、患者支援に対する意識の向上で、困難な課題にも早期からチームで情報共有を行い、アプローチできるようになってきました」。

「家族がいないので家に帰れない」「施設への入所が必要だが、入所費用を支払うことができない」重篤な疾患を持つ患者が、解決が難しい社会的課題を抱えているケースも少なくない。一人ひとりの患者と向き合い、解決にどう導いていくのか。多職種が密に連携しながら日々難題に立ち向かっている。

顔の見える関係を大事にしながら
より強固な連携を育む。

冒頭で述べたように、名古屋医療センターは幾つかの特色をもつ。一つは血液・造血器疾患において準ナショナルセンター(高度専門医療施設)であり、広域圏から難易度の高い患者が集まること。また、3次救急指定病院として24時間、緊急性の高い患者を受け入れていること。さらに、国際水準の臨床研究を進める病院として、最先端の薬剤療法などを提供している。このような〈特別な病院〉だからこそ、同院は、同院にしかできない治療を必要とする患者のために、常に空きベッドを確保しておく使命がある。「常に空床を確保することは必須ですが、その一方で、患者さんの退院を急いで、医療が途切れることは許されない。そうした2つの課題を抱えてきた当院だからこそ、質の高い医療・看護を継続し、患者さんに安心して生活の場に戻っていただくための支援のあり方を早くから考え、システムを作ってきたのだと思います」。そう話すのは、医療連携部長の岩瀬弘明医師である。

そして現在、同院では退院患者の生活復帰支援をさらに高度化するために、ICT(情報通信技術)を活用した情報共有システムの導入を進めている。同院では従来から、独自の電子カルテ閲覧システムを活用し、連携先の医療機関と情報共有を行っていた。現在は、それを一歩進め、連携を担当する院内職員にタブレット端末を配布し、その端末で電子カルテの閲覧や職員間のコミュニケーションを行う。そして、将来的にはそれらの職員が地域に出て行き、端末を活用した地域医療機関との情報共有の強化を図る構想だ。「連携先の方々にとって、場所を選ばずに知りたい情報が得られるメリットがあり、職員同士が緊密な関係が築けると期待しています」(岩瀬)。より一層スムーズに患者を連携先の病院や生活の場へ繋ぐために。そして、質の高い医療・看護を継続していくために。ICTを駆使した新しい挑戦が始まっている。

名古屋医療センターの特色ある高度な専門医療を必要とする患者を常に受け入れるためにも、退院支援・調整に力を注ぎ、症状が落ち着いた患者の生活復帰を強力に支援する。そして、そのために、同院は地域の医療従事者たちとお互いに顔が見える緊密な関係作りをめざしている。

  • 名古屋医療センターは、これまでも退院した患者の療養生活の支援に力を注いできた。たとえば、地域がん診療連携拠点病院として行う、がん患者の支援。院内に患者サロンやがん専用ダイヤルを開設し、患者やその家族、地域住民の不安、悩みにきめ細かく対応している。また、エイズ治療東海ブロック拠点病院・愛知県中核拠点病院として、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者の支援にも力を注ぐ。HIVの患者のなかには、医療者の誤解や偏見から、退院後の療養先が見つからないケースも多い。そうした課題への取り組みとして、同院では医療福祉関係者向けの啓発活動に力を入れてきた。
  • このように同院では、個別の領域でその必要性に着目し、早くから退院患者の支援が行われてきた。今回取り上げた、退院支援・調整の取り組みにも、その知見は大いに活きているといえる。今後はさらにその活動を拡げ、病院と地域の医療関係者が密にコミュニケーションし、地域全体で患者の療養生活を支えていく時代に向けて、同院のチャレンジは続く。

病院と地域が一体になり
患者の生活復帰を支えていく。

  • 名古屋医療センターは高度で先進的な医療、専門性の高い医療を展開する〈特別な病院〉である。そんな病院であっても、もはや〈治す医療〉だけを見つめる時代は終わったといえるだろう。一つの病院で完結する〈病院完結型〉から、地域で治し支える〈地域完結型〉へと、地域の医療体制が転換するなかで、同院は症状が落ち着いた患者を、近隣の病院や施設、在宅へ戻す方向へと舵を切っている。
  • また別の角度から見れば、名古屋市中心部にある同院は、薬物、自殺未遂など現代社会特有の問題を抱えた患者が多いという〈特別な〉事情も持つ。そうした患者の生活復帰を支援するには、同院の職員だけでなく、地域の医療・介護・福祉に携わる人たちが共に知恵を出していかねばならない。同院は、〈安心の退院に向けた最善の患者支援〉の輪をさらに拡げ、地域の病院や介護施設、在宅医療チームと連携し、地域全体で退院患者を支援する体制を築いていこうとしている。

Copyright © PROJECT LINKED LLC.
All Rights Reserved.