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LINKED plus 病院を知ろう

救急看護に見る公益性の追求。

看護力を高め、活かすことで、
医療資源の限られた、
地域の二次救急を守り抜く。

西尾市民病院

愛知県西尾市は、医療資源が極めて少ない地域である。人口当たりの病床(入院ベッド)数、医師数ともに、
全国平均の半数以下に留まり、地域の中核を担う西尾市民病院においても、深刻な医師不足が続いている。
そのマンパワー不足を補い、市民病院の公益性(多くの人々の利益の増進に寄与すること)を
いかに担保するか。同院の懸命な取り組みを、救急医療の現場で活躍する救急看護師に取材した。

次々と患者が訪れる救急外来を、
円滑に運営するために。

西尾市民病院の救急外来受診者は、年間約1万7000人、そのうち救急車での搬送患者は約4200人余にのぼる(平成28年度実績)。24時間365日、休むことのない救急外来を医師とともに支えているのは、救急看護認定看護師の相沢 努をリーダーとする3名の専従看護師と、当番で応援に入る外来看護師たちだ。

相沢らはシフトを組み、常に専従看護師1名と応援看護師2名という体制を堅持。救急搬送以外の受診患者に対し、救急当番の医師・研修医の診察前に必ず問診をして、緊急性を事前に判断、緊急性の高い患者については、優先的に対応してもらうよう医師に依頼する。同時に、救急搬送の連絡が入れば、連絡を受けた医師・研修医のもとに駆けつけ、搬送される患者の状態を確認。検査が必要と想定される場合にはCT室などに事前連絡を入れ、検査までの動線確保に先手を打つ。通話の様子やメモ内容から緊急性が高いと判断し、医師の電話対応が終わる前に受け入れ準備を始めることもあるという。「私たちが最も大切にしているのは、準備力です。準備力とは、分かっている情報から最悪のシナリオを想定し、迅速に先手を打つこと。当院の医師や研修医は、少ない人数で月に何度も救急当番や当直を担い、必死に患者さんを受けてくださっています。私たち看護師は、医師が診療行為に集中できるよう、いかに先回りした準備ができるか、常に頭を働かせています」(相沢)

ここ数年、同院の救急搬送件数は増加傾向にあり、夜間も患者が途切れない日も多い。そのなかで、救急医療を支えようと奮闘する医師たちの負担を減らしながら、救急患者を受け続けることは容易ではない。そのため相沢らは、救急看護の質的向上を意識し続けている。「医師が安心して診療に集中するためには、私たちが確実に重症に繋がる徴候をキャッチできなければいけません。救急の看護師たちは『何かおかしい』ことには気づけるようになってきました。しかし、確実性を高めるためには、何故そういう症状が起きるのかを根拠に基づいて把握することが重要です。当院には、2年前から大学病院で救命医として活躍する医師が週1回来てくださっています。今は、先生から高度な救急現場の手法や考え方、科学的根拠を学ぶことで、看護力のさらなる向上をめざしています」(相沢)。

西尾市民病院は、西尾市消防隊による救急搬送の6割以上を受けている。「もしも当院の救急が機能しなくなったら、市内の他の病院や市外の救命救急センターだけでは対応しきれません。私たちが頑張ってくださる医師を支えながら、西尾市の最後の砦になっていきたい」と、相沢看護師は語る。

院内および地域の看護力を高め、
地域医療を守る。

看護師が中心となり、限られた医療資源のなかで、必死に地域の救急医療を守っている同院。こうした看護師の頑張りは、さらに広がりを見せる。たとえば、相沢の発案をきっかけに、看護部で新たに始まった〈気づき研修〉もその一つだ。これは患者の急変にいち早く気づくための実践力を、少人数の学びで身につけるもの。院内の看護師全員を対象にしており、まずは師長クラスからスタートさせた。「急変は突然起こるように見えますが、実はその6〜8時間前に必ず危険な徴候(キラー・シンプトム)があります。病棟の看護師がそれを見逃さず、適切に対処できれば、救命処置に至る前に、患者さんの命を救うことができます」と同院看護部の鈴木育子部長は語る。

この気づき研修は今のところ、院内の看護師が対象だが、同院では今年(平成29年)から、認定看護師による研修を地域に開放。地域の看護職を招いて、フィジカルアセスメント(問診・打診・視診・触診などを通して、症状を把握・分析すること)の手法などを一緒に学び、エビデンス(科学的根拠)に基づく看護の実践に繋げている。こうした合同研修の狙いはどこにあるのか。「西尾市は医療資源が極めて少ない地域で、医師も病床数も不足していますが、看護師はある程度数がいます。今後も地域医療を守っていくため、私たち看護師の能力を高め、チーム医療を推進していかなくてはならないと考えています。まずは院内の看護力を高め、それを地域へと広げていくのが目標です」と、鈴木は話す。

もしも西尾市民病院が医師不足を理由に、救急医療も含めて診療停止に陥ったら、たちどころに西尾市民の生活に支障をきたす。そうならないように、看護師の力をフルに発揮することで、市民生活の安心を守っていこうとするのが、同院の戦略である。同院はこれからも、看護力を高め、活かし、市民病院の公益性を堅持していく構えだ。

容態が不安定で危険な状態の患者を預かる急性期病院では、〈救急への対応力〉と同時に、〈急変への対応力〉が非常に重要である。院内の看護師全員が、患者の危険な徴候に気づいて、即座に行動できる力を身につけるよう、西尾市民病院では〈気づき研修〉を継続発展させていく計画である。

  • 特定の看護分野において熟達した看護技術と知識を発揮する認定看護師。西尾市民病院では、この看護のエキスパートの育成と活用に積極的に取り組んでいる。すでに、感染管理、摂食・嚥下障害、がん化学療法、がん性疼痛看護、認知症看護、救急看護、皮膚・排泄ケア、手術看護の8分野にわたり、認定看護師を育成。ゆくゆくは、8分野すべてに2名ずつの配置をめざし、人材育成を進めていく構想である。
  • 「当院に必要な看護分野で資格を取りたい人がいれば、全面的にバックアップしています。但し、認定看護師は組織横断的に活動するので、医師をはじめ、他職種から信頼される人でなければ務まりません。そうした人間力も磨いてほしいと思います」と鈴木部長。認定看護師たちは各領域の中心となり、専門性の高い看護を実践。同院の看護の質の向上と、医師の負担軽減の両面において効果を上げている。

看護師の主体的な活躍が
病院の機能向上に繋がる。

  • 医療の高度化にともない、多様な医療職がそれぞれの専門性を活かして患者の治療にあたるチーム医療が進んでいる。患者の身近にいて、患者の状態や希望をよく把握する看護師は、患者と各職種を繋ぎ、チーム全体を繋ぐ要の役割を担う。特に西尾市民病院のように医師不足の現場では、看護師は、医師の指示を受けて動く、という以上に、主体的にチーム医療を推進するエンジンとなることが期待される。
  • こうした看護師の主体的な活躍を後押しする気運が全国的に高まり、看護師の役割拡大に向けての取り組みも始まった。国は〈特定行為に係る看護師の研修制度〉を施行。たとえば脱水時の点滴など、特定の医療行為が行える看護師(特定看護師、診療看護師と呼ばれることもある)の育成が始まっている。このように、看護師の活躍領域が広がることで、今後さらに病院の機能も高まっていくのではないだろうか。

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