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しっかり食べて、しっかり飲み下す。

歯科口腔外科医を中心にしたチーム医療で
高齢者の「食べる」を支える。

医療法人 済衆館 済衆館病院

尾張中部医療圏の北名古屋市に位置し、救急医療から終末期まですべての病期に対応する機能を備え、
さらに在宅支援に力を注ぐ済衆館病院。
高齢化が進む地域にあって、高度医療と在宅を繋ぐ病院として、
高齢患者を確実に生活の場に戻すために、さまざまな角度から支援を行っている。
その一つ、〈しっかり食べて、しっかり飲み下す〉(摂食・嚥下)機能へのアプローチを追った。

歯科口腔外科医がいるからこそ
入院患者の口腔内のトラブルにすべて対応できる。

 「唾液が少ないので、診ていただけますか」「手術前に、口腔内の状態をチェックしてください」「噛むと痛くて食べられない患者さんがいます」...済衆館病院の歯科口腔外科医長を務める梅村恵理のもとには、院内の看護師や医師から連日、さまざまな入院患者の口の問題に関する依頼が舞い込む。診療室で治療したり、ベッドサイドに赴いて診察を行う。「当院にはお口の問題を抱える高齢の入院患者さんが多いですね。歯科衛生士と連携し、依頼に迅速に対応するよう心がけています」と梅村は言う。

梅村が特に歯科口腔外科医としての本領を発揮するのは、義歯のトラブルだ。入院患者のなかには、以前の義歯が合わなくなる人も多い。そうした場合、全身状態を考慮した歯科治療、義歯の調整や新たな義歯の作成を行う。「噛み合わせが悪くなると、患者さんは食べる意欲を失い、低栄養の状態に陥ることで回復が遅くなります。反対に、よく噛むことは脳を活性化し、唾液の分泌が促進され口腔内を清潔にする効果もあります。噛む行為は非常に大切です」と梅村は話す。

また、噛む機能だけでなく、飲み下す機能(嚥下機能)が低下しても、食事はうまくとれない。そして、飲み下す機能の低下でさらに怖いのは、誤嚥性肺炎のリスクだ。誤嚥性肺炎は、飲み込みに失敗し、食べ物や唾液とともに細菌が肺に入って炎症を起こす病気で、その予防には嚥下機能を維持し、口腔内を清潔に保つ〈口腔ケア〉が重要となる。済衆館病院では、梅村、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士が嚥下チームを組んで、誤嚥予防に向け、入院患者の日常的な口腔内の掃除やブラッシング指導、口腔機能のリハビリテーションなどを行っている。また、院内に摂食・嚥下ワーキンググループを組織し、梅村による講義をはじめとした各種勉強会など職員全体の口腔ケアのレベルアップにも取り組んでいる。嚥下チームの一員である西脇克浩(言語聴覚士)は、次のように語る。「摂食・嚥下機能が衰えた方に対しては、口腔ケアや食事介助のときに職員が誤嚥させてしまうリスクもあります。それゆえ、正しい手法を周知徹底し、病院全体のサポート力を底上げする必要があります。梅村先生は、最先端の医学的根拠に基づいた口腔ケアの手法や知識を教えてくださいますので、説得力がありすごく勉強になります」。

済衆館病院では、歯科医師、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士が密に連携し、入院患者の口腔ケアに取り組む。まず最前線で看護師が日常的な口腔ケアを担当し、問題のある患者は歯科衛生士が関わる。さらに、言語聴覚士が唇、舌などの運動機能の強化に取り組むことで、一人でも多くの人が口から〈食べる〉を維持できるよう力を注いでいる。

維持することで高齢者の再入院を減らし、
自立した生活へと繋げる。

院内に歯科口腔外科医を抱え、高齢者の〈食べる〉を支援し、摂食・嚥下サポートに力を入れる済衆館病院。この取り組みの背景には、超高齢社会の到来とともに、高齢者の誤嚥性肺炎が急増していることがある。今や肺炎は日本人の死亡原因の3位に浮上しており、肺炎で亡くなる人の大半は75歳以上の高齢者なのだ。しかも、誤嚥性肺炎は再発を繰り返すことが多く、せっかく退院しても、再入院するケースが非常に多い。

再入院を防ぐにはどうすればよいだろうか。「当院で身につけた、正しい口腔ケアや食事介助の方法を在宅でも継続していただくことが大切です。たとえば、食事するときは、患者さんに適した一口の量を、適したスピードで口に運ぶように継続して取り組まなければなりません」と、西脇は言う。そうした知識や手法を伝えるために、同院では退院時の指導に力を注ぐ。退院前には必ず、家族や在宅チームのメンバーに対して、患者の状態に合った口腔ケアの方法、口腔周辺の運動の仕方、食事の姿勢や形態、介助方法などを丁寧に指導し、在宅へと送り出している。しかし、それだけではまだ足りないという。「摂食・嚥下は生活に直結した問題なので、患者さんの身近でケアする人たちみんなで、学んでいかなければなりません。今は院内の教育に力を注いでいますが、ゆくゆくは摂食・嚥下ワーキンググループの活動を地域へと広げていきたいと思います」(西脇)。

済衆館病院がめざすのは、患者を確実に生活の場に戻し、さらにその後、できるだけ長く自立した生活ができるよう支えていくこと。その病院のミッションにおいて、〈しっかり食べ、しっかり飲み下す〉サポートは重要な意味を持つ。「高齢者にとって、口から食べることは人生の楽しみであり、自立して生きる力となります。これからも多職種が力を合わせて、しっかりサポートしていきます」と梅村は意気込みを語った。

梅村医師は月に1度、土・日曜日を利用して、横浜で開催される〈噛み合わせの研修会〉に通い、どうしたら高齢者がよく噛めるようになるか、という観点から最新の知見を学んでいる。「常に新しい知識や技術を取り入れ、当院の患者さんに最新の治療を提供できるよう心がけています」と梅村。飽くなき向上心を持ち、自己研鑽は続く。

  • 梅村医師が済衆館病院の歯科口腔外科に赴任してきたのは、平成26年。前任者を引き継ぎ、口腔外科一般(粘膜疾患や、入院・手術を必要とする疾患)、有病者歯科(心臓疾患や脳卒中、糖尿病などを持つ患者の歯科治療)、歯科外来(義歯やインプラントなど噛み合わせを回復する治療)を展開し、専門性の高い歯科医療を提供している。
  • また、愛知学院大学歯学部の医局に所属する梅村は、週に1回、同附属病院で〈リエゾン外来〉を担当している。この外来の対象疾患は、〈口腔心身症〉。原因不明の舌の痛み、口腔内の違和感など、心理・社会的な問題に由来する口の症状を扱うため、歯科医と精神科医が一緒に診察するという特色あるスタイルを持つ。梅村はこの〈口腔心身症〉を生涯追究する研究テーマと定め、2年に1回、国際学会で発表を続けるなど、病院の業務と併行し、先鋭的な歯科医療の研究を深めている。

安心の在宅生活に向けて
高齢者の口腔機能を整える。

  • 〈しっかり食べて、飲み下す〉ことは、高齢者が自立して豊かな生活を送る上で必要不可欠なことである。しかし、高齢になると少なからず摂食・嚥下機能が衰え、また、入院を機に、食欲の低下が見られることもある。入院中に絶食して、噛んだり飲んだりする動作をしない日が続くと、たちまち口の周りの筋力は衰え、飲み込む力が失われると同時に、誤嚥性肺炎にかかるリスクも高まる。
  • 病院にとって、入院中に、高齢患者が再び〈口から食べられる〉ように状態を整えることは、主疾患の治療と同時に進めるべき、もう一つの重要な治療である。しっかり食べられる状態を取り戻し、退院時には、正しい口腔ケアや食事介助の方法を在宅医療チームに引き継ぐ。済衆館病院はその重要性を認識し、医師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士のそれぞれの専門能力をフルに活かしたサポートを実践している。

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