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患者の思いを叶える肺がんの集学的治療。

患者の意思を第一に、数ある治療法の選択肢から最善の治療を提供する。

トヨタ記念病院

平成16年に開設されて、すでに10年以上。豊田市にあるトヨタ記念病院の呼吸器センターでは
外科療法、化学療法、放射線療法を組み合わせた肺がんの集学的治療を展開。
呼吸器内科医・外科医が常に議論し、患者の希望、考え方を尊重した、
いわばオーダーメイドの治療を提供している。その緊密な連携体制と今後の目標を探った。

患者の意思に応えるための
カンファレンス。

トヨタ記念病院の呼吸器センターには、現在、呼吸器内科医6名、外科医2名が所属。患者の診療方針を決めるため、週に1回カンファレンス(症例検討会)を開き、診療科の垣根を越えて積極的な議論を交わしている。

たとえば、あるカンファレンスでは、過去に肺がんを手術した患者の二度目の再発症例について議論を交わしていた。「一度目の再発のときは化学療法を行いましたが、副作用で間質性肺炎(肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなる病気)を起こした経緯があります。二度目の再発はガイドラインでは手術適用ではありませんが、化学療法を行うこともできない。外科的にはどうお考えですか」。呼吸器内科部長の杉野安輝医師がこう尋ねると、呼吸器外科部長の齊藤雄史医師はこう問い返した。「放射線治療という選択肢もありますが、患者さんは手術を希望されているのですか」。「そうなんです。手術で取れるなら、ぜひお願いします、と...」。「それなら、やりましょう。その部分だけなら、きれいに病巣を除去できると思います」。齊藤はそう答え、具体的な手術の段取りに話を進めていった。

ガイドラインは標準的な診療を示すものだが、決して絶対的な治療方針を示すものではない。「ガイドラインを基準にしながらも、患者さんの意思を第一に尊重したいと考えています。判断に迷ったとき、気軽に外科医に相談できる環境がありがたいですね」と、杉野は笑顔で話す。

「手術してほしい」という患者がいる一方で、「絶対に手術はいやだ」という患者もいる。手術をすれば完治が望めるのに拒まれる場合、同センターではまず内科医から、「なぜ薬物療法ではなく、手術が必要なのか」という理由を患者に説明する。次に、外科医が手術について、リスクも含め、わかりやすく話す。さらに、放射線治療の併用が望ましい場合、放射線科の専門医からも丁寧に説明する。その上で、患者に治療法の選択を委ねる。がんの集学的治療は、外科療法、化学療法、放射線療法の3つを効果的に組み合わせることを言うが、そのすべての選択肢を提示できるのは、同センターの強みといえるだろう。「患者さんはときに、間違ってがん医療を認識していることもあります。そういうことがないように、インフォームド・コンセント(説明と同意)で正しい情報を提供し、患者さんが納得できる治療法を選べるよう支援しています」と杉野は言う。

外科療法、化学療法、放射線療法のそれぞれが劇的に進歩を遂げており、がん治療は様変わりしている。そうしたなか、トヨタ記念病院では呼吸器内科と外科が互いの垣根を取り払いより強固に連携することで肺がん患者一人ひとりに最新の医療を提供している。

がんとともに生きる患者を、
地域完結型医療で支えていく。

ここ数年間で、肺がん治療は劇的に進化している。化学療法では、有効な薬が開発され、生存期間が延長した。とりわけ分子標的薬(特定のがん遺伝子を狙って作用する抗がん剤)の登場により、治療中も副作用を抑えながら、普段通りの生活を送れるようになってきた。また、外科領域の進化も目覚ましく、胸につけた小さな傷から手術を行う胸腔鏡手術が主流となっている。かつて肺がん治療は、開胸手術以外に効果的な治療法はなく、〈治るか、治らないのか〉の二者択一だったが、今は手術以外の治療を受けながら、がんとともに生きていける時代になった。

そうした時代にどのような医療が必要だろうか。齊藤は2つの視点から説明する。「一つは〈治す〉医療の追求です。日進月歩の医療技術を取り入れ、完治を追求していきたいと思います。たとえば近年では、新しい放射線治療のサイバーナイフ(詳しくはコラム参照)を手術に併用することで、確かな治療成果を上げています」と話し、次のように続けた。「もう一つは、〈治す〉だけでなく、長期にわたって患者さんを〈支える〉ことです。そのために、院内の緩和ケアチームや関連施設の訪問看護ステーションと連携し、患者さんが在宅に戻り、終末期ケアに移行してからも、穏やかに過ごせるように見守っています」。さらに、その支援を強化するために、「当院が培ってきたがん医療・看護の知識を、もっと地域に役立てていくことが今一番の課題。勉強会などを通じ、地域の医療機関や在宅医療に携わる方たちとより良い協力関係を築いていきたいですね」と杉野は話す。

地域に住む人が、他の都市に行かなくても、最新の肺がん治療を受けることができ、住み慣れた町でずっと暮らしていくことができる。そんな未来をめざし、呼吸器センターはこれからも院内連携、地域連携を深め、一人ひとりの患者を治し支えていく構えだ。

治療法が日々進化し、がんとともに生きることが当たり前となった時代。今や治療の選択肢は、単に完治させるだけではない。患者がどのような治療法を望んでいるのか。どんな生活を過ごしたいのか。患者の意思を尊重した上で、最善の選択肢を選ぶことが求められている。

  • 放射線治療が進化を遂げるなか、注目を集める最先端の放射線治療装置が〈サイバーナイフ〉だ。患者の動きを追尾修正して病巣を正確にとらえ、あらゆる角度から放射線を照射することが可能で、周囲の正常な部位へのダメージを最小限に抑えつつ、必要な部位に高いエネルギーを集中させて効果的な治療ができる。トヨタ記念病院では平成27年9月、最新鋭の〈サイバーナイフM6〉を導入した。
  • サイバーナイフの導入は、肺がん診療に大きな変化をもたらしている。肺機能が低下した高齢者など、手術が困難な患者でも治療ができるようになったのだ。今後、トヨタ記念病院では新たに〈トゥルービーム〉も導入予定。腫瘍だけに放射線を集中させる強度変調放射線治療と、呼吸の動きを補正する機能を組み合わせた先進的ながん治療システムで、緩和照射などで威力を発揮することになる。

医療者が患者に与える医療から、
一緒に手に入れる医療へ。

  • 医療技術の進歩に伴い、がん治療の選択肢が広がっている。がん治療は医療者から患者に与えられるものではなく、医療者と患者が一緒に考え、最良の治療と成果を獲得していくものへと変化している。
  • 治療法の選択肢が多いだけに、どの治療法が自分に合っているか迷い、治療方針をなかなか決められない患者も多い。そこで、トヨタ記念病院の呼吸器センターでは、インフォームド・コンセントを重視している。患者が正しく理解できるまで、各専門医たちが丁寧に説明。種類が多く、副作用の違いもいろいろある抗がん剤については、化学療法室の看護師や薬剤師も説明に加わるという。同センターに関わる多職種が協力して、患者の理解と意思決定を支援するからこそ、患者は納得できる答えをじっくり見出すことができる。これからのがん治療に何よりも必要なのは、こうした医療者と患者との充分なコミュニケーションなのではないだろうか。

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