LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
キュアとケアを両輪にして、慢性心不全に立ち向かう。
見つめるのは、〈生活〉。
蓑島啓太/
地方独立行政法人 岐阜県総合医療センター
蓑島(みのしま)啓太は、慢性心不全看護認定看護師。
増悪を繰り返すたびに低下する心機能を抱え生きる患者に寄り添い、
心不全増悪因子の評価やモニタリング、病態に応じた生活調整など、
患者のセルフケア能力を支え高める、心不全ケアの専門家である。
「もしもし、岐阜県総合医療センターの蓑島です。調子はどうですか」。いつものように、穏やかな声で、蓑島は電話の向こうの患者に話しかける。彼は慢性心不全看護認定看護師。心臓血管センターの病棟勤務に加え、認定看護師として活動する。その一つが電話による状態確認。「心不全の看護外来の受診患者さんで、気になる方には、電話で様子を聞いているんです」。
電話とはいえ、なぜ病院の看護師が患者の状態を確認するのだろうか。「心不全は病気ではなく、原因となる病気によって、心臓の働きが低下した状態をいいます。これはある程度回復しますが完治はしません。もちろん、原因になる病気(心筋梗塞、不整脈、心筋虚血など)は治ります。当院は循環器領域において、極めて専門性の高い医療機能があり、しっかりと治療します。ただ、病気により心臓はダメージを受け、そのダメージが慢性心不全という状態で続きます。良い状態と悪い状態を繰り返すため、常に体調を管理し、悪くさせないことが大切なんです」。
悪くなる主な要因は、生活習慣の乱れである。塩分過多、飲水過多、喫煙、運動量の過不足など。多くの患者が再入院を繰り返す。そうした過程を経て、心機能は緩やかに下降、あるいは、急激に悪化し死に至る。
蓑島は言う。「認定看護師の教育課程で、心不全の増悪因子やメカニズムなどを学びました。それをもとに指導をすれば、患者さんの生活は改善できると最初は思いました」。だが、自分からの一方的な指導では、患者の生活習慣は変えられないと痛感する。専門的な知識だけではなく、患者の生活に沿った話をし、その上で自分の状態が良いか悪いか、患者本人に気づいてもらうことが大切なのだ。「今は、悪くなった原因を探り出すために、まずは患者さんの生活をしっかりと聞きます。細かく話を聞けば『実はね...』という言葉が必ず出てきます」。その上で、何を、どう変えていけばよいのか、患者ができる行動として示すのだ。それをきめ細かく行うために、看護外来や電話での状態確認を始めたという。
慢性心不全には、元の病気のキュア(根治的治療)が終わった後、それを引き継ぎ、きめ細かな生活指導を中心とした、ケア(生活の質を高めるための全人的〈身体・心理・社会的立場等〉医療)が重要となる。言い換えると、キュアが最高でもケアがしっかりしていないと、慢性心不全に立ち向かうことはできない。
「当院は循環器領域がもともと強い病院です。心臓リハビリにも力を入れ、リハビリスタッフは熱心に取り組んでいます。薬剤師、栄養士も同じです。でもそれが、これまでは繋がっていませんでした。各職種が個々にアプローチしていたんです」。そうではなく、一つの方針を持って総合的なケアを提供しなければいけない。そんな思いから循環器内科の医師と2人で、蓑島は心不全チームを立ち上げた。現在は前述の職種に加え、退院調整の看護師、MSWもメンバーである。
チームでは常に情報交換し、リスクが高い患者には、各職種が意識を揃えアプローチをする。また、退院患者で、看護外来受診が必要と思われる対象は、チームでカンファレンスを行い決めるという。蓑島は「多職種みんなの意見を、看護外来に取り入れています。うれしいことに、受診患者さんは再入院をしていません。まさにチームの力を結集した成果です」と言う。
慢性心不全ケアのための環境整備を進める蓑島。これからの目標は何だろうか。「何らかの理由、事情で、心臓リハビリや看護外来を、受診できない高齢患者さんがいます。そういう方が再入院せずに過ごしていける仕組みを、診療所の先生をはじめ、地域の医療・介護従事者の皆さんと、この地域に創り上げたいと考えます。そのためにも、土台となる心不全チームの力を、もっと高めていきたいですね」。
患者にとって、一生のつき合いになる慢性心不全。完治はしなくても、より良い人生を思い通りに生きることができる。それを支え続けるために、蓑島はチームとともにしっかりと前を見つめている。
看護外来、患者への電話、ラウンド(病室訪問)、心臓リハビリ確認、そして、心不全チームとのカンファレンス。認定看護師としての蓑島の一日は、あっという間に過ぎる。「当面の課題は、看護外来のさらなる充実」と語る蓑島は、看護師の育成にも全力を注ぐ。
COLUMN
BACK STAGE