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知多半島を守り続けるために、
今、考えるべきこと。

一刻も休むことが許されない病院。

半田市立半田病院

新病院建設の話は、5〜6年前から出ていた。
半田市を挙げて、そして、住民の期待に応えての新病院建設だ。
充分な検討を終えたが、建設候補地が定まらない。
まさにその時、熊本地震という衝撃が走った。
「病院が実際に消える」...。その危機感とは何か。
同院の石田義博病院長、神野 泰循環器内科部長に聞く。

狭く、古い病院施設。
それでも高水準を保つのは、職員の意識。

---貴院の機能・役割からお教えください。
石田 病床機能は〈高度急性期、急性期〉、重症な患者さん、早期に治療が必要な患者さんに専門的で質の高い医療を提供しています。その能力を基に、救急医療では〈救命救急センター〉として、年間約7000件の救急搬送を受け入れており、これは知多半島内の救急搬送件数の約40%です。また、〈地域中核災害拠点病院〉にも指定され、災害時は医療拠点となり、重症・重篤な傷病者の受け入れなど、災害時に地域の医療拠点となる病院です。そして、〈地域医療支援病院〉。医療面はもちろん、医療スタッフの教育研修なども含め、地域の医療機関を支援する役割を担っています。

--そのいずれもが知多半島唯一。すなわち、半島の中核的病院として位置づいているということですね。
石田 はい、そうです。

--そのベースは高度な医療能力にあると思いますが、神野先生はその担い手のお一人ですね。
神野 循環器内科では、現在7名のスタッフで当直体制をとり24時間365日救急対応し、心臓外科と協力して、知多半島では当院でしかできない高度な治療を行っています。脳神経外科も同様の体制で、心筋梗塞や脳卒中といった緊急対応が必要な疾患に、常に対応できます。但し施設や設備は、私が赴任した7年前でさえ、相当老朽化していて驚きました。

--築35年と聞いていますが、普段の診療に支障は出てきていませんか。
神野 老朽化は深刻です。特に給排水配管、電気など重要設備。手術中に天井から水漏れしたこともあります。そして、狭い。医療技術の進歩に伴い医療機器、情報システム機器が増加し、大型化しており、今でさえ廊下に高額医療機器を置いている状態で、最新機器の導入は現実的に厳しいですね。

--それほど院内が狭隘化していると、動線が複雑、かつ、長くなっていませんか。
神野 救急患者さんの手当をしながら、院内の端から端へ搬送することもあります。患者さんには負担が大きく、容態がさらに悪化してしまう可能性があります。
石田 何より、患者さんへの最新の医療提供ができない、落ち着いて入院治療を受ける環境を整えられない、様々な部分で支障を来たしています。

--災害対策面ではいかがですか。
石田 診療機能の中枢である中央診療棟が、耐震構造になっていません。過去の増改築により、外部からの耐震補強工事は技術的に困難で、内部工事で補強するとなると、相当期間、病院の機能を停止しなくてはできません。それがネックとなり、耐震工事に踏みきれずにきました。

---そうした現実を抱え、それでも高度な医療提供が可能なのはなぜでしょうか。
石田 職員の高いモチベーション、それに尽きます。狭く、古い院内で、余計な労力を日常的に使いながらも、職員みんな、当院がどういう病院かを理解し、意識の高さでカバーしてくれています。

病院消失の危機
新病院建設に、重要なのは、〈時間〉。

---施設・設備の老朽化、狭隘化、低い耐震性というと、平成28年の熊本地震における熊本市民病院が思い出されますね。
石田 入院診療機能がすべて消失し、一時は廃院が決定されました。しかし、局地的な地震だったため、国の支援により3年計画で新病院建設が決まったそうです。
神野 私は、半田病院がなくなってしまう可能性があるんだと、強い危機感を持ちました。

---もし、南海トラフ巨大地震が発生すれば、この病院のダメージも大きいですね。
神野 手術室などの重要な部分で未耐震の場所もあり、損壊は充分にありえます。

---つまり、浸水や津波ではなく、〈揺れ〉に耐えられないということですか。
神野 震度6くらいの中規模地震でも危ないですね。建物が倒壊しないまでも、配管が壊れて水が使えなくなったり、免震構造でない設備が損壊したら、診療機能はすべて消失します。そうなると、入院患者さんの院外退避、被災地外への転搬送を行わなければならず、患者受け入れは、実質不可能となります。長期にわたり診療が再開できない場合、そのまま廃院になってしまうかもしれません。
石田 南海トラフの場合、広域災害になりますから、当院にだけ優先的に国の支援が入ることは考えられません。

--つまり、半田市立半田病院が消失してしまう。
石田 今のままでは、最悪そうなる可能性もあります。診療再開の目途が立たなければ、今半田病院が有する機能や認可が近隣の病院に移される可能性もあります。心筋梗塞や脳卒中といった一刻を争う患者さんを市外の病院へ搬送しなければならない事態になるということです。

---新病院建設計画があると聞きますが、進捗状況はいかがですか。
神野 建設予定地が最終決定せず、話が止まってしまっています。

---新病院で留意されるポイントは何ですか。
石田 3つ考えられます。まずは機能性。質の高い医療を提供するために、最新の医療機器を置けるスペース、効率的に動ける動線を確保すること。二つ目は、立地。現在通院中の患者さんに不便をかけない、高齢者のアクセス確保という視点も必要です。そして、コスト。見た目ではなく現実的な機能性を追求し、コストを極力抑えることが大切です。しかしそれにもまして重要なことがあります。

--それは何ですか。
石田 〈時間〉です。当院には、半田市民の皆さん、そして、知多半島63万人を守り続ける使命があります。そのためには、最短で新病院を建設することが必要です。それが遅れると、現在の病院を使い続けることとなり、むこう30年で70%の確率で発生するといわれている、南海トラフ巨大地震のリスクにさらされることを意味します。その先には、病院消失というリスクもある。また、今の設備を維持するために、いずれ壊す病院に高額な修繕費や改修費も発生してきます。こうしたさまざまな面を考えると、当初の建設予定地である市職員駐車場は、最短の工期で、建設費も抑えることができ、最適の場所だと考えます。とにかく、一刻も早く建設に向かうこと。それが最大の願いです。

今のままが続くなら、内部からの耐震補強が必要。「効果的に補強するには、通路を遮断するような壁ができてしまいます。つまり、ほとんど使えない建物になる。しかもその間は病院機能停止。それだけで経営の危機をもたらします」と石田院長。

  • 厚生労働省は、平成8年、阪神・淡路大震災での教訓を活かし、全国に災害拠点病院を定めた。そのなかで半田市立半田病院は、地域で中核となる災害拠点病院としての指定を受けている。
  • その役割は医療圏のなかで、災害時の救急活動をリードすること。被災した地域住民の診療や患者の受け入れ。被災した周辺の医療機関に対して、患者移送をはじめ、広く地域全体を見つめた支援活動を行わなくてはならない。
  • また、全国から支援のために集まる医療チーム(医師、看護師、医療技術者等)を受け入れ、多くのチームによる効率的な支援活動を設計し、その実施を指揮することになる。
  • 但し、そうした諸活動は、拠点となる病院があってこそ可能なこと。地域中核の災害拠点病院自体が損壊したとなると、自院の入院患者の院外退避さえも早期に進められない可能性がでてくる。

真に大切に考えたいのは、
平時の日常的な診療。

  • 石田院長は語る。「災害時だけではなく、今、目の前にいる患者さんを大切にしたい。なぜなら当院の診療活動の99%は、平時での日常的な診療。患者さんが通いやすく、使いやすく、親しみを感じる病院であることが大切。そのためには、職員が、働く病院としての魅力を感じること。各種指定・認定を受ける病院としての役割を果たすには、職員の高い意識と活動が不可欠だからです。しかし、老朽化した今の病院で働き続けるなか、心身の疲弊は重なり、心ならずも退職する者が出てきます。また、大学病院からの専門医派遣にも影響が出ると、診療科が存続できない事態もあり得ます。経営の永続性を考えると、新病院建設の遅れは、想像以上に大きなリスクを抱えています」。
  • 99%は日常的な診療。確かにそのとおり。だからこそ住民は安心の日々を過ごすことができる。知多半島全体の医療が守られる。知多半島の人々の日常を守るためにも、同院の早期の新病院建設は、一刻を争う課題である。

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