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LINKED plus 病院を知ろう

ハイブリッドな風土を、
最善の治療に繋げる。

診療科の垣根を越えた
外科と内科の連携による〈攻め〉の循環器診療。

岡崎市民病院

平成29年4月、新たに循環器センターを立ち上げた岡崎市民病院。
センターの中核を担う心臓血管外科と循環器内科の医師たちは、
新たなセンターの開設にも、「以前と変わらない」と口にする。
三河地域の心疾患を広範にカバーしてきた両診療科の間には、
長い歳月を経て培われてきた強固な連携体制があった。

心臓血管外科医と循環器内科医が
忌憚なく意見を交わす。

岡崎市民病院では、毎週金曜、心臓血管外科と循環器内科の合同カンファレンスが開催され、患者の治療方針について両科による議論が繰り広げられる。

たとえば、ある狭心症患者のケース。複数の血管が狭窄し、できればすべてにバイパス手術(足など体内の血管を用いて側道を作る外科手術)を行いたい。だが、足の血管の状態が悪く、使える血管が限られている。心臓血管外科医である湯浅 毅循環器センター・センター長は、「バイパスすべき血管の優先順位は?」「どの血管までなら、確実なカテーテル治療(細い管を冠動脈まで挿入し、閉塞部を広げる内科的治療)が可能?」と、積極的に内科医の意見を求める。これに対し、循環器内科医の鈴木徳幸副センター長は、「この血管までなら術後のカテーテル治療で問題なく補える。バイパスの対象から外してよい」と可能な範囲を提示する。外科医の立場からは、手技の安全性と確実性を、内科医の立場からは、侵襲の大きさなどに配慮しながら議論が重ねられ、治療の可能性を拓いていく。

また、低侵襲を追求することも多い。特に、高齢患者で体力面の不安がある場合などは、低侵襲なカテーテル治療の可能性が検討される。鈴木副センター長は次のように語る。「カテーテル治療は、まれにですが穿孔(血管に穴が空くこと)などのリスクを伴います。血管の状態が良くないとその傾向はより強く、いざというときに、すぐ開胸手術を行ってくれる心臓血管外科がいることで、難度の高い部分でも安心して、〈攻めの低侵襲治療〉を選択することができるのです」。

このように、循環器疾患の治療では両診療科の連携が大きな意味を持つ。外科手術、内科的治療、薬物療法などの治療法を、患者一人ひとりの状態や年齢、術後のQOL(生活の質)を勘案し、最適に選択・組み合わせていかなければならないのだ。こうした連携の重要性から、近年、多くの急性期病院において両科共同で診療を行う〈循環器センター〉の開設が進み、岡崎市民病院も、平成29年4月に循環器センターを立ち上げた。だが、湯浅センター長は「大きな変化はありません」と口にする。以前から心臓血管外科と循環器内科は密な連携を続けてきたからだ。「私たちは、隣の人に話しかけるように、自然に相談する関係ができています。目の前の患者さんが、どちらの科の担当かといった感覚で治療することはありません」と湯浅センター長。

毎週のように繰り広げられる心臓血管外科、循環器内科の合同カンファレンス。それぞれの立場から患者の利益とリスクを徹底的に議論し、最善の策を導き出す。外科医と内科医のこうした密な関係が、患者のための医療を生む。

〈循環器疾患の砦〉として、
さらなる進化をめざす。

一般的に、お互い近い存在で職域に重なりがある場合、ともすればその境界事例の押しつけ合いなど、隔たりを生む。そのなかで、岡崎市民病院の心臓血管外科、循環器内科が互いを理解し協調するハイブリッドな風土を育んできた背景には何があるのか。それは、岡崎市民病院が歩んできた歴史に起因する。

同院は三次救急病院として、24時間365日大量に押し寄せる救急患者に対応を続けてきた。とりわけ循環器領域では、かつては同院の周辺に高度な循環器診療体制を備えた医療機関が少なく、西三河北部や東三河地域からも多くの患者を受け入れてきた。三河地域の〈循環器疾患の砦〉として、大量の患者を受け入れ、広範な地域を支え続けるには、領域の押しつけ合いなどをするべくもなく、その歴史が、両科が一丸となって患者を救うという風土を創り上げたのだ。また、その過程では、愛知県内初となるハイブリッド手術室(※コラム参照)の導入など、先鋭的な取り組みも生まれている。

そして今、同院ではこれまで培ってきた診療機能をさらに広げようとしている。「近年注力しているのは、循環器疾患を治すだけでなく、防ぐことです」と、湯浅センター長。「循環器疾患は、多くが生活習慣に起因します。そのため、一度症状が落ち着いても、再発するケースが非常に多い。当センターでは、再発予防と早期治療をめざし、入院患者さんを対象にした〈心臓病教室〉での啓発活動、慢性心不全看護認定看護師による心不全看護外来での退院後フォローアップを行っています」。また、同院では平成29年4月から〈心雑音・弁膜症外来〉を開設。心雑音がある患者の送り先として明確に打ち出すことで、心臓血管外科、循環器内科が地域の診療所と連携しながら、高齢化に伴い増加する心臓弁膜症の早期発見に向け、動き始めている。

急性疾患に確実に対応するだけでなく、急性疾患にさせない取り組みにも力を注ぐ岡崎市民病院。同院は三河地域の循環器疾患の砦として、その存在感をさらに高めようとしている。

循環器疾患の砦として三河地域の医療を守り続けてきた岡崎市民病院。そのための機能として連携を深めてきた外科・内科の繋がりは、今、次のステージへと向けられている。〈治す〉から〈防ぐ〉へ。同院の循環器疾患診療はさらなる高みを見据える。

  • 岡崎市民病院には平成25年3月、愛知県内で初めてとなるハイブリッド手術室が設置された。ハイブリッド手術室とは、通常の手術室の機能と血管のX線撮影装置を組み合わせた手術室のこと。低侵襲のカテーテル治療と通常の手術治療とが移動することなく1カ所で行え、外科、内科それぞれの手技を同時に実施することも可能だ。
  • 近年、治療技術の進化に伴って、これまでできなかった、内科的な低侵襲治療が生まれ、外科治療と内科的治療を選択できる範囲も拡大してきている。そのなかで、最適な治療を選択するには、各診療科がそれぞれの専門性を高めつつ、患者の情報を共有し、連携することが重要だ。ハイブリッド手術室はいわばその実践の場であり、同院でも外科医、内科医のみならず放射線科の医師や、多職種の医療スタッフが一堂に会し、各自の知識・技術を組み合わせたハイブリッド治療が実践されている。

低侵襲治療の追求が
患者のQOLを守る。

  • 患者の高齢化が進むなか、昨今は術後の生活を見据えた治療が強く意識されるようになっている。たとえ、目の前の疾患を治したとしても、退院後の生活が成り立たなければ、本当の意味での患者のための医療とはいえないだろう。単に疾患を治すだけでなく、患者のQOLを考えた上で、どんな治療が最善なのかを考える必要があるのだ。
  • QOLというと、回復期や生活期などに目が行きがちだが、実はその後の生活を大きく左右する鍵は、超急性期の段階にあるといってもいい。確実性・安全性を担保し、できるだけ侵襲の少ない治療を選択することが、その後の生活の質に多大な影響を与えるからだ。岡崎市民病院には、確かな技術を備えた外科医と内科医が診療科の垣根を越えて連携し、一歩踏み込んだ低侵襲治療を追求できる環境がある。急性期からのこうしたアプローチが、患者のQOLを担保する上でとても大きな意味を持つのではないだろうか。

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