LINKED plus 病院を知ろう
尾張中部医療圏で、脳卒中患者のための
プラットフォームになる。
医療法人 済衆館 済衆館病院
尾張中部医療圏(清須市、北名古屋市、豊山町)で、
脳神経外科、神経内科を標榜している病院は、済衆館病院だけである(愛知県保健医療計画より)。
この地域で唯一の病院として、同院は脳卒中患者の発症から生活復帰までを時間軸で支え続ける、
脳卒中診療のプラットフォーム(基盤)になるべく、診療体制の強化を推進している。
その日、済衆館病院の救急外来に、「突然、右半身が動かなくなった」という患者が搬送されてきた。対応したのは、平成29年1月に赴任したばかりの飯塚 宏医師(脳神経外科部長)である。飯塚は救急隊の情報から脳梗塞を疑い、即座に血液検査、CT検査を指示。これらの検査結果と、発症から4・5時間以内という条件から、「t-PA治療を適応できる」と判断した。t-PAは詰まった血管内の血栓を溶かす薬剤で、静脈内に約1時間かけて点滴する。効果が認められる場合、麻痺や失語といった症状が劇的に改善することが実証されている。この患者もt-PAの投与を開始してしばらくすると、徐々に右半身の手足の麻痺が回復していった。
脳梗塞治療の革命ともいわれるt-PAだが、すべての患者に効果があるわけではなく、脳出血のリスクも併せ持つ難しい治療法だ。同院では、多くのt-PA治療を手がけてきた飯塚の赴任を得て、ようやくこの治療の導入を決断。24時間365日、いつでも医師、看護師、放射線技師などが集結する体制を整えた。さらに飯塚は、脳梗塞に対し、最先端の脳血管内治療(カテーテルと呼ばれる細い管を血管内に通し、詰まった部位を広げたりする治療)や、カテーテルを用いた検査(表紙写真)も実践する。「すべての急性期診療ができるわけではありませんが、まずはどんな症例でも診て、当院でできるハイレベルな診療を提供します。緊急開頭手術など難しい症例は前職の高度急性期病院にお願いしています」と飯塚は話す。
飯塚が治療を担当した脳卒中患者の多くは、急性期の治療後、院内の回復期リハビリテーション病棟に移り、集中的なリハビリを行い、生活復帰をめざしていく。その医療のバトンを引き受けるのが、回復期リハビリテーション病棟の専従医であり、リハビリテーション科部長、脳神経外科医長を兼任する磯村健一医師である。脳神経外科医でもある磯村はその専門性を活かし、脳卒中患者の医学的管理を行うとともに、障害の重症度に応じて安全にリハビリテーションが行われるようマネジメントしている。また、磯村は常に、回復期の先へ視線を向ける。「大切なのは、在宅への道筋を作ることです。在宅での生活を考えて、病院でしか打てない注射をなるべく内服薬に変更するなど、患者さんがスムーズに生活期へ移行できるよう支援しています」と話す。
飯塚医師の前職は、高度急性期病院の脳神経外科部長。急性期治療の最前線で活躍していただけに、回復期リハビリテーション病棟のある環境が新鮮だという。「気になる患者さんがいると、リハビリの様子を見にいったりしています。退院するまで患者さんと関わりを持てるのがうれしいですね」と話す。
飯塚の赴任を機に進化した、脳卒中の急性期医療。そして、それに続く充実した回復期医療を提供する済衆館病院。「一分一秒を争う脳卒中に対し、超急性期から責任を持って対応することは、私たちの長年の夢でした」。そう語るのは、副院長の伊藤 隆医師(神経内科)である。伊藤が同院に赴任したのは平成19年で、赴任と同時に神経内科が新設された。「当初は神経内科でt-PA治療も手がける計画でしたが、マンパワー不足で頓挫した経緯があります。その悔しい思いもあったので、飯塚先生の赴任は本当にうれしいニュースでした」。
待望の医師を得て、今後、同院がめざすものは何だろうか。「この地域で脳神経外科、神経内科を掲げる唯一の病院として、地域で発生する脳卒中については、発症間もない時期の治療から生活復帰までの流れを一貫して支援できる〈脳卒中のプラットフォーム(基盤)〉のような存在になりたいと考えています。当院という基盤が地域にあることで、脳の病気を疑うとき、いきなり遠方の病院を訪ねなくても、まずは当院に相談していただける。ここで正しく診断した上で、必要に応じて、近隣の高度急性期病院へ迅速に紹介できます」 (伊藤)。そのために、伊藤は高度急性期病院との太いパイプづくりに力を注ぐ。近年は、同院から患者を紹介するだけでなく、高度急性期病院から、治療を終えた患者を受け入れ、在宅へ繋ぐ機能も強化している。
「今後はさらに生活期を見据えた取り組みが重要だと考えています。脳卒中は後遺症が残ることが多く、患者さんは障害を抱えながらその後の人生を送らなくてはなりません。また、脳卒中は再発しやすいので、再発予防のための生活習慣病対策も必要です。障害や再発の不安とともに生きる脳卒中患者さんをずっと支えられる拠点として、診療体制の充実を進めていきます」。伊藤は力強くそう締めくくった。
目下の課題は、救急隊との連携強化。「脳卒中の大半は、救急搬送されてきます。救急隊の方に当院の実力を正しく理解していただき、当院の急性期医療機能を役立ててほしい。さらに近隣の高度急性期病院との連携を一層深め、一人でも多く脳卒中の患者さんを救っていきたいと思います」と伊藤は語る。
COLUMN
BACK STAGE