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一歩先を行く
チーム医療の形。

患者の生活復帰をめざし、多職種が相互乗り入れして
効果的なチーム医療を実践。

医療法人 珪山会 鵜飼リハビリテーション病院

急性期治療を終えた患者を受け入れ、
365日のリハビリテーションを提供する鵜飼リハビリテーション病院。
同院では、患者の生活復帰を支えるため、各職種が日々専門性を磨く。
そして、磨かれた専門性を組織力に変えるため、今、注力するのがチームアプローチ。
同院が実践する、先鋭的なチーム医療を追った。

職員の意識を変えた、
サブリーダー&サポーター制度。

患者を真ん中に、多職種が情報共有し、社会復帰をめざしたリハビリテーションを行う。このチーム医療体制は、多くの回復期リハビリテーション病院で見かける。但し、鵜飼リハビリテーション病院がユニークなのは、そのチームに〈サブリーダー制度〉(下記参照)を導入し、システムとして確立してきたことだろう。

この制度により、どんな変化が生まれたのか。サポーター役を務める機会の多い、理学療法士の尾崎友香(副主任)は、「カンファレンスの活気が全然違います」と声を弾ませる。「私たち専門職は、どうしても自分の領域で物事を考えがち。でも、サブリーダーやサポーターになると、そうはいきません。他の職種を理解し、患者さんを包括的に評価しつつ、予後予測や退院後の生活を考える視点が身につきます。結果、『自分の領域以外はお任せ』ではなく、全職種が患者さんのゴールに向けて、積極的に意見を言うようになりました」。

また、言語聴覚士の伊藤 梓(副主任)は、教育面のメリットを語る。「他の職種のサポーターに就くことは、特に管理職層のレベルアップに大きな効果があります。サポーターはチームが上手く運営され、患者さんへの対応が後手にならないように、サブリーダーを導く役割。従って、『相手の職種がどういう考え方なのか』『その人個人は、どんな特徴を持ち、どのレベルなのか』をより深く、正確に捉える必要があります。私自身、例えば、理学療法士のサポーターに就き、運動機能への理解を高めることができました」。

サブリーダー制度とは

各患者を担当するチーム内で、入職2年目以上の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師の中からいずれか1人がサブリーダーに選出され、カンファレンスの実施や課題解決など、患者の入院から退院までチームマネジメントを行う。サブリーダーは到達レベルに応じ4段階にグレード分けがされ、各サブリーダーを前4職種の管理職クラスのスタッフが、サポーターとして支援・指導し支える。両者を異職種で組み合わせると多職種理解に効果が高く、経験の浅いサブリーダーには同職種を組み合わせる場合が多い。

「以前のカンファレンスは、報告と情報共有の場でした。でも今は、自分の意見を言える場に変わりました」と、伊藤。たとえば、患者の退院時期が近づいてきても、必要であれば、〈もう少し入院して、言語のリハビリテーションを続けた方がいいと思う〉といった意見を、伊藤は率直に述べるよう心がけているという。

目標は、回復期リハビリテーションの
モデル病院になること。

サブリーダー制度をシステム化した、先鋭的なチーム医療体制。その取り組みを推進してきたのが、リハビリテーション部の森田秋子部長と、看護部の猪川まゆみ副部長だ。森田は、この独自の体制を「相互乗り入れ型チームアプローチ」と表現する。「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、そして看護師が、相互に他領域への理解を深めることで、全員が患者さんの全体像を描けるようになります。医師のもと、乗り入れ型のチームが機能することで、より高次元のリハビリテーションに繋がります」。猪川はその言葉にうなずき、こう続けた。「違う職種同士が言いたいことを言うのは非常に大切。プロとして対等にぶつかり合うからこそ、チームアプローチは深みを増します」。聞けば、猪川と森田も、打合せ中に意見が対立することは珍しくないという。「表面的に仲良くても意味がないですから、ガンガン言い合っています」と猪川は笑みをこぼす。

そんな二人にとって、今後の目標は何か。それは、「これからも各職種の専門性とチーム医療の質を追求することで、患者さんの身体・精神能力を最大限に高め、回復期リハビリテーションのモデル病院になること」だという。「そのためには、患者さんの日々の変化に即応するための、効率的・効果的な、サブリーダー制度のようなシステムが重要です。今後は、相互乗り入れを、医療ソーシャルワーカーや介護職員など他の職種へと広げていきたい」と猪川は話す。一方、森田は、地域との相互乗り入れにも着目する。「当院を退院した患者さんを地域へしっかり帰すことができて、はじめてモデル病院になれると思います。そのために、今、院内で展開している相互乗り入れ型チームアプローチを、今度は地域の人たちと一緒に進めていきたいですね。法人内外の在宅療養に関わる人たちと本音で言い合える関係を築き、患者さんがより安心して生活へ帰れる体制を築きたいと思います」。院内、そして、地域へ目を向けながら、同院は回復期リハビリテーションの未来へ突き進む。

「相互乗り入れ型のチームアプローチの根底にあるのは、法人の理念である〈患者さま第一主義〉です」と、森田は言う。「患者さんの自立と幸せを願う気持ちは、どの職種にも共通しています。だから、スタッフ同士の意見が少々、対立しても大丈夫。患者さんのために、ベストの答えをみんなで探しています」。

  • 鵜飼リハビリテーション病院に入院する脳卒中患者で、多く見られるのが高次脳機能障害(記憶力、注意力、言語力などの障害)である。それらの障害は身体の麻痺と違って、外見からわかりにくく、周囲の理解を得られにくい。
  • そこで同院では、リハビリテーション部の森田部長が開発した〈認知関連行動アセスメント(CBA)〉を活用している。CBAは意識、感情、注意など6分野にわたり、患者の能力をわかりやすく評価するもの。高次脳機能障害を専門とする職種以外でも、CBAの評価を見れば、その患者の高次脳機能障害の状態を理解できる。「相互乗り入れ型のチームアプローチを進める上で、CBAは欠かせないツール。チームのメンバー全員が、難解といわれる高次脳機能障害に強くなることで、患者さんの早期社会復帰をめざしています」と森田は話す。

対等に意見を言えてこそ
真のチーム医療。

  • チーム医療という言葉が普及して、かなり経つ。多くの医療機関で、多職種によるチーム医療が実践されるようになった。そもそもチーム医療とは、医師を中心にするのではなく、患者を中心に据え、多職種が対等に連携し、質の高い医療の提供をめざすものである。
  • しかし、本当の意味で、多職種が対等に関わり合うチーム医療を実践している病院は、どれほどあるだろうか。専門職間には少なからず壁があり、それを越えるには、率直に意見を求め合うシステムや、意見の対立も受け入れる風通しのいい風土が不可欠となる。
  • 鵜飼リハビリテーション病院はその難題にチャレンジし、専門性の追求と相互乗り入れという新しい発想で、質の高いチーム医療を実践している。それは全国を見渡しても、先駆的なアプローチといえる。そして、その取り組みは、高次脳機能障害といった難度の高い患者を抱えながら、FIM利得(患者の改善度を示す数値)で、全国平均を上回る成果などに繋がっている。

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