LINKED plus 病院を知ろう
どんなメンバーでも機能する最高の〈外科チーム〉を。
そのために築いた教育環境。
愛知県厚生農業協同組合連合会
安城更生病院
同院の外科を束ねる新井利幸副院長 兼 外科代表部長には、思い描く理想の姿がある。
それは、一人の傑出した医師がいる外科ではなく、
どんなメンバーでも機能する強固な組織を創り上げることだ。
ただ、これには、若手医師を優秀な戦力へと押し上げる育成の仕組みが欠かせない。
初期研修・後期研修先に同院を選び、着実に成長を続ける一人の若き医師の姿から、
同院の医師育成の実情を追った。
「大事なところはそこじゃない」。医師たちが一堂に会して行う外科のカンファレンスで、淡々と進んでいたプレゼンに指導医から厳しい言葉が飛んだ。後期研修1年目の医師が、患者の病状や検査内容を報告していたが、指導医の目には明らかに準備不足だと映ったのだ。「画像の見方、違うでしょ」。いつにも増して強い檄に、緊張感が漂うなか、次のプレゼンを始めたのが、後期研修2年目の余語孝乃助医師だった。
「この患者の症状は...」。担当患者の症状を的確にとらえた説明にうなずく指導医たち。その後は検査内容の確認、他の検査の必要性の有無など、冷静な議論が交わされ、発表は無事終了した。
外科の定期カンファレンスでは、画像の見方や手術のポイントが毎回チェックされる。余語も指導を受けるたびに知識を深めてきた。カンファレンスは大切な学びの場。「ここで勉強することはとても多いです」と余語も話す。
同院の研修医が担う一番の仕事は、救急外来。さまざまな症状、疾患の患者を診ることは、重要な学びとなる。そのため、初期研修1年目は、約1カ月間の座学を通じ、救急外来に必要な最低限の知識を各診療科の医師から学び、5月頃から当直に入る。ただ、1年目の研修医が1人で当直に入ることはない。必ず1年上の先輩とペアで診療し、分からないことはさらに上の先輩に、そして上級医に相談する屋根瓦式のフォロー体制が築かれている。「急に心拍数が上がるようなときには、すぐ上の先生に相談すればいい。フォロー体制が万全ですから安心です」(余語)。これは外科に限らず、どの診療科でも共通している。
また、1年目のうちに救急の実践力を身につけられる診療科をすべて回るのも特徴だ。余語も、「救急外来の診療に必要な知識を重点的に学べ、すぐに自分の実診療に役立ちますから、学習意欲も持ちやすいです」とメリットを口にする。後期研修になれば、実際に執刀する機会も多く、術後の経過観察や、退院後の外来診療なども担当。一人の患者に深く関わることになる。
さらに、「コメディカルを含めて雰囲気がいい」のも、余語が感じる同院の魅力。指導医である新井は言う。「当院は伝統的に職員の人柄が良く、『こういうことがしたい』という思いを全力でサポートするなど、人的資源に恵まれています」。こうした恵まれた環境が整っており、余語医師も「安城更生病院は研修医にとって最高の教育環境」だと感じている。
静寂に包まれた外科病棟で淡々と進むカンファレンス。指導医から時折飛び出す厳しいチェックは、研修医たちの確かな成長の糧だ。同院では、多忙な救急外来を担う研修医たちの成長を見据え、実臨床にすぐに役立つ研修プログラムを整備。一流の医師を育てるべく熱を帯びた指導が繰り広げられている。
整った教育体制を持つ安城更生病院。そのなかで外科が特に医師教育に情熱を傾けるのは、新井が思い描く理想のチームづくりを実現するという目標があるからだ。
同院は、地域の最後の砦として、二次医療圏で発症するあらゆる疾患への対応が求められる。もちろん外科も例外ではなく、すべての外科領域で標準治療を提供し、標準治療が難しい患者にも対応できる能力を持たなければならない。これを支えるのは、ずば抜けた「個」ではなく、優秀な医師たちが結集した「組織」だと新井は考えている。
「医師の入れ替わりの影響を受けない、属人的ではない安城独自の体制と術式、いわば〈安城モデル〉を創り上げたい」と新井。そのため、これまでの伝統を土台にし、医師一人ひとりがスキルアップできる環境づくりを進めてきた。「手術チームには必ず1人は若手を入れるなど、なるべく診療に携わる機会を多く提供できるように努めています。経験からでしか学べないことはたくさんありますから」。患者の安全を確保した上で、若手の底上げに力を注いできた結果こそ、余語医師らがのびのびと育つ充実した教育体制なのである。
後期研修2年目の余語は、残り1年ほどで同院を一旦離れることになる。そんな余語に新井副院長は、「自分が専門としたい興味のある分野をとにかく極め、そこに軸足をおいて広く勉強してほしい」と期待をかける。
余語の目下の目標は、難しい手技に挑戦し、自分が主導できる手術を増やすこと。そして、「今は特定の専門分野に特化する医師が主流ですが、私は欲張りですから、まずは何でもできるような医師になりたい」と抱負を語った。
余語医師がさらなる成長を遂げ、頼れる責任者として舞い戻ってくる――。同院を離れ、再び戻ってくるのは10年以上先のことだが、新井副院長はそんな明るい未来を思い描いている。
外科は、個人でやるものではない。一人の飛び抜けた天才がいるより、どんなメンバーでもきちんと機能する優秀な組織を作ることが大事――。そんな信念を持つ新井副院長のもと、同院では、若手一人ひとりを育て安定した医療を提供できる強い組織づくりを進めている。そして、恵まれた教育環境で、多くの研修医たちは、医師としての力を日々高めている。
COLUMN
BACK STAGE