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LINKED plus 病院を知ろう

背骨の匠が挑む、
真の低侵襲診療。

奇をてらわず、
真摯に、まじめに、
確実性と先進性を追う。

独立行政法人労働者健康安全機構
中部ろうさい病院

中部ろうさい病院・整形外科の脊椎外科は、名古屋市南部における
脊椎・脊髄疾患の府である。
現在では、名古屋市南部に留まらず、
愛知県の三河、三重県の北中部からも患者が訪れる。
高水準を保つ診断能力と治療能力、その根底に貫かれた診療哲学をレポートする。

確実性ある診断と治療。
それは小さな打腱器から始まる。

脊椎外科部長・伊藤圭吾医師の外来診察室から、今日もまた〈コンコン〉という音が聞こえてくる。伊藤が手にするのは、打腱器。ハンマー型の小さな医療用具で、手足の腱を叩き、もう一方の手で反射のスピードと大きさを確認する。「患者さんの話をよく聞き、これで腱を叩いていけば、どの神経がダメージを受けているか解ります」と伊藤は言う。

背骨の構造は複雑である。簡単にいうと、頚部から腰部まで25個の椎骨で構成され、椎骨と椎骨の間には、細い細胞で構成される椎間板がある。椎骨の中には脊髄(中枢神経)が通り、さらに脊髄から末梢神経が分かれて全身に分布する。これらすべての構造と、どの神経が圧迫されると、その神経に繋がる体のどこに痛みやしびれが出るか。それを熟知していなければ、とても打腱器一つで診断はできない。伊藤は「自分の腕一つで診断する。CTやMRI検査は、診断の確認に過ぎません」と言う。

診断に基づき治療が始まる。最初から「手術をお願いします」という患者が多くいるが、伊藤の選択は違う。「脊髄の疾患を除き、当科での第一選択は保存療法です。ダメージを受けたと判断した神経やその周辺に局所麻酔薬を注射し、痛みをなくしていきます。それで良くなれば手術は要らない。ダメならば今一度診断します」。あくまでも診断にこだわる伊藤だが、その理由をこう語る。「責任ある診断が何より大切。確実性ある診療の根幹ですから」。

確実性ある診療。それは先進技術の導入にも貫かれている。一例として、頚椎の椎弓根スクリュー(椎骨の後上部から後方に出る部分をネジで固定する)がある。中部地区で同院が初めて導入したが、単に取り入れたのではなく、スクリューをいかに安全に入れるか、合併症を軽減するかを考え、術中斜位透視法(手術中に斜めの角度からX線透視画像を見ながら挿入する)を開発。この確認方法は、今では日本中で幅広く使用されるようになった。近年では、術中CTナビゲーションも併用するに至っている。この他にも、疾患に併せ独自の高い技術水準を保ち続けている。

こうした診断、治療の姿勢を創り出したのが、伊藤。「いえいえ、当科の基盤と骨格を築いたのは、現院長の加藤です。私はその背中を見て学び、当科の診療スタイルを受け継いできました」。

脊椎外科には、第二脊椎外科部長として片山良仁医師がいる。「片山先生が加わったことで最小侵襲脊椎固定術など科の厚みが増した」と伊藤。そして、彼らを支える医師があと2人。総勢五名の専門医の総合力が、脊椎・脊髄の最後の砦を守る。

流行りを追わない。安全・確実が最優先。
匠が挑む真の低侵襲。

近年、内視鏡を胸や腹に入れて手術を行う鏡視下手術が、大きく取り上げられている。小さな穴をいくつか開けるだけで体への負担が少なく、より早い社会復帰が可能だといわれる。中部ろうさい病院の整形外科も、鏡視下手術が主流なのだろうか。「いいえ」と院長の加藤文彦医師は言う。「傷が小さければよいとは考えません。これまでに鏡視下手術も行いましたが、患者さんへの確実性という意味で、現段階では、私たちは開創手術を選択しています。もちろん低侵襲化には挑戦していますがね」。

鏡視下手術ではない低侵襲化とは何だろうか。「出血量を少なく、手術時間を短くして、合併症の発生を最小に留める。これが真の低侵襲だと考えます。患者さんの体力やその後の生活を考えると、私たちの答えは自ずとこうなります」。なるほど、何よりも患者を第一に考えるが故に、自分の目を信じる、手を信じる、技術を信じる。それはまさに〈背骨の匠〉としての加藤の診療哲学を物語っている。

加藤の言葉を聞き、伊藤はこう語る。「流行りだからという理由で、新しい技術に飛びつきはしません。逆に、自分たちの持つ技術の延長上にあり、安全性・確実性が担保できると解ったら、何としても挑戦していきます」。

整形外科としての診療哲学を貫き、最先端には貪欲に挑みながらも、患者にとっての安全・確実を最優先する。最後に今後の抱負を聞いた。「若手医師の育成に、力を注ぎたいと思います。大切なのは、診断力。そのためには、自分が診断するという意識をしっかりと持ち、多くの患者さんを診ることで経験を積む。とても地味なスタイルではありますが、脊椎・脊髄の地域における最後の砦として、これまで築かれてきた当科の伝統を守り、高めていきたいと考えます」。伊藤のその力強い言葉に、院長の加藤は笑顔で大きく頷いた。

診断の確実性。第一選択肢は、保存療法。手術では短い時間、少ない出血量、合併症を最小に留める。そのすべてに妥協を許さず、医師の力を結集させ、貫き通した伝統。それが中部ろうさい病院、脊椎外科の姿だ。

  • 第一選択が保存療法である同科で、患者にすぐに手術を行うケースがある。老老介護や独居の高齢者たちだ。彼らは、「家族に迷惑をかけたくない」「自分で生きていかなければならない」と、自立を迫られる生活背景を持つ。
  • 「個々の生活を見つめた治療ですね」と伊藤は言う。「また、高齢者は複数の疾患を併せ持つことが多く、診断・治療の際には、医師にはそこへの意識も大切です。そうした総合的な視点で脊椎・脊髄の疾患をとらえる。整形外科はそうした診療科です」。
  • また、リハビリテーションについても伊藤は言及する。「脊髄損傷の患者さんの社会復帰のために、リハビリテーションは不可欠です。体重免荷トレッドミル歩行訓練、対麻痺を対象とした歩行用ロボット訓練、吊り下げ式起立・歩行レーン、長下肢装具(HALO)など、高度な技術を用いた機能回復訓練が、当院の治療の一方にあり、患者さんのより良い生活を支えています」。

集約された機能が、
さらに高度な機能を生む。

  • 医療には、均てん化と集約化という流れがある。均てん化とは、地域ごとに一定レベルの診療ができるよう、病院の医療水準を揃えていくもの。集約化とは、均てん化した診療レベルよりも、さらに際立った医療水準を持つ病院を、広域単位で点在させるものだ。
  • 均てん化と集約化には、法制度が進めるものがある一方、大学医局が地域医療の充実を図る意味で、積極的に進める場合がある。中部ろうさい病院はまさにこのケースである。
  • その重責を担ったのが、加藤文彦院長だ。彼が同院に赴任したあと、それまで年間25例ほどだった手術件数は、いっきに120例程まで増加。今日では脊椎・脊髄疾患だけで年間500例を優に数える。
  • これを逆説的にいうと、脊椎・脊髄疾患の診療の難しさ、医師数の少なさがある。だからこそ、多くの患者が最後の頼みとして同院に集まり、それによって機能がさらに高められていく。この領域の最後の砦。まさにその言葉がふさわしい。

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