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LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

圧倒的な臨床経験が
直感力と判断力を育む。

「重症から軽症まで、診たことのない疾患は、ほぼない」。
その経験が、医師の礎となる。

原田貴仁
消化器内科医師 
春日井市民病院

春日井市民病院で初期臨床研修を終え、
消化器内科医としての道を歩み始めた原田貴仁。
〈専門性を高める〉という次の目標を見据え、
真っ直ぐに進む彼を支えているのは、
救急現場で揉まれ続けた〈濃密な2年間〉であった。

圧倒的な症例数を診てきた2年間。
その豊富な経験が〈気づき〉を生む。

ある日の春日井市民病院に、病棟回診を行う一人の若手医師がいた。同院で2年間の初期研修を終え、平成29年から消化器内科医として勤務する原田貴仁医師だ。原田は、担当する入院患者のもとを訪れ、注意深く話を聞き、状態を観察・確認して回る。だが、一人の患者のところで足が止まる。腸炎で入院をしている退院間近の患者。「少し腰が痛い」、そう訴える患者の言葉に、原田は引っかかりを感じた。腸炎は順調に回復しており、長期の臥床からくる腰痛だろう。通常であれば、そう判断してもおかしくない場面。それでも原田は、「これまでそんな様子は全くなかった。何か変だ」と心の中でつぶやいていた。

原田は改めて痛む場所や、発症時期を細かく聞き始める。すると患者は「数日前から急に痛くなった」と言う。「やはりおかしい」。そう確信し、すぐさまCTと血液検査を依頼。そして検査の結果、椎間板炎を起こしていることが分かった。

原田は「今回は椎間板炎でしたが、『何かおかしい』と思った患者さんが、実は心不全を発症していたということもありました」と言う。そして、「常に異変を疑い、違和感を感じたらすぐに検査する。それが癖になっているんですね。初期研修の2年間、そういうことばかりやってきましたから」と笑顔を見せた。

初期研修医時代を振り返りながら、「圧倒的な数の症例に触れることができた」と原田は言う。事実、同院は救命救急センターの指定を受けるとともに、尾張北部の地域医療の要として、一次(初期)・二次(中等症)・三次(重症)を問わず、年間1万件近い救急搬送、約3万5000名の救急外来患者を受け入れている。そして、これら救急患者の初期診療を担うのが初期研修医だが、同程度の救急搬送がある病院のなかで、同院は研修医の数が少ない。それゆえ一人ひとりが診る症例数が必然的に多くなるのだ。

「正直、最初の頃は怖いと思う瞬間もあった」と吐露する原田。「初期研修医には、救急患者の状態を正しく把握し、適切に専門医に繋ぐという役割が求められます。もちろん、判断に迷った場合には、常に上級医の先生に聞ける環境にはありますし、当院の先生方はとても真摯に応じてくださいます。ただ、初期診療はあくまで研修医。軽症のなかに、実は重症が潜んでいることもある。多くの患者に対応しながら、それらを見逃さないよう、常に細心の注意を払い続けました」。

救急で身につけた〈直感力〉〈判断力〉。
それを基盤に、専門性を磨く。

消化器内科医の道を着実に歩み始めている原田に、「医師に必要な臨床能力とは何か」を尋ねてみた。すると原田は、「〈直感力〉と〈判断力〉」と即答した。

医師はあらゆる局面で、常に判断を迫られる。それは救急の現場だけに限らない。検査を行うのか、どの薬を選択するのか、切除範囲はどこまでか、他の診療科へのコンサルトはどのタイミングにすべきか...。そして、これらの判断をより正確かつ迅速に下すためには、些細な変化から何かを感じ取る〈気づき〉が必要だ。さらに言えば、医師が変化に気づき、判断するスピードと正確性が、患者のその後に直接影響する。

春日井市民病院での初期研修を改めて振り返り、「確実に直感力と判断力がついた」と胸を張る原田。そのベースには、「経験していない疾患はほぼない」という自負がある。「後輩に対して胸を張って勧められる研修だったと思います。『何かがおかしい』と気づく力、どんなに忙しくかつ緊迫した状況でも冷静で迅速な判断を下せる能力は、座学では身につかない。救急の臨床現場で揉まれるなかで、私に染みついてきたものだと感じています」。

原田は今、2年間で磨き上げた直感力と判断力をベースに、消化器内科医として羽ばたこうとしている。めざすのは、患者に「大丈夫です」と自信を持って言える医師になること。「課題は山積みです。まだ専門的な症例に対する知識や手技の経験も全然足りません。初期研修での土台はある程度積み上げられたと思いますが、今後は臓器別の専門医療のなかで同じような土台を作りたい。そのためにも、他の先生が、自分が経験していない症例を診ていると、いろいろ質問しますね」。

もっと患者から信頼され、安心を与えられる医師になるために――。原田は今、専門医としての経験をひたすら積み重ねているところだ。

「今は、内視鏡治療や、ラジオ波焼灼療法といった、低侵襲治療に興味がある」という原田。その根底には、「医師として、患者さんに安心を届けたい」という、彼の強い思いがある。原田は、消化器内科医としての専門性を高めるなかで、自身の可能性を追い求め続ける。

  • 春日井市民病院では、圧倒的な数の症例を診ることができる。救急の初期診療を担いながら多様な症例を経験するなかで、基礎を固める段階の初期研修医にとって、これ自体が重要な学びの場であることに異論はないだろう。しかし、ともすれば、救急の慌ただしさのなかで目の前の症例だけに追われてしまい、経験を体系的に整理し、知識に変える時間が持てない弊害も生じかねない。
  • 春日井市民病院では、こうした課題を払拭するため、座学の機会を定期的に用意。毎日開かれる救急のカンファレンスはもちろん、救急医療、総合診療のスペシャリストである山中克郎医師(諏訪中央病院院長補佐)による月1回の教育症例カンファレンス、寺澤秀一医師(福井大学医学部教授)を招いての講演会。救急医によるミニレクチャーなど、さまざまな場を設けることで、バランスの良い研修をめざしている。

バックステージ
現場には、一つとして同じ症例は存在しない。

  • 医科大学生時代の学びはあくまで医師としての基礎であり、テキスト等に登場するのは基本的に典型的な症例である。原田も実際の臨床現場に出たとき、「座学と臨床の違い」を痛感したという。患者さんの訴えや検査所見のほとんどが、典型的な症例とは違う。臨床で出合う疾患は、当然ながら患者ごとに異なり、一つとして同じものはない。
  • 「基礎的な知識はもちろん大前提ですが」と前置きをしつつ、医師の〈直感力〉と〈判断力〉の重要性を語る原田。その〈直感力〉や〈判断力〉を支えるのは、症状などが近い患者を診た経験のように思う。類似の経験があるからこそ、そことの違いに違和感を感じられるし、新たに判断すべきポイントも絞れる。
  • 昨今、高齢化に伴い、さまざまな合併症、複合疾患、生活背景を抱える高齢患者が増加している。そのなかで、オーダーメードの診療を行う医師としての力を養うには、まさに臨床現場で揉まれた経験こそが活きるのではないだろうか。

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