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LINKED plus 病院を知ろう

病院に新しい風を!
研修医たちの野望。

「私たちが病院を盛り上げる」
3人の研修医が若い力で地域医療への貢献をめざす。

西尾市民病院

平成29年4月、西尾市民病院は3名の初期臨床研修医を迎えた。
それから約8カ月、彼らは日々の臨床経験を積むと同時に、
自らが率先して新しい学びの環境づくりに挑戦している。
高い志を持って医師の世界の扉を開けた彼らに、大いなる夢を語ってもらった。

西尾で学びながら、
世界を見据える2人の研修医。

一人目の研修医は、藤原秀之医師。藤原の日課はパソコンに向かい、病院同士を結ぶ双方向通信のネットワークに接続すること。画面に映った検査画像などを見ながら、相手の病院の医師から話を聞いたり、質問したりすることを自分に課している。中継先は、国内はもとより、アメリカ、シンガポール、中国の病院に広がる。「他院の医師の意見を聞くことは、すごく勉強になりますね。西尾にいながら、世界の医療を学べるんです」と鼻息は荒い。この双方向通信システムは、藤原の発案で、数カ月前に導入されたばかり。今のところ、呼吸器病理の領域(体の組織などを調べて、呼吸器疾患の病気の原因などを診断する)に絞り、違う病院の医師と会話できるようになった。「このシステムは教育だけでなく、実際の診療に活かせる可能性も秘めています。難しい症例や治療法について、当院の先生方と他院の先生が意見交換できれば、より的確な治療に繋がります。西尾市にいながら世界と繋がり、そこで得た知見を日々の臨床に活かせると思います」と大きな夢を掲げる。

海外に視野を広げる研修医はもう一人いる。世界に通用する外科医をめざす今瀧裕允医師。「世界中の人々が国境を越えて行き来する時代、これからは日本にとどまらず、世界で認められる力を身につけなくては...」と目線は高い。そのために、今瀧は欧米への留学を目標に掲げる。「知識や技術だけでなく、国によって異なる多様な医療のあり方や考え方を学び、世界水準の医療を持ち帰りたいと考えています」。

ワールドワイドな医療を志向する2人だが、そもそも同院を選んだのはなぜだろうか。藤原は、「人員の揃った有名病院よりも、医師の少ない当院の方が、自分の力を活かせるのではないか」と考えたという。「たとえば、救急外来の第一線で僕たちが働くことによって、上の先生はより重篤な患者さんの治療に専念できます。まだまだ自分のできることは限られていますが、少しでも役立ちたいと考えています」。一方の今瀧は病院をいくつか見学し、同院が一番実践力が身につくと感じたという。「ここは中間層の先生方が少ないので、ベテランの指導医から直接、手技を教わることができます。また、1年目から主治医に近い感覚で診療に携わり、どうすれば患者さんの生活を取り戻せるか、という視点もしっかり学んでいます」と語る。

西尾市民病院で学ぶ魅力の一つは、「医師不足、高齢化など地域医療が抱える問題を肌で感じられることにある」と藤原。今瀧もその意見にうなずく。「この病院で高齢の患者さんとたくさん出会い、これからは生活の質を守る医療、人生を支える医療が主流になると実感しました」(今瀧)。

研修医が先頭に立ち、
西尾市民病院での学びを進化させていく。

診療の最前線で、実践力を鍛える研修医たち。だが、その反面、すべての診療科、医療設備が整っているわけではなく、経験できない症例があることも事実。「救急外来で診た患者さんを、他の病院に紹介せざるを得ないこともあります。うちで診られないのはやっぱり悔しいですね」。そう本音を漏らすのは、3人目の研修医、杉浦美月医師だ。

杉浦は西尾市で生まれ育ったこともあり、同院への思い入れも強い。不足する医師や診療科を補うにはどうすればよいか、入職以来、考えてきたという。「同期の藤原先生、今瀧先生の夢を、何らかの仕組みにしていくのも面白いと思うんです。たとえば、藤原先生が進める双方向通信の活用。院内の各診療科はもちろん、連携する他院ともインターネットで繋がれば、救急外来で判断に迷ったときなども、院内外の専門医に検査画像を送信して、アドバイスを受けられます」と発想を広げる。研修医たちのユニークな提案。そのめざすところは、決して自分一人の成長ではない。「私たちのチャレンジが少しでも、病院運営の手助けになるように。そして、私たちに続く後輩たちにとって、より一層魅力的な学びの環境づくりに繋がればいいなぁと思います」と杉浦は語る。

研修医たちの夢と野望を、同院の禰宜田政隆院長はどう見ているのだろうか。「いやぁ、頼もしい限りです」と笑みをこぼし、次のように続けた。「彼らは、ただ受け身で学ぶだけでなく、地域医療の課題を真摯に見つめ、突破口を探そうとしています。彼らの夢は、ひょっとすると荒唐無稽に見えるかもしれません。でも、個々の高い志を壊すことなく、何らかの形で取り入れていくことが我々の宿題だと考えています」。禰宜田は広い度量で研修医たちの夢を受け止め、そこから新しい刺激を得ることで、山積する病院の課題に立ち向かい、地域医療に貢献していこうとしている。

杉浦は女性の立場から、女医の獲得についても知恵をめぐらせる。「たとえば、当直のときに使える女医専用の仮眠室やラウンジを用意するなど、女性にやさしい環境づくりも効果的だと思います。この2年間のうちに、そういうアイデアをいろいろ育てて、提案していきたいと考えています」。

  • 今回登場した研修医は3人とも、西尾市の「医師確保奨学金制度」を利用しての入職である。これは、市長の公約により創設されたもの。大学または大学院に在籍する医学生に対し、大学生には最長6年間、大学院生には最長4年間、奨学金を貸与。貸与を受けた学生は、医師免許取得後、同院で2年間の臨床研修に勤務し、その後も引き続き勤務することが期待される。また、勤務期間の長さに応じて、奨学金の返還が免除される仕組み。この制度を利用したことで、「安心して勉学に勤しむことができた」と彼らは語る。
  • この奨学金制度の成果もあり、平成30年度も3人の初期臨床研修医が入職する予定だ。若い医師を獲得し、育てることは、地域の医療を守ることに直結する。同院では今後とも、行政や大学と密に連携しながら、医師教育に全力を注いでいく構えだ。

有名な病院にはない
魅力的な学びの環境づくり。

  • 研修内容の充実度は、病院の知名度で判断されがちである。研修先を検討する医学生たちも、「ブランド力のある有名病院が優れている」と考える人が多いかもしれない。しかし、今回取材した3人の研修医たちはみな、西尾市民病院だからこそ学べる医療を求めて入職している。
  • 「現代の日本が抱える地域医療への問題意識、医師が少ないからこそ任される責任感、患者の生活や人生への目線」...それらはいずれも、西尾市民病院だからこそ学べる視点であり、これからの地域医療を背負って立つ医師たちが学ぶべき重要なポイントだ。それに加え、研修医たちは、自らが率先して新しい学びの環境づくりにチャレンジしている。既存の常識に染まらない斬新な発想は、1年目の医師だからこそ生まれるもの。同院は先入観にとらわれることなく、そうした新しい考え方に耳を傾けている。その柔軟で前向きな姿勢が、明日の地域医療を守ることに繋がっていくといえるだろう。

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