LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
患者さんと家族を
帰りたい場所に帰してあげたい。
河合なみ子/
看護副部長 兼 地域包括ケア病棟科長
医療法人済衆館 済衆館病院
済衆館病院の地域包括ケア病棟は、57床。その病棟看護を率いるのが、河合なみ子看護師。
「どんな疾患、どんな生活環境の人でも、帰りたい場所に帰してあげたい」
---河合たちの熱意あふれるサポートが、患者の在宅復帰を一つずつ確実に実現している。
河合なみ子看護師(看護副部長兼地域包括ケア病棟科長)には、忘れられない患者がいるという。それは、済衆館病院に地域包括ケア病棟が開設されて約半年が経過した頃の入院患者。末期の大腸がんを患う80代男性だった。「その方は、下血の症状があり、点滴での栄養補給が必要でしたが、痛みは少なく、座って話せるし、1人でトイレにも行ける状態でした。ご本人は〈家に帰りたい〉という強い希望を持っていたものの、奥様は〈一人では怖くてとても介護できない〉と躊躇しておられました」。点滴の管をつけたまま、自宅に戻っていただくには、何よりも介護する妻の不安を解消しなくてはならない。河合はスタッフたちと検討を重ね、法人内の訪問看護ステーションに相談し、点滴の管理を依頼。さらに担当看護師を中心に、妻が介助で困らないように、何かあったときの対処方法を細かく記した〈オリジナルの介護ガイド〉を手作りで用意した。
「頑張ってみようか」。河合たちの熱意に背中を押され、妻は自宅での介護を決意。河合たちは在宅医療・介護チームと綿密に打ち合わせを行った上で、患者を自宅へ送り出した。それから約2週間、この男性は自宅で妻と一緒に穏やかな日々を過ごした。住み慣れたわが家で、気ままに過ごせる日々は、ふたりにとってかけがえのない時間だっただろう。その後、男性は病状が悪化し、再入院になったが、「短い間でも、家に帰れて本当に良かった」と、本人も妻も大変喜んでくれたという。河合は言う。「私たちの使命は、患者さんを帰りたい場所に帰してあげること。それを再確認できる貴重な体験でした。あきらめることなく、ご本人の希望を叶えることができ、スタッフ全員で大きな達成感を味わいました」。
地域包括ケア病棟は急性期の治療を終えた患者を受け入れ、60日間以内に在宅復帰をめざすための病棟。期限が決まっているので、スタッフも患者・家族も明確な目的意識のもと、退院に向けて努力しやすい。もちろん、全員が家に戻れるわけではなく、施設や療養病棟へ移るケースもあるが、それでも河合はできる限り希望に沿う道筋を模索する。「退院後の生活の鍵を握るのが、ご家族の気持ちです。スタッフには、愚痴も含めてご家族の話をよく聞いて、心の奥底にある思いを引き出し、ご家族を巻き込みながら退院計画を立てるよう指導しています」。
地域包括ケア病棟が東館3階に整備されたのは、平成28年10月。河合はその立ち上げから関わってきた。「最初は、地域包括ケアって何?というところから勉強を始めました。ベッド運用や退院調整の仕方などを学び、自分でスタッフ向けの病棟マニュアルも作りました」と振り返る。一番大変だったのは、スタッフの意識を高めることだった。急性期病棟の経験が長い看護師のなかには、「ここでは何を目指せばいいのだろう」と困惑し、モチベーションが低下する者もいたのだ。地域包括ケア病棟に入ってくる患者の疾患は、肺炎や尿路感染症など実にさまざま。それに加えて、全身状態の程度、生活環境や社会的背景も一人ひとり異なる。「なんでも屋のようなイメージがあって、自分たちのアイデンティティを持ちにくい状況でした。でも、超高齢社会において重要な病棟であることは間違いない。そんなふうに自分に言い聞かせつつ、スタッフにも伝え続けました」(河合)。
当初は困惑していたスタッフも、冒頭のような、患者の希望を叶える体験を一つ、また一つと重ねるうちに、徐々に表情が輝き出したという。「患者さんの行き先を第一に考え、ご家族からも積極的に情報を集め、法人内サービスとも連携して...という風に意識改革が進みました。また、病棟では患者さんの症状が急変することもありますが、急性期看護の経験を活かし、細かい観察・対応をしてもらえるので安心です」と河合。今後の目標はどんなことだろう。「なんでも屋という包容力を、自分たちのプライドにできる病棟にしたい。疾患、生活背景などを含め、さまざまな患者さんをしっかり受け止め、それぞれが帰りたい場所に帰すことができる。そのことに誇りを持てるプロフェッショナル集団になっていきたいですね」。河合は明るい笑顔でしめくくった。
河合は常に患者を〈主語〉にして考え、行動する。今は管理職となり、直接ケアする機会は少ないが、「爪が伸びていればすぐ切ってあげたいし、眉毛が伸びていれば、整えてあげたい。話したいことがあれば、仕事の手を止めて話を聞きたい」という。どんなに忙しいときも〈患者への優しさ〉を優先する姿勢が、スタッフたちのお手本になっている。
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