LINKED plus

LINKED plus 病院を知ろう

伝統の救急医療、
新たな飛躍に挑む。

診療科の横の連携を強め、
機動力に満ちた救命救急センターへ。

地方独立行政法人
岐阜県総合医療センター

岐阜県総合医療センターの救命救急センターの歴史は古い。
昭和58年、岐阜県初の救命救急センターを開設以来、
断らない救急医療(ER型救急)をめざし、地域医療を守り続けてきた。
年間の救急搬送数は5950件、救急外来の受診者は3万1022人にのぼる(平成28年実績)。
その歴史ある救命救急センターが今、新たな進化を求め、動き出した。

新しく救命救急センター長を迎え、
改革を始動。

平成29年12月、豊田 泉医師が岐阜県総合医療センターの救命救急センター長(救急科部長)として赴任してきた。豊田はもともと大学病院で脳神経外科医として勤務していたが、救命救急センターへの異動を契機に、救急医療に深く傾倒。大学病院でICU型救急(※1)、民間病院でER型救急(※2)を経験。ドクターヘリに搭乗した経験も豊富に持ち、岐阜県ドクターヘリの導入にも尽力した、救命救急のプロフェッショナルだ。

同センターへの赴任は、前々から打診が合った話だという。「長年、培ってきた、救急の最前線でチーム医療をコーディネートする力をここで発揮しよう、と思って入職しました」と話す。それから3カ月余りが経った。「これまでは、言わば助走段階で、現場の課題を見つけることに注力しました。これからマニュアルづくりを含め、救命救急センターの新体制を構築していこうと考えています」と豊田。

※1 主に重症患者を対象に、集中治療を行う。 ※2 すべての救急患者を受け入れ、救急初期診療を行う。

新体制の方向性とは...。「一言で言えば、スピードアップです。このセンターでは、精神科疾患を除くすべての救急疾患を対象に、断らないER型救急を実践しています。救急担当医や研修医が中心になって初期診療を行い、より専門的な医療が必要と判断した場合、しかるべき診療科に連絡し、専門医の到着を待ちます。その待ち時間がもったいないと思うんです。たとえば、必要な検査や処置など、疾患ごとに救急外来で行うべきことを決めておけば、より早くスムーズに患者さんを適切な専門医療に繋ぐことができるのではないかと考えています」。

豊田が進めようとする改革と並んで、救命救急センターでは入院機能も拡充した。従来のICUからスーパーICU(より重症度が高い患者に対応できる特定集中治療室)へ設備のレベルを引き上げ、ベッド数も4床から8床へ増やしたのだ。スーパーICUの担当医の一人、山本拓巳医師(麻酔科部長)は次のように話す。「ここでは、高度な医療機器を扱う臨床工学技士が24時間常駐するなど、最新鋭の体制を整えています。この環境を活かし、今まで以上に精密なモニタリングをして、異変を見逃さないことが重要だと考えています。スタッフ教育にも力を入れ、集中治療の質の向上をめざしています」。

「当センターは、救急症例数が圧倒的に多い。ですから、患者さんのファーストタッチを担う研修医はものすごく鍛えられます。最初に研修医を見たときは、<1年目なのに、ここまでできるのか>と驚かされたほど。優秀でモチベーションの高い研修医たちが、当センターを支えています」と豊田は言う。

診療科同士を横軸で結び、
救急医療の強化を。

豊田が新体制をめざす根底には、「救急医療のチーム力を伸ばしたい」という思いがある。「この病院は、年間約6000件もの救急搬送を受け入れ、非常に優れた救急医療を行っています。ただ一つ、課題があるとすれば、それは診療科の横の繋がりだと思うんです。各診療科はそれぞれ縦割りで卓越の診療レベルを誇っているため、救急患者さんの診断や集中治療を各診療科に任せる傾向があります。そのやり方に風穴をあけたいのです」(豊田)。もちろん、複数科にまたがる重症症例などでは、診療科同士が密に連携して治療している。そうした連携を救急科を含めた全診療科に広げることで、あらゆる救急の傷病にスムーズに対応する柔軟な組織にしようとしているのだ。

豊田の提案に、山本も賛同する。「横の連携を強めるという意味では、スーパーICUは非常に良い<場>になると思います。ここに、いろんな診療科の医師が出入りし、自由にディスカッションできるような風土が作れれば、自然と横の繋がりも強まっていくのではないでしょうか」。

より柔軟な組織をイメージして、動き出した救命救急センター。豊田に将来的なビジョンを聞いた。「力を入れたいのは、医師の育成です。最終的には臓器別専門医をめざしつつ、救急科や集中治療の専門医資格も取ろうという医師を育てていきたい。救急、集中治療に目を向けてくれる医師を増やすことで、最終的には救急医療の質の向上をめざしていきます」。豊田がいう救急医療の質とは、何を指しているのだろうか。「それは、患者さんの予後(治療後の回復の見通し)でしか証明できないと思います。当センターで命が救われるだけでなく、早期に回復して、社会復帰できる。そんな患者さんを一人でも多く増やすために、機動力とスピード感のある救命救急センターを創造していきます」。豊田は明るい口調で決意を語った。

スーパーICUは稼動して3カ月余。その将来について、山本は思いをめぐらす。「今は各診療科に治療を任せていますが、ゆくゆくは私たち担当医が、呼吸、循環、感染、栄養といった基礎的な領域を担っていきたい。それによって主治医の負担を減らしつつ、集中治療のレベルを高めていきたいですね」。

  • 岐阜県随一の実力を備えた救命救急センター。同センターは、医師教育の場としても重要な意味を持つ。子どもから高齢者まで、一次救急から三次救急まで、ありとあらゆる症例が集まる救命救急の最前線。研修医たちはここで、指導医、上級医からアドバイスを受けながら、救急患者のファーストタッチ(初期診療)を行い、治療の優先順位をつけ、各診療科に患者を繋ぐところまでを担う。研修医一人あたりの救急初療症例数の目安は、1000例。その数字に達すると、救急医療において一定のレベルに達したと評価されるという。
  • 豊田センター長による改革が進めば、救急外来で果たすべき研修医の役割はさらに大きくなるだろう。研修医たちはここで、軽症に潜む重症を見逃さない能力、どのような状況にも対応できる知識と技術、各診療科の専門医と対話できる力を学び、真の実力を備えた医師に育っていく。

命を救うだけでなく、
社会復帰まで見つめて。

  • 豊田センター長が改革を進める救命救急センターは、単に救命だけを目的にしているのではない。〈救急医療の質は、患者の予後の改善にある〉という考え方のもと、救命の先に、早期退院や社会復帰率の向上まで視野に入れ、今まで以上にレベルの高い救急医療を実践しようとしている。具体的には、同センターに搬送された重篤な患者に対し、1分1秒でも早く必要な医療を提供し、専門医にバトンを渡すことで、合併症を起こすこともなく、早期退院に繋げるような医療の実践をめざしている。
  • 超高齢化の進展に伴い、地域の医療は従来の<治す医療>から、治し支える医療>へのシフトが進められている。同センターの考え方は、まさに時代の流れに合致しているといえるだろう。救命救急という医療の入口の段階から、患者一人ひとりの退院後の人生を守り、支えていこうとしている。

Copyright © PROJECT LINKED LLC.
All Rights Reserved.