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広域で支えるセーフティ
ネットを見つめて。

西尾市民病院が考える、〈ずっと安心〉のために、
この地域で必要な医療。

西尾市民病院

「目的は地域包括医療の構築です」と院長の禰宜田政隆医師は言う。
西尾市の乏しい医療状況を抱えながらも、西尾市17万人を支え、
守り続けてきた西尾市民病院。時代とともに医療のあり方が大きく
変わろうとする今、地域全体を見つめた医療構築への模索は続く。

限られたスタッフで、
必要不可欠な医療提供。

―今日の医療改革は、中規模病院にとって非常に厳しい状況と考えられますが、貴院においてはいかがですか?
禰宜田 もちろん例外ではなく厳しいですね。

―まず、その背景から教えてください。
禰宜田 西尾市は、人口が減少するなか、生産年齢(15歳から64歳)比率が低下し、高齢者(65歳以上)比率が高まるという、全国各地の郊外部の典型的な形になっています。また、医療面では病院数も、診療所数も、人口10万人あたりで見ると、全国平均を大きく下回っています。医療従事者は、医師数一つとっても、全国平均より大幅に少ない。つまり医療資源が非常に乏しい、これが西尾市の状況です。

西尾市の医療資源

―貴院の現状はいかがでしょうか?
禰宜田 今お話ししたとおり、医療資源が少ないため、一刻を争う事態に対応する二次救急病院、そして、診療所が少ないぶん、軽症の救急患者にも対応する病院であることも求められます。また、高齢者は複合疾患を抱えることが多くあり、そのためには総合的な診療科や診療リソースが整っていなければなりません。二次救急とコモンディジーズ(地域に頻回に発生する一般的な病気)への対応、これは地域の拠点病院、すなわち当院に課せられた使命であると考え、守り続けてきました。
ただ、経営面はなかなか厳しい。例えば、入院治療の場合、生産年齢の方は短い日数で退院できますが、高齢者の方々はそうはいきません。国から入院日数の短縮化が求められ、日数に対して診療報酬が紐づいている現在、高い収益を上げることは難しくなっています。また、医師不足解消のために、大学には医師供給をお願いしていますが、今日の医療制度の絡みもあり、一部、医師の供給が充分ではない事態に陥っています。

―限られたスタッフ数で、決して効率がよいとはいえない医療提供を続けているという状況ですね。地域からの支援はないのですか?
禰宜田 今まで、とても助けていただいてきました。ただ、今後、必要となる医療を考えたときに、これまで以上の支援をお願いすることができるのかどうかは、なかなか難しい状況にあると思います。その一方で、当院のスタッフは本当に頑張ってくれています。だが疲弊感は否めない。さまざまな面で、とても厳しい状況に当院は追い込まれていると言わざるを得ません。

病院も、診療所も、そして、医療従事者も、全国平均より大幅に少ない西尾市。限られた医療リソースを、いかに有効に活用するか。もはや一つの病院単独ではなく、広域圏での再編という、これまでとは異なる発想で、医療を、地域を、生活を、見つめる目が不可欠である。

広域圏での医療再編等、
大胆な発想の転換。

―超高齢社会となり、医療の中心を病院から在宅に移し、悪くなったときだけ病院に入院するという、「ときどき入院、ほぼ在宅」という時代になりました。今後、貴院の役割にも変化はありますか。
禰宜田 もちろんです。地域包括医療の構築、つまり、地域のセーフティネットをいかに作るかという視点で、自院のあり方を考えなくてはなりません。

―具体的にはどのようなことですか。
禰宜田 高度急性期医療は、三次救急病院と協力し、当院は二次救急とコモンディジーズに対応する。在宅支援機能として地域包括ケア病棟を活用し、急性期治療を終えた患者さん、また、在宅療養で急性増悪した方を受け入れる。そして何より大事なのは、在宅医療を担う診療所や施設で頑張る方々をサポートする。つまりは、「ときどき入院」の患者さんを、自院を含め必要な医療に適切に繋ぐとともに、「ほぼ在宅」の方が、安心して療養生活を送ることができる環境を整備することですね。

―貴院だけの問題ではなく、広域医療圏の再編が必要ということですか。
禰宜田 現在の医療制度は、診療報酬体制一つとっても、地域の拠点病院を守るように設計されていません。また、人材の供給体制も、地域のニーズと供給の仕組みが一致しているわけでもない。となると、一つひとつの病院が単独ではなく、広域圏で医療機能をどう再編、再配置し、それをどう結合していくかが重要かと考えます。

―課題はありますか。
禰宜田 職員の意識です。経営的指標だけを見ると、当院はだめな病院だと思うかもしれない。しかし、救急をはじめ、実際に自分たちがこの地域のために行っていることは、すばらしいことなんです。胸を張ってほしいですね。ただ、時代が変わり医療が変わったことは、理解しなければいけません。そのなかで自分たちもどう変わっていくかを、真剣に考えてほしいと思います。

禰宜田は言う。「当院のスタッフは、本当に頑張っています。だからこそ、意識改革が必要です。自らを、地域全体のリソースであるという高い目線を持つこと。新たな時代において、医療と生活を繋ぐ機能構築に、全員で取り組むこと。それが明日へと繋がります」。

  • 西尾市民病院は、平成27年4月、地域包括ケア病棟(44床)を開設。翌年には40床増設し、現在は84床を有している。
  • この病棟は、急性期治療を経過した患者、および、在宅療養中に急性増悪した患者を受け入れ、在宅復帰支援を行うのが目的である。入院期間は最長60日。その間には、医学的な治療、看護、リハビリテーションを行うなか、主治医、看護師、リハビリテーションスタッフ、MSW(医療福祉相談員)など多職種が関わり、患者とその家族とともに、退院準備、退院後の療養環境の整備のための支援を行う。
  • 開設当時は、自院の急性期治療後の患者が中心であったが、今後は、在宅療養中の患者受け入れも積極的に行い、院長の禰宜田が語る「地域のセーフティネット」の一つとして、患者や家族など、地域住民はもちろん、在宅医療を担う地域の診療所や介護施設事業所にとっても、安心の医療提供に力を注いでいく考えにある。

苦境に陥る自治体病院に、
地域住民は何ができるか。

  • 本文で禰宜田院長が言うように、今日の医療改革は、地域の拠点病院をいかに守るかという発想では設計されていない。また、医師の供給元である大学病院もまた、医療改革の波を受け、一つひとつの地域の事情を考えた医師供給が難しくなっている。
  • 西尾市民病院以外にも、こうした現実に直面する自治体病院は多く、苦境に陥っている。
  • そうしたなかには、複数の病院を統合し、新たな拠点病院を開設する地域もある。だが実際には、新しい病院をどの市に置くか、給与基準はどうするかなど、現実的な問題も横たわる。
  • 苦境のなかでも、二次救急とコモンディジーズへの対応、超高齢社会での新たなセーフティネット構築を大命題として模索を続ける病院にとって、最も強い味方となるのは地域住民だ。「私たちの病院」を存続させるためにも、病院を取り巻く問題への理解が重要といえよう。

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