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LINKED plus シアワセをつなぐ仕事

総合診療力で、
〈医療の質〉を守る。

ICUに留まらず、
病院だけに留まらず、
地域にまで目を向ける。

宮部浩道/集中治療専門医
社会医療法人 大雄会 総合大雄会病院

全身を総合的に診る内科医としての拘りを持ち、患者の必要に合わせ、
院内のさまざまなプロを束ねるコーディネーター。
それが集中治療科診療部長の宮部浩道医師。
ICU(集中治療室)を主戦場に、
「みんなが仕事をしやすい環境を作るだけ」と言いつつ、医療の質を守り続ける。

24時間体制のICU。
必要なのは、総合診療力とコーディネート力。

愛知県一宮市にある総合大雄会病院の救命救急センターには、さまざまな患者が搬送される。いずれの患者にも、救急科医師による緊急処置がなされ、重篤な症状の場合はICU(集中治療室)で治療を続ける。

ICUを仕切るのは、集中治療科診療部長の宮部浩道医師だ。宮部は、「ICUは、大きく分けて三つの役割を持ちます」と言う。一つは、救命救急センターのバックベッド。「センターで命を繋いだあと、まだ安定しない症状を診つつ、隠れている病気を含めて全身管理をします」。二つには、診療科を問わず、手術を受けた患者の術後管理。「短時間に急変する可能性を持つ、手術後の患者さんの状態管理を行います」。三つには、入院患者の急性増悪への対応。「全身の状態管理のもと、刻々と変化する容態に逐次適切な治療を実施します」。

重篤な急性機能不全患者を24時間体制で管理し、より効果的な治療を提供するICU。宮部は麻酔科の医師とともに診療を担うが、ICUの医師に求められる能力とは何だろうか。宮部は言う。「一つひとつの臓器、疾患に対しての高い専門性ではなく、病態学的な理解をもとに全臓器の管理を行う力。そして、複合疾患や合併症なども見逃さず、優先される治療は何かを判断する力。つまり総合診療力ですね」と言い、「加えて」と言葉を続ける。「ICUは、一時預かりの病棟です。自分がずっと診るわけではなく、この患者さんにはどの領域の医師が必要か、また、どういったメディカルスタッフが必要かを考え、それら専門職を集めてチームを作り、ICUを出たあとの治療体制を固める。そのコーディネート能力も必要です。あとは、いざというときの瞬発力でしょうか」。

宮部の言う総合診療力。これは同院にとって貴重な能力だ。なぜなら、高度急性期病院は、臓器別・疾患別の専門医集団である。彼らは極めて高度な力を有するが、専門と専門の間にどうしても狭間が生じる。また、高い専門性で病気は治すが、その過程で、例えば、栄養状態、運動機能をはじめ、生命維持の基本となる部分、そこへの視点が弱くなることもある。それをカバーし、各専門職を集めるのが宮部だ。「そのサポート力を厚くすれば、専門医は自由に動けますからね」。

そうした能力をもとに、宮部はICUの外にも活動を広げる。その一つが、呼吸ケアサポートチーム。専任医師として、看護師・理学療法士らと組み、呼吸に問題のある入院患者に最良のケアの提供に努める。

院内救急対応、医療安全、
そして、臨床倫理、合意形成。
すべては医療の質を守るために。

宮部は、医学部に入るときから、〈火事場に強い内科医〉をめざしてきた。医学の基礎である内科において、全身をきちんと診る能力を持ち、患者の状態が極めて悪いときにも確実に対応する医師である。内科の〈火事場〉として循環器内科を選び研鑽を重ねるなか、心臓以外の臓器もきちんと診る力を持ちたいと、ICUに関わりを持つ。そこで経験を積むにつれ、世界水準の集中治療を身につける必要を感じ、専門的に学べる大学病院の門を叩く。「専門は集中治療となりますが、自分自身は、総合診療ができる内科医として集中治療を行っています」と宮部は言う。

その宮部には、ICUの高度化はもちろん、それ以外にも注力することがある。まずは、ラピッドレスポンスシステム(院内救急対応システム)の整備。看護師を中心に、状態が〈いつもと違う〉患者をいち早く発見し、院内救急対応チームに連絡。早期に治療を行うことで、致死性の高い急変に至ることを未然に防ぐものだ。そして、医療安全。ICUに限らず院内全体で、患者が安心して安全な医療を受けられる環境整備を図る。

さらに、臨床倫理コンサルテーションがある。「終末期をどう迎えるか。ご家族も医療者も悩むときがあります。結論が出にくいとき、個々の思いの整理をお手伝いして、意思決定ができるようにサポートします」。また、地域との合意形成にも目を向ける。「時期尚早の死には全力で闘います。でも一方で、然るべき死があることも事実です。そのとき、患者さんの意思に沿って、きちんと看取るのも医療者の役割。高齢者を地域で看る時代の今、どこまで治療するか、最期をどこで迎えるかなど、院内はもちろん、地域の医療機関や介護施設と当院とが、同じ考えを持つことが必要です」と宮部は言う。

宮部のこうした活動の原点は、〈火事場に強い内科医〉のなかにある。彼の総合診療力は、今では〈医療の質〉を守る総合力へと変化しつつある。

宮部浩道医師は言う。「どんな状態で病院に来ても、歩いて帰れる人は、歩いて帰す。そのためには、当たり前のことを当たり前にやる。それが集中治療医の原則です」。そうした思いが、ICUから病院全体へ、病院から地域へと視野を広げ、医療の本質を問い続けている。

  • 木を見て森を見ず、という言葉がある。集中治療の観点からいうと、まさに森を見つめなくてはならない。だが、「木を見ることも必要です」と宮部は言う。「森を見るために、木を一本ずつ見なければならないときがあります。臓器一つひとつを分解して、それぞれの状況を把握する。その上で病気全体がこうだ、という診方ですね。各臓器の専門医とはまた別のアプローチです」。
  • そうした視点を持つ集中治療専門医の宮部と、6名の麻酔科医によって、ICUは24時間の管理体制にある。
  • 「麻酔科の医師は、まさに全身管理のプロです。呼吸、循環など生命に直結する部分の管理は、僕よりずっと力がある。患者さんを専門医にきちんと繋ぐ、つまりコーディネートするまでの間、麻酔科医が病状を完全にコントロールしてくれます。内科の目線の集中治療医である僕と麻酔科医がいる。それをメディカルスタッフがしっかりサポートしている。これが当院ICUの特徴であり、大きな武器ですね」。

ときには医療者が立ち止まり、
本当に必要な医療を考えることの大切さ。

  • 高齢患者が増え続けるなか、専門医療と専門医療の狭間を埋め、医療者と患者の狭間を埋める宮部医師の存在は、高度急性期病院では貴重である。なぜなら、高齢患者は主疾患だけでなく、複合的に病気を抱えるケースが多く、一つの臓器だけ診ていては完全といえないからだ。
  • また、彼に医療倫理への目線があることも大きい。超高齢社会は多死社会である。昨今では「どう死ぬか」を考える傾向が強まり、終末期において、どこまで治療を続けるかの決定が、個人に問われている。
  • そうした個人の意思決定が必要である一方、「医療者側がときに立ち止まり、本当にこの医療を提供するのは、患者さんのためなの?と考えることも大切」と宮部は言う。「医療が進化を続ける今日だからこそ、必要なのです。単に治せばよいというものではなく、そこまで視野を広げることが、地域に必要な医療の質を担保することではないでしょうか」。
  • 宮部の言葉は、超高齢社会の地域医療のあり方を示しているといえよう。

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