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LINKED plus 病院を知ろう

生活を守るための
高度医療を追求する。

待望の新棟を建設中。
生活への目線を大切に、
最先端の医療を提供。

一宮市立市民病院

昭和11年、一宮市診療所として開設。長い歴史のなかで、
地域の信頼を一身に受けながら大きく成長してきたのが一宮市立市民病院である。
病床数は580床。循環器診療を〈看板〉の一つとし、
三次救急を担う基幹病院として発展を続ける同院の今と未来を見つめた。

悲願だった手術機能と
がん診療機能の強化。

一宮市立市民病院にとって、待望の新棟が平成30年10月に稼動する。新棟に寄せる思いについて、同院の松浦昭雄院長に聞いた。「当院は平成22年、愛知県立循環器呼吸器病センターと統合し、心臓血管外科、循環器内科、血管外科が増え、結核病棟も移設されましたが、当時、それらの診療機能に対応できるスペースがなかったんです。そのため、既存の空間に無理矢理、新しい診療科と病棟を押し込んだ、という経緯があります。新棟ができ、患者さんにご不便をおかけしていた動線などの問題も解決できます」と笑みをこぼす。

この新棟増築により、診療機能も大きく向上する。「一つは、手術機能の充実です。カテーテルを用いた血管内治療をスムーズに行えるように、心臓カテーテル検査室を増やすとともに、ハイブリッド手術室(手術室とカテーテル検査室の機能を兼ね備えた空間)を新設。さらに、前立腺がんなどの治療に用いる、手術支援ロボット・ダヴィンチを導入し、専用の手術室も完備します」(松浦)。

こうした手術室の充実の狙いは何だろうか。「体に負担の少ない低侵襲手術を強化することです。というのも、近年、地域の高齢化が進んでいます。たとえば、高齢患者さんは大動脈瘤になっても、体に負担のかかる開胸・開腹手術は難しい。カテーテル治療であれば、術後の経過も良く速やかに回復できます。それは、ダヴィンチを用いた手術も同様で、小さな傷口で治療するので体への負担が少なく、高齢患者さんにもスムーズに元の生活に戻っていただくことができます」と松浦は説明する。

また、新棟ではがん診療も拡充される。新たに緩和ケア病棟と外来化学療法を中心としたフロアが作られ、地域がん診療連携拠点病院として必要な機能が一挙にそろう。「緩和ケア病棟では、在宅で療養中のがん患者さんを一時的に受け入れ、痛みをコントロールしていきたい。がんとともに生活する地域の人々を、きめ細かく支えていこうと考えています」と、松浦は言う。低侵襲の手術機能と、がん患者の支援機能。これらが示すのは、同院が単に最先端の医療を志向しているのではない、ということだ。あくまでも、地域で暮らす患者の生活を守ることをゴールに据え、これからの時代に必要な医療の高度化を進めていく計画だ。

心臓血管外科医である松浦が医学部卒業後に研修したのは、消化器外科だった。「当時はがんの周辺まで広範囲に切除する治療が主流で、患者さんは衰弱し、退院しても元の生活に戻れませんでした。こんな医療でいいのか。そのときの疑問や悔しさが原点にあります。だから今、地域の先頭に立ち、治療の低侵襲化を推進しています」(松浦)。

コミュニケーションを
何よりも大切に
〈いい病院〉をめざす。

長年の悲願だったハード面の拡充が、ようやくこの秋に実現するが、松浦は「ハードを整えるだけでは、理想の病院づくりはできません。ソフト面、すなわち、職員の意識も一緒に高めていかねばなりません」と表情を引き締める。職員の意識を高める上で、松浦が重要視していることは何だろうか。「一番大切にしているのは、職員間のコミュニケーションです。当院は8年前に2つの病院が統合し、文化の異なる2つの組織が一緒にやってきました。その歴史があるからこそ、院内の意思疎通を高めるよう常に心がけています。医師、看護師、コメディカルスタッフ、事務方...と、みんながよく話し合い、同じ方向を向いて協力していくことで、はじめて患者さんにより良い医療を提供できると考えています」。

コミュニケーション重視の組織づくりの延長線上に、松浦はこの夏、病院の改善に向けて多職種プロジェクトをいくつか立ち上げる計画を持つ。「地域医療が、地域完結型医療へと転換するなか、病院はどんどん変わらなければなりません。たとえば、入院日数を短縮化するには、どうすればよいのか...など。課題ごとに、現場の職員に、解決策を話し合ってもらおうと考えています」。では、その先に松浦がめざすのは、どんな病院だろうか。「一言で言えば〈いい病院〉ですね。いい医療を提供して、患者さんに安心してもらって、地域から信頼される病院。職員たちも、自分や家族が病気になったらここで治療を受けたいと思えるような病院をめざしていきたい。職員にはいつもそう話しています」。新棟の建設も、〈いい病院〉への新たな一歩だという。「低侵襲の手術機能とがん診療機能という、この地域に必要不可欠な医療を提供し、地域の病院、診療所との連携に力を入れながら、当院は基幹病院としての責務を全うしていきたいと思います」。松浦はまっすぐ未来を見つめ、そう締めくくった。

一宮市立市民病院は、三次救急に対応する尾張西部医療圏の基幹病院である。救急患者数は年間3万人近く、救急搬送数は6000台以上で、これは尾張西部医療圏の全救急搬送数の約4割を占める。新棟を整備して診療機能を高めることで、同院はさらに地域の救命救急センターとしての使命を果たしていく。

  • 一宮市立市民病院では、新棟の建設を機に、医師や看護師などのシミュレーション教育の充実にも乗り出す。具体的には、ICU(集中治療室)の新棟移転によって空いたスペースを利用して、医学生や研修医、看護師たちのためのシミュレーションセンターを開設する。ここでは専用の機材を用いて、中心静脈にカテーテルを挿入する手技などを繰り返し訓練することができるようにする。将来的には、その訓練を受けて院内の資格を得た医師でないと、実際の手技ができないような厳格なルールを作っていく方針だ。
  • 「地域の基幹病院として、若い人の教育に力を注ぐことがとても重要だと考えています。医師や看護師を含め、当院で学ぼうという人を積極的に受け入れ、最先端の知識と技術を指導していく。地域の医療人教育のセンターとしての役割を担っていきたいと思います」と松浦院長は意欲を燃やしている。

超高齢社会において
基幹病院が果たす役割とは。

  • 一宮市立市民病院を取材して見えてきたのは、高度急性期を担う基幹病院であったとしても、単純に〈治す医療〉だけを追求する時代ではない、ということだ。高齢患者に対しては、体の負担をできる限り少なくする手術で、術後のQOL(生活の質)を守っていく。がん診療では、治療だけでなく、緩和ケアまでカバーすることによって、がんと共に生活する人を支援するなど、常に生活を支える目線が根幹に存在する。
  • また、患者の生活を支えるには、一つの病院だけでは完結しない。そのため、同院は地域の病院、診療所との連携にも力を注いできた。平成28年度の紹介率(診療所などの紹介で受診した患者の割合)は67・8%、逆紹介率(退院する患者を病院や診療所に紹介する割合)は96・6%に達している。地域の医療機関と共に、同院は超高齢社会の地域医療を支えていく。

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