LINKED plus

LINKED plus 病院を知ろう

透析とともに
「生きる」を支える。

透析を続けながら社会復帰できるように
最適な透析療法を提供。

春日井市民病院

春日井市民病院では、25床の透析センターを備え、急性腎不全で運ばれてきた患者、
新規透析導入患者、合併症による入院治療が必要な患者に対し、透析治療を行っている。
平成29年度の新規透析導入患者数は125名。
腎機能の低下で透析を余儀なくされた患者たちと向き合う、医師と看護師の姿を探った。

一般的な透析の他、
在宅での透析療法も強力にサポート。

「透析に抵抗のある患者さんでも、やってみると体の倦怠感が取れて楽になった、もっと早くやればよかったとおっしゃいます」。そう話すのは、春日井市民病院の腎臓内科部長兼透析センター部長の坂 洋祐医師である。透析療法は、ろ過・排泄機能を失った腎臓の代わりに、血液中の老廃物や余分な水分を人工的に取り除く療法。同院では、地域を代表する透析センターを有する病院として、透析治療を新規導入する患者に適切な治療を提案している。その際に心がけているのは、どんなことだろう。「患者さんに適した治療法を選んでもらうことですね。最も多いのは、病院や透析施設で行う血液透析ですが、在宅で透析を受ける方法もあります。その一つが、お腹の中にある腹膜の機能を利用して血液をろ過する〈腹膜透析〉で、他にも、自宅に透析機器を設置し血液透析を行う〈在宅血液透析〉があります。在宅血液透析は比較的新しい治療法で、県内でも行っている病院は数えるほどしかありません。透析の患者さんは若い方から高齢の方まで幅広くいらっしゃいます。多様なニーズに応えるよう、すべての選択肢を提供することが、当院の役目だと考えています」と坂は話す。

在宅での透析療法は頻繁に通院する必要がなく、自分の生活スタイルに合わせて治療できるメリットがある。但し、医師のいない自宅で治療するリスクも大きい。そこで、同院では、在宅で安心して透析治療を受けられるように、万全のバックアップ体制を敷いている。腹膜透析をしている患者に対しては、看護師による〈腹膜透析外来〉を開設し、悩みや相談にきめ細かく応えている。外来を担当する鈴木美和子看護師(主査)に話を聞いた。「腹膜透析では月1〜2回の通院時に、患者さんが不安なく透析を行うことができているか、体調はどうか、食事はとれているかなどを確認し、生活指導などを行います。また、血液透析をされている患者さんでは、体重や血液検査をして、データを見ながら、効率よくできているか確認します。とくに注意するのは、体重の増加ですね。体重が増えると透析中に急に血圧が低下し、心臓への負担も増えます。体重の増加が多い方には、食生活の改善などを細かく助言しています」。また、在宅血液透析をする患者に対しては、同院の臨床工学技士が重要なサポート役を務める。臨床工学技士が導入前から透析機器の扱い方を指導し、導入時には、患者の自宅に出向いて透析機器をセッティング。さらにその後も、万一、機械の不具合が起きたときは、24時間いつでも駆けつける体制を整えている。

「在宅での透析は危険と隣り合わせです。だからこそ、院内外の多職種が密に連携します。透析センターや退院調整の看護師、医療連携室のスタッフ、臨床工学技士、在宅医療を担う訪問看護師などが何度も話し合い、入念に準備をして、ご本人、ご家族が安心して自宅に戻れるよう支えています」(鈴木)。

地域医療連携を緊密に
地域全体で透析患者を支えていく。

同院が在宅での透析治療を進める理由の一つは、「患者さんの社会復帰を第一に考えているから」だと坂は言う。「残念ながら、透析は腎臓を治す治療ではないんですね。一時的でも腎不全を治すには、腎移植しか方法がないのが現実です。当院では、生体腎移植を希望される場合は連携先の病院にしっかり繋いでいますが、そうでない場合は、透析を続けながら社会復帰をめざすことが大きな目標になります。若い方であれば、在宅での透析の方が仕事しやすい場合もあるでしょうし、高齢の方でも自宅の方が楽に暮らせるかもしれません。透析とともに生きる人に、満足のいく生活を送っていただきたい、というのが私たちの一番の願いです」(坂)。

透析とともに生きる人を支えるために、同院では地域との連携にも力を注いでいる。「大事なパイプの一つは、地域の透析施設です。当院で新規透析導入し、安定した方は透析施設に紹介しています。反対に、透析施設に通っていた方が、心臓病や肺炎などの他の病気で当院に入院された場合、当院で透析を受けていただいています」と坂は説明する。また、在宅での透析治療を支えるために、地域の看護師との連携にも力を注ぐ。同院では、ICTを活用した〈春日井さくらネットワーク〉を運用しており、同院の看護師と訪問看護師の間で情報共有を進めているのだ。「たとえば、在宅で不安なことがあり、画像を送ってもらうこともありますし、腹膜透析外来の受診後は必ず、訪問看護師さんに結果を報告しています。訪問看護師さんと私たちが一緒に支えることで、患者さんの安心にも繋がっていると思います」と鈴木は話す。この他同院では、在宅医療に関わる人を対象にした腹膜透析研修会を行い、腹膜透析の手技の指導にも力を注ぐ。在宅で透析を続ける患者は今後さらに増えるだろう。同院はこれからも、地域医療連携を推し進め、地域全体で透析患者を支えていく構えだ。

「腎臓の病気を患う人は、全身疾患が背景にあることがほとんどなんです。当院に入院される透析患者さんの多くは、心臓病、肺炎などを発症しておられます。透析センターでは院内のさまざまな診療科と緊密に連携し、透析患者さんが安全に主疾患の治療を受けられるよう支えています」(坂)。

  • 春日井市民病院の腎臓内科は、常勤医師8名、非常勤医師1名の合計9名体制。県内でも指折りの充実した診療体制を備えている。この体制が構築された契機は、腎臓病・糖尿病の専門医である渡邊有三(現院長)が平成9年、同院に赴任したことにさかのぼる。当時、同院の周辺に糖尿病や腎臓病を専門とする医師が少なかったことから、渡邊は糖尿病と腎臓病への造詣が深い医師2人を引き連れて赴任し、腎臓領域の強化に力を注いできたのである。
  • 現在、腎臓内科では急性腎不全、慢性腎不全など腎疾患全般に対し、専門的で総合的な医療を提供している。平成28年より腎移植外来も開始し、連携病院への紹介をよりスムーズに行っている。さらに、同院は日本糖尿病学会認定病院でもあり、糖尿病性腎症については、糖尿病・内分泌内科の医師と連携し、初期の段階から末期腎不全まで、一貫して対応している。

病気を抱える人を
支える医療のあり方。

  • 超高齢社会を迎え、病気を抱えながら生きる人が増えている。病院で提供するのは、〈治す医療〉から〈治し支える医療〉に変わり、さらに、地域の医療は、〈病院中心〉から〈在宅中心〉へとダイナミックに転換しようとしている。
  • 病気を抱えながら生きる人が求めるのは、どうすれば治療を受けながら、より安楽に生活できるか、ということだろう。仕事を持つ人は仕事復帰をめざし、在宅で療養する高齢者はできる限り自立した生活を維持することを望んでいる。
  • 春日井市民病院が進める在宅での透析治療は、まさにそうした患者のニーズに応えるものだ。年齢や病状、家族環境などの条件が揃えば、在宅での透析が可能になる。その場合は院内外の多職種が一致団結し、安全な透析を支援している。こうした同院の在宅支援体制に、これからの時代に必要な医療のヒントが隠されているかもしれない。

Copyright © PROJECT LINKED LLC.
All Rights Reserved.