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LINKED plus 病院を知ろう

地域のニーズに応える
医科歯科連携、その要。

地域からの切望に応え、
ついに誕生。
地域で完結できる
仕組みを創る。

愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院

平成27年に、待望の診療科として開設された、
安城更生病院の歯科口腔外科。
現在、診療科代表部長の服部 宇(ひさし)医師と歯科衛生士2名が、
地域からのニーズに応えようと、果敢な毎日を送っている。

医科と歯科、
その中間に立ち、両者を結ぶ。

安城更生病院歯科口腔外科の外来に、歯科診療所からの紹介患者が訪れた。歯を治療中だが、傷がなかなか治らず、痛みで食事もままならないという。診察すると、顎の骨壊死が原因と判明。この患者は、同院で前立腺がんの治療を受けており、骨転移を抑える薬によって、顎の骨壊死が誘発された可能性が高い。服部はすぐさま泌尿器科に連絡し、一時的な休薬を相談するものの、がん治療を考えると、現段階での休薬は難しいとの回答。服部は、がん治療を優先しつつ、患者の体力を維持・向上させることが重要と考え、壊死部分を大規模に切除するのではなく、まずは、口腔内から排膿させ、痛みを緩和することで食事が取れるようにする治療法を選択した。

外来で複数の紹介患者の診療を終えた服部は、院内の糖尿病内科の医師に連絡を入れる。血糖値が高い状態で抜歯を行うことは、感染症などのリスクが高くなる。そのため、血糖コントロールの計画と抜歯のタイミングを糖尿病内科医師と組み立てるのだ。それが終わると、次は血液内科を訪れた。骨髄移植の前に行った化学療法の影響で、口内炎を発症した患者の治療を一緒に考えるためである。

服部は言う。「一般的に、医科での治療情報は歯科に届きにくく、反対に、歯科の情報は医科に届きにくいです。その点、歯科口腔外科での診断・治療では、医科と歯科両方の知識が求められます。つまり医科と歯科の中間に立つ私にとって、両者を繋ぐことは重要な仕事の一つです」。

そのため服部は、同院赴任と同時に安城市歯科医師会に入り、歯科診療所医師に歯科口腔外科の役割を丁寧に説明した。また、院内の医療関係者には、さまざまな医科の治療が歯、口腔、顎顔面などへどう影響するかについて講演会を開いた。2年が過ぎて、成果が現れつつあるという。「歯科医師会の先生方と、顔の見える関係を築けています。今では、呼吸に問題のある慢性閉塞性肺疾患の患者さんに対し、どの程度の時間であれば口を開けての治療が可能かなど、専門的なアドバイスを求める相談も増えてきました。院内の医師からは、手術などの専門治療を進めるために、歯科口腔外科の視点での見解を求める相談が増えています」(服部)。

服部は、こうした相談への対応だけでなく、医科と歯科双方のやり取りのなかで、いわば翻訳機能を果たし、より円滑な連携が進むよう力を注いでいる。

服部医師の専門は、顎変形症、顎顔面外傷、顎関節症、そして、顎変形症関連として睡眠時無呼吸症候群の外科治療だ。同院の歯科口腔外科開設にあたり、大学病院にいた彼は、自分から赴任を希望したという。「新しいところで、新しいものを、一から創ってみたい」。その思いを一つずつ実現させている。

生命を守る治療、それを支え、
生活の質を守るために。

安城更生病院に歯科口腔外科設置を求める地域の声は、同院の新築移転時から常にあった。だが、なかなか開設は実現しなかった。理由は、病院としての発展である。同院は、安城市の市民病院的な役割を担い、また、西三河南部西医療圏の高度急性期を担う基幹病院としても期待が大きかった。それに応えるべく、医療の質や患者サービスの向上に全力投球。救急搬送件数、外来患者数、手術件数などが急増したのだ。結果、限られた外来スペース、手術室、病床のなかで、同科の設置は難しい状況が続いたのである。

しかし、その間に、医科歯科連携の重要性は年々高まってきた。超高齢社会にあって、食べる機能の維持はもちろん、複合疾患を持つ高齢患者の治療、進展するがん治療、そこで必要となる周術期管理などのさまざまな分野において、口腔機能管理が不可欠になってきたのだ。

そして平成27年、ついに歯科口腔外科が同院に誕生した。コンセプトは、〈小さく産んで、大きく育てる〉。その言葉どおり、常勤は、診療科代表部長の服部と歯科衛生士1名、そして診察椅子は1つである。

小さな世帯だが、服部は外来患者を診療し、入院患者を診療し、さまざまな医師のコンサルテーションにも力を注ぐ。「食は、生きる基本です。病気になれば生命を守るために治療をします。その治療を支え、且つ、生活の質を守るために、歯と口腔機能を、一日でも長く持続させたいと常に考えています」。

服部は、さらに続ける。「私と一緒に赴任した歯科衛生士も、とても頑張っています。研修会にも積極的に参加し、今では後進の指導ができるまでに成長しました。何よりも彼女はコミュニケーション能力が高い。私と彼女が、医科と歯科の、多職種の、そして院内と院外の結節点になって、地域全体を繋いでいき、将来的には、歯科口腔外科に関わるすべての治療を、この地域で完結できるように、発展させていきたいですね」。

服部は、手術前の口腔ケアは、実は、とても重要だと言う。「手術を円滑に進めたり、術後誤嚥性肺炎を防いだり、術後創傷治癒を早めたりできます。今後は、歯科衛生士による新しい形態の口腔ケアチームを作っていきたいですね。歯と口腔のスペシャリティは、もっと広がるはずです」。

  • 「安城市民にとって安城更生病院は、心の支えになる病院です。そこに待ち望んでいた歯科口腔外科が開設され、本当にうれしいですね」。こう話すのは、安城市歯科医師会会長の浅井章夫歯科医師である。同科開設前は、近隣にある病院に紹介せざるを得ず、患者にとっては身体的にも経済的にも負担となっていたという。
  • 「服部先生は、とても熱心な先生です。深夜でも、急を要するときでも、すぐに対応してくださる。歯科医師会の会員にもなられ、例会でのアドバイスをはじめ、症例検討なども行ってくださり、地域全体のレベルアップにも貢献してくださっています。それに、役割分担というのでしょうか、歯科の一般的な診療は私たちを信頼して口を出さず、何かあれば何でも言ってきてください、というスタンスを貫いていらっしゃる。この地域にとって、頼もしい存在ですね」(浅井会長)。
  • 双方の存在理由を、互いが解っての地域連携。今後はさらに深まっていくであろう。

基幹病院の責務の表れ、
〈小さく産んで、大きく育てる〉。

  • 地域のなかで医療を完結させる。地域住民にとってそれは理想であり、また、その理想に向けて診療所や病院は努力を重ねる。とはいえ、理想の実現を一身に委ねられる病院が、地域にとって不可欠な存在であればあるほど、ハード面やソフト面において、そう簡単にはいかないことがある。
  • 安城更生病院の歯科口腔外科開設が、まさにその例であろう。病院としての成長が同科開設を躊躇させたことは、ある意味、皮肉な状況ともいえる。
  • そうした経緯をもって、ついに誕生した歯科口腔外科だが、〈小さく産んで、大きく育てる〉という発想は、できることから確実に応えようとする、同院の責任感の表れといえよう。
  • 安城更生病院の同科設置は、一つの挑戦であり、これから本格的にカタチを作り上げていくのかもしれない。しかし、地域のニーズにすべて応えることを第一義とする医師を中心に、同科は確実な歩みを続けるに違いない。

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