LINKED plus 病院を知ろう
循環器内科、心臓血管外科、
血管外科が一つになって
さまざまな循環器疾患に対応。
一宮市立市民病院
地域はもちろん、遠方からも重症患者が訪れるという、一宮市立市民病院の循環器センター
(循環器内科・心臓血管外科・血管外科)。
愛知県立循環器呼吸器病センター時代(※)からの伝統を受け継ぎ、
常に半歩先を見据えて診療のレベルアップに挑む。そこには、専門医たちの誇りと情熱があった。
※平成22年、一宮市立市民病院と愛知県立循環器呼吸器病センターが統合した。
一宮市立市民病院では、循環器内科、心臓血管外科、血管外科の医師たちが各々の得意分野を活かして連携し、シームレスで統合的な診療を提供している。
循環器内科が得意とするのは、血管にカテーテル(細い管)を挿入して行う心血管内治療。心臓への血流が不足する虚血性心疾患に対して行う経皮的冠動脈形成術(血管を広げる治療)では、年間472例(平成28年)を手がけており、県内有数の実績を誇る。循環器内科医であり、循環器センター長でもある志水清和はその実績について次のように話す。「昼夜を問わず多くの患者さんを診ている結果だと思います。また近年は、体の負担が少ない血管内治療が主流ですが、私たちは〈無理して行わない〉ことを基本にしています。患者さんの安全と生活の質を第一に考え、難しい症例は心臓血管外科に任せています」。
循環器内科から治療のバトンを受け取る心臓血管外科は、6名の医師を擁する充実の構成。虚血性心疾患のほか、心臓の弁がうまく動かない心臓弁膜症や、胸部の大動脈疾患(血管の詰まり、破裂など)に対応。一刻を争う緊急手術を含め、年間100件以上の手術実績を重ねており、良好な結果を維持している。「体外循環(人工心肺)を使用する心臓手術は、常に予期せぬことが起こる可能性があります。その危機をクリアできるのは、長年同じチームで積み上げてきた経験があるからだと自負しています」と、心臓血管外科・部長の齋藤俊英は語る。
心臓血管外科が心臓大血管手術に専念するのに対し、心臓・脳以外の血管疾患全般に対応するのが血管外科である。血管外科の特徴は、カテーテルを用いて人工血管を装着する〈ステントグラフト内挿術〉に力を注いでいること。「ステントグラフト内挿術は切開術に比べ、体への負担を軽減できるのが利点。胸部・腹部の動脈瘤に対して、積極的に適用しています」と、血管外科・医長の森前博文は話す。とくに胸部のステントグラフト内挿術では、心臓血管外科医と一緒に手術室に入る。「万一の場合、即座に心臓血管外科医による開胸手術へ切り替えることができる体制を整えています。この他、足の動脈硬化に対する治療では循環器内科医と一緒になって、より良い治療法を検討しています。循環器センターならではの連携プレーが我々の強みですね」と森前は言う。
志水センター長が治療法選択の基本に据えるのは、リスクベネフィットという考え方だという。「得られるベネフィット(利益)に、どの程度のリスクを払うのか、という見極めが大切。命を救うだけでなく、生活の質を上げるという視点も加え、みんなで納得いくまで議論をして治療法を選択しています」(志水)。
同院の循環器センターの歴史は、旧・愛知県立循環器呼吸器病センターから始まる。「長年にわたり、諸先輩方が積み上げてきた伝統を受け継ぐことが使命だと考えています。たとえば、〈循環器内科医が24時間365日常駐する救急体制〉もその一つです。循環器疾患の多くは時間との闘いですから、院外から駆けつけたのでは間に合いません。常に専門医がいるからこそ、救える命があります。それだけ医師の負担は増えますが、〈この地域の循環器医療は我々が支えるんだ〉という気概を持って取り組んでいます」と、志水は語る。その気概と誇りがあるからこそ、志水たちは常に半歩先を見つめ、診療レベルの向上にも余念がない。「医療技術もデバイスも日々、進化しています。最新の知識・技術をキャッチアップして、今の時代に求められるスタンダードな医療を提供するよう心がけています。また、安全性を確保した上で、新しい治療法も積極的に取り入れています」と齋藤は話す。たとえば心臓血管外科では、MICS(ミックス)と呼ばれる、小さな切開傷による治療法で僧帽弁形成術を行い、良好な実績を重ねている。
そんな循環器センターの医師たちが楽しみにしているのが、いよいよオープンする新棟だ。ここでは、手術室や心臓カテーテル検査室が新設され、ハイブリッド手術室(手術室とカテーテル検査室の機能を兼ね備えた空間)も開設される。ハイブリッド手術室では、高性能なX線撮影装置により、難易度の高いステントグラフト内挿術もよりスムーズに行えるようになる。また、ゆくゆくはハイブリッド手術室を活用して、心臓弁膜症に対する低侵襲のカテーテル治療を行う計画もあり、同センターはさらなる飛躍をめざしている。「心臓移植以外はすべて引き受け、最善の医療を提供できる。そんな循環器センターに成長していくつもりです」。志水は力強い口調で抱負を語った。
心肺停止の状態から無事に心拍を再開できても、結局意識が戻らないことが多い。血流が途絶えた間に脳が障害を受けるからだ。その進行を防ぐために、同院では低体温療法に力を注ぎ、良好な成績を上げている。その根底には「社会復帰できてこそ、本当の救命である」という医師たちの熱い想いがある。
COLUMN
BACK STAGE