LINKED plus シアワセをつなぐ仕事
医師を支え、患者を支える。
成長と達成感が得られる手術室看護という専門領域。
野口建太
医療法人 山下病院
消化器分野の専門病院として知られる山下病院。
消化器外科における総手術件数は、年間400件以上。そのうち、腹腔鏡下手術は75%を超える。
さらに、難易度の高い食道、肝臓、胆のう、膵臓の手術も幅広く手がけ、優れた実績をあげている。
その高度で専門性の高い手術を担当する看護師、野口建太の姿を追った。
その日、山下病院の手術室では、消化器がんを摘出する腹腔鏡手術(お腹に開けた小さな孔から、内視鏡を挿入して行う手術)が行われていた。〈器械出し〉を担当したのは、野口建太看護師。モニター画面に映し出される術野を見ながら、医師が次に使う鉗子(腹腔鏡専用の器具)を先読みするかのようなタイミングで渡していく。小気味いいリズムで手術は進行し、滞りなく終了した。「手術の前に、患者さんの腫瘍の位置、転移の状況などを細かく理解し、頭に入れています。だから、先生が次に何を求めているかを予測して動くことができます」と野口。病院によっては、器械出しは医師の指示に従う補佐役に徹するところも多い。しかし、消化器の専門病院である同院では、医師の熟達した手技に対応できるよう、看護師にも高度な専門知識と技術が要求される。そのため野口は、疑問点があれば、事前に執刀する医師に確認するし、必要な情報は常にメモしている。野口のノートには、疾患や検査データ、手技の手順、器械・器材の種類などがびっしり書かれていた。
手術室看護には、器械出しの他に、〈外回り〉がある。外回りは、器械出し以外に必要な看護全般。手術室の準備、麻酔に使う薬の用意、患者のケアなどを一手に引き受ける。手術ごとに、器械出しと外回りの看護師が1名ずつつく体制だ。
もちろん野口は、外回りでも豊富な体験を積んできた。「外回りで大切にしているのは、患者さんの心に寄り添うことです。当院では手術の前日、当日の2回にわたり、患者さんのベッドサイドを訪問。手術の流れを説明したり、『手術が怖い』と訴える方には、できるだけ不安を解消できるような情報を提供し、『一緒に頑張りましょう』と励まします」。さらに同院では、術後の訪問も欠かさない。手術後に困っていることはないかを聞いて、そこで得た情報を手術室の看護師全員で共有し、次の看護に活かしているという。現在、野口のような手術室看護師は同院に7名。一人が1日に1件、もしくは2件の手術を担当。毎日が緊張の連続である。「緊張感のある現場だからこそ、やりがいもひとしおです。器械出しは医師の手技を支える責任感や達成感、外回りでは患者さんに寄り添い、一緒に試練を乗り越えたという喜びがあります。この仕事はやればやるほど奥深く、向上心は尽きません」と野口は話す。
野口は、同院に入職して2年目になる。大学卒業後、看護師としての経験を広げるために、複数の病院に勤務したほか、保育園の看護師、高校の看護教員などを務めてきた。経歴は多彩だが、病院勤務での配属は、常に手術室を選んできた。なぜだろうか。「大学のゼミで、急性期看護のなかでも、特に専門性の高い手術室看護に興味を持ったんです。技術者だった父の影響もあり、職人的な看護の道を探究したいと考えました」と振り返る。しかし、同じ手術室看護でも、同院に入職した当初は、驚きの連続だったという。「まず、大学病院にも匹敵する腹腔鏡手術のレベルの高さに驚きました。そして、看護師の意識の高さ。たとえば、以前の病院では、手術の細部について先輩に質問しても、それは医師の範疇だから知らなくていい、と言われました。それが、ここでは逆に、看護師が疾患や手技について理解するのは当然で、理解度が低いと教え込まれます。ここまで看護師が手術に関われるんだ、とすごく嬉しく感じましたね」と、笑みをこぼす。
また、そのように看護師が主体的に関わることは、医師を助ける、という以上の目的がある。「看護師がスムーズに器械を手渡すことができれば、それだけ手術もテンポ良く進み、トータルの手術時間も短くなり、合併症のリスクも減ります。ぼくたちの究極の目的は常に、患者さんの安全と安楽の追求にあります」と野口は言い切る。
消化器領域に特化しているからこそ、野口たちは知識も技術も、患者への対応もどこにも負けないというプライドを持って、自己研鑽に努めている。「自分自身の技術を磨きたいですし、後輩の指導にも尽力していきたいですね。消化器専門病院の手術を支えるエキスパート集団として、もっと高みをめざしていきます」(野口)。
手術室看護で、野口が貫いている思いがある。それは、手術をする一員であるという自覚を持つことだ。「手術をするのは医師で、看護師は助手をするという考えは持ちません。たとえば器械出しであれば、自分の目で術野を見て判断し、予測して、次の行動へ繋げています」。その高い目線が、野口をさらなる成長へ誘う。
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